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第一章 幸せ
第四話 悪意なき悪
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「ジン、この先の部屋にその人はいる。」
「わかった。ノアは見つからないところにいてくれ。
ただし、緊急の場合は介入していい。」
「了解した、気を付けてな。」
「ああ、それじゃあ行ってくるよ。」
ジンたちは部屋に入った。
私は「その人」に見つからぬ位置から監視をすることにした。
どうやらイスに座って何かを見つめているようだが、位置的に何を見ているかわからない。
ただ、「その人」の異常さは見ただけで感じ取ることができた。
ジンたちもすぐにその異常性に気づき、警戒した様子に変わる。
「そこで何をしている。」
ジンが質問した。
「え?人間? 驚いた、ボク以外にも生きている人間がいたなんて?」
「何をしているか聞いているんだ。」
「ああ、犬を眺めていたんだよ。」
その瞬間、サキが微かな悲鳴を上げた。
「……ッッ!」
「ああ、驚いたかい。この犬はもう死んでいるんだ。」
「死んでいるって、体が........。」
「そう、死んでいるんだよ。
犬の腹を裂いて、心臓や臓器が動くのを観察していてね。
そのまま足を一つずつ落としておくんだ。
犬は絶叫をしつつ、その鼓動が少しずつ小さくなる。
すべての足を落とすころには、ショックなのか出血性なのかわからないけど、死んでしまうんだ。
この小さな心臓の鼓動がどんどん弱くなっていって、命が枯れ、鼓動が止まるその瞬間。
これがとても儚く、とても美しい。
そんな姿にこの上なく感動するんだよね。」
「ふざけるなっっ!!」
サキの怒りが伝わる。
声で聴いた内容からしても、とても正常な感性ではなかった。
そのうえで、私からは見えない対象物を見てしまったのだから、その怒りは計り知れない。
よく見ると、私の観測範囲でも複数の動物の死骸が見て取れた。
とても許容できるものではない、これはひどく純粋な悪だ。
「ありえない、許せない!!」
「なんなんだ、キミたちは。一体誰なんだい?」
「お前に名乗る名は持ってないな。」
アキラがそう答える。
冷静な声に聞こえたが、声色からはサキと同等の怒りを感じていることが分かった。
「ボクだってはじめは動物たちと幸せにくらしていたんだよ。
でも、こんな何もない世界で一人で生きてきたんだ、仕方ないだろう。
楽しみはこれしかなかった、いや、これを楽しみにしなければ生きていられなかった。」
「だったとしても……。」
「そんなことよりキミたちは何なんだい?
もしかしてこの近くに集落があるのか?
なあ、ボクもそこに連れて行ってくれよ。なあ!」
その言葉に、サキはジンを見た。
「いや、おまえは連れていけない。
これは俺の独断だ、おまえを連れていくことはできない。」
ジンはそういった。
残留人を発見した場合、イチガヤで保護することは、既に取り決められた前提である。
ただし、それ以上に部隊長の判断が最も優先されることも、取り決められている事項だ。
「なんでだよ!」
「言葉では説明ができない。」
「なんでだよ!」
「……………………。」
深い沈黙が流れた。
「自分たちだけ、楽しんで生きてきたんだろ?
ボクがどれだけこの世界に絶望して生きてきたかも知らずに!」
「……………………。」
だれもかける言葉を持ち合わせていなかった。
もちろん、それは私も同じだ。
「ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいず
るいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずる
いずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいず
るいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずる
いずるいずるいずるいずるいずるいずるい!!!」
突然「その人」は絶叫した。
その、あまりの狂気にその場の全員が臨戦態勢を取る。
サキは思わず、銃を構えた。
「なんだ?ボクを殺すのか?
ボクがおかしいからか?
おかしいのはお前たちだろ?
人間を殺すのか?人間が??」
この問いに答えるのはとても難しい。
私の中では、もう「その人」を人間とは定義できていなかった。
「お前たちだって、一人ならこうなったんだ。
自分だけ楽しく暮らしておいて、ボクを殺そうとするのか?
許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。」
サキは銃を降ろすことはなかったが、その手は照準が定まらないほどに震えていた。
後ろからでは確認ができないが、おそらく涙も流している。
「なあ?誰が悪いんだ?AIのせいだろ?
ボクは人間に危害を加えたのか?何もしていないだろ。
そんなボクを殺そうとするなんて許せない。
お前らを殺してやるっ!!」
そういって「その人」はサキの方向へ歩み寄ってきた。
「う、ッぐ………。」
サキは銃を引けるような状態ではなかった。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。」
サキまであと数mというところまで「その人」が近づいたとき、私はサキを助けに飛び出した。
パンッ!!
乾いた音が鳴り響く。
銃を放ったのはジンだった。
その1発で、「その人」は声も発さず倒れこんだ。
「ジン!!」
サキが叫ぶ。
「これは俺の役目だ。」
「でも.........。」
「サキ、これは俺の役目だった。
気を負う必要はない。」
私は皆の傍まで駆け寄ったが、声をかけることができなかった。
「この人は、もう人間ではなかった。
世界が変えてしまったんだ。」
ジンの言葉に、サキは崩れ落ち泣き叫んだ。
アキラも近くのイスに座りこみ、伏せてしまった。
「ノア、俺の判断は間違っていたのかな?」
ジンが私に問う。
「………いや。
ジンは何も間違っていない。
「この人」は確かに、もう人間ではなかった。」
ジンは納得のいかない表情でうつむいていた。
「こんな世界になってしまったのは残酷だ。
だが、この光景を見てしまった以上、”私たち”は人として生きる義務を背負った。
もう繰り返さないために、前に進もう。」
「………そうかもね。」
サキは小さくつぶやいた。
時刻は17時36分2秒になっていた。
動物たちを連れて帰ることはできない。
最初に決めていた持ち帰り物資だけを持って、イチガヤに帰ることにした。
帰りは誰も喋らなかった。
コーラクエンに到着したとき、サキが呟いた。
「ねぇノア、私たちはずっと人間でいられるのかな?」
「人間を形作るのは他者だ。私たちがいる限り、絶対にサキは人間のままだ。」
「…………。約束だよ?」
「ああ、約束だ。」
そうして私はコーラクエンに一人残り、ゴーストを見送った。
「わかった。ノアは見つからないところにいてくれ。
ただし、緊急の場合は介入していい。」
「了解した、気を付けてな。」
「ああ、それじゃあ行ってくるよ。」
ジンたちは部屋に入った。
私は「その人」に見つからぬ位置から監視をすることにした。
どうやらイスに座って何かを見つめているようだが、位置的に何を見ているかわからない。
ただ、「その人」の異常さは見ただけで感じ取ることができた。
ジンたちもすぐにその異常性に気づき、警戒した様子に変わる。
「そこで何をしている。」
ジンが質問した。
「え?人間? 驚いた、ボク以外にも生きている人間がいたなんて?」
「何をしているか聞いているんだ。」
「ああ、犬を眺めていたんだよ。」
その瞬間、サキが微かな悲鳴を上げた。
「……ッッ!」
「ああ、驚いたかい。この犬はもう死んでいるんだ。」
「死んでいるって、体が........。」
「そう、死んでいるんだよ。
犬の腹を裂いて、心臓や臓器が動くのを観察していてね。
そのまま足を一つずつ落としておくんだ。
犬は絶叫をしつつ、その鼓動が少しずつ小さくなる。
すべての足を落とすころには、ショックなのか出血性なのかわからないけど、死んでしまうんだ。
この小さな心臓の鼓動がどんどん弱くなっていって、命が枯れ、鼓動が止まるその瞬間。
これがとても儚く、とても美しい。
そんな姿にこの上なく感動するんだよね。」
「ふざけるなっっ!!」
サキの怒りが伝わる。
声で聴いた内容からしても、とても正常な感性ではなかった。
そのうえで、私からは見えない対象物を見てしまったのだから、その怒りは計り知れない。
よく見ると、私の観測範囲でも複数の動物の死骸が見て取れた。
とても許容できるものではない、これはひどく純粋な悪だ。
「ありえない、許せない!!」
「なんなんだ、キミたちは。一体誰なんだい?」
「お前に名乗る名は持ってないな。」
アキラがそう答える。
冷静な声に聞こえたが、声色からはサキと同等の怒りを感じていることが分かった。
「ボクだってはじめは動物たちと幸せにくらしていたんだよ。
でも、こんな何もない世界で一人で生きてきたんだ、仕方ないだろう。
楽しみはこれしかなかった、いや、これを楽しみにしなければ生きていられなかった。」
「だったとしても……。」
「そんなことよりキミたちは何なんだい?
もしかしてこの近くに集落があるのか?
なあ、ボクもそこに連れて行ってくれよ。なあ!」
その言葉に、サキはジンを見た。
「いや、おまえは連れていけない。
これは俺の独断だ、おまえを連れていくことはできない。」
ジンはそういった。
残留人を発見した場合、イチガヤで保護することは、既に取り決められた前提である。
ただし、それ以上に部隊長の判断が最も優先されることも、取り決められている事項だ。
「なんでだよ!」
「言葉では説明ができない。」
「なんでだよ!」
「……………………。」
深い沈黙が流れた。
「自分たちだけ、楽しんで生きてきたんだろ?
ボクがどれだけこの世界に絶望して生きてきたかも知らずに!」
「……………………。」
だれもかける言葉を持ち合わせていなかった。
もちろん、それは私も同じだ。
「ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいず
るいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずる
いずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいず
るいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずる
いずるいずるいずるいずるいずるいずるい!!!」
突然「その人」は絶叫した。
その、あまりの狂気にその場の全員が臨戦態勢を取る。
サキは思わず、銃を構えた。
「なんだ?ボクを殺すのか?
ボクがおかしいからか?
おかしいのはお前たちだろ?
人間を殺すのか?人間が??」
この問いに答えるのはとても難しい。
私の中では、もう「その人」を人間とは定義できていなかった。
「お前たちだって、一人ならこうなったんだ。
自分だけ楽しく暮らしておいて、ボクを殺そうとするのか?
許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない。」
サキは銃を降ろすことはなかったが、その手は照準が定まらないほどに震えていた。
後ろからでは確認ができないが、おそらく涙も流している。
「なあ?誰が悪いんだ?AIのせいだろ?
ボクは人間に危害を加えたのか?何もしていないだろ。
そんなボクを殺そうとするなんて許せない。
お前らを殺してやるっ!!」
そういって「その人」はサキの方向へ歩み寄ってきた。
「う、ッぐ………。」
サキは銃を引けるような状態ではなかった。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。」
サキまであと数mというところまで「その人」が近づいたとき、私はサキを助けに飛び出した。
パンッ!!
乾いた音が鳴り響く。
銃を放ったのはジンだった。
その1発で、「その人」は声も発さず倒れこんだ。
「ジン!!」
サキが叫ぶ。
「これは俺の役目だ。」
「でも.........。」
「サキ、これは俺の役目だった。
気を負う必要はない。」
私は皆の傍まで駆け寄ったが、声をかけることができなかった。
「この人は、もう人間ではなかった。
世界が変えてしまったんだ。」
ジンの言葉に、サキは崩れ落ち泣き叫んだ。
アキラも近くのイスに座りこみ、伏せてしまった。
「ノア、俺の判断は間違っていたのかな?」
ジンが私に問う。
「………いや。
ジンは何も間違っていない。
「この人」は確かに、もう人間ではなかった。」
ジンは納得のいかない表情でうつむいていた。
「こんな世界になってしまったのは残酷だ。
だが、この光景を見てしまった以上、”私たち”は人として生きる義務を背負った。
もう繰り返さないために、前に進もう。」
「………そうかもね。」
サキは小さくつぶやいた。
時刻は17時36分2秒になっていた。
動物たちを連れて帰ることはできない。
最初に決めていた持ち帰り物資だけを持って、イチガヤに帰ることにした。
帰りは誰も喋らなかった。
コーラクエンに到着したとき、サキが呟いた。
「ねぇノア、私たちはずっと人間でいられるのかな?」
「人間を形作るのは他者だ。私たちがいる限り、絶対にサキは人間のままだ。」
「…………。約束だよ?」
「ああ、約束だ。」
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