きみがヒトと呼んだ、鉄屑に

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第二章

第四話 閉じた青空

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私たちはカンナと一緒に体育館へ帰った。
中に入ったところで、ヨシダさんと出くわす。

「おお、サキ。アキラ。よく来てくれたな、いつもありがとう。
 さっきキミたちを見かけたって話を聞いてな。
 カンナがいなかったからカンナ畑にいるだろうと、外に出ようと思っていたんだ。」
「ヨシダさん、久しぶり!今日は調査の報告も兼ねているよ。」
「おお、そうか。じゃあ中に入って話を聞かせてもらおうか。
「サキ、話は俺がやっとくけど、カンナと遊んでおくか?」
「じゃあ、お言葉に甘えて!」
そういってヨシダさんとアキラは奥の部屋に向かって行った。

「そういえばカンナ、さっきは何していたの?」
「おそらをかいていたよ。」
カンナの指差した先には、体育館の壁面に青色が塗られていた。

「へぇ~。青空を描いていたんだ。」
「そう、さきおねえちゃんがおしえてくれたそらをつくったの。」
カンナは青空を知らない。この世界でもたまに青空を見ることはあるけど、屋外で活動している私でも数えられる程度しかない。そんな青空を、カンナは前に話したイメージで作り上げたみたい。
まあ、青色が塗られているだけなんだけど、この不器用な青い壁面を見ているとなんだか懐かしくなる。

「カンナはやっぱりすごいね~。」
「いつもありがとう!」
謎の感謝の言葉に、私は胸を撃ち抜かれた。
それはかわいさが過ぎる。

「サキちゃん!」
振り返るとアオイちゃんがいた。
アオイちゃんは居住区に住んでいて、歳が近いと思い話しかけてできた友達だ。
実は同い年だとわかって、一層仲良くなった。

「アオイちゃん!久しぶり!」
「久しぶり!調査、いつもありがとうね。」
「いえいえこちらこそ!カンナのお世話をありがとう!」
アオイちゃんとはカンナ親衛隊を結成している。
私は遺物回収班として必要物資を調達し、アオイちゃんは居住区の生活班としてカンナの面倒を見ている。
アオイちゃんの教育がいいから、カンナはいい子に育ったんだ。
最近は文字の読み書きも練習しているらしい。

「クロダさんには報告したんだけど、ヒロさんが自殺したの。」
「ヒロさんが?!」
自殺の情報を知っていても、驚いた。
ヒロさんはいつも気さくなお兄さんという印象で、親しみやすい人だった。

「遺書があったんだけど、この世界で生きていく意味がわからなくなったって。」
「………そう。」
ふと、サンシャインシティを思い出す。
生きる意味を無理やり見つける人も、見つけられず絶望する人もいる。
カンナを生きがいにできた私たちは、とても幸運なのかもしれない。


「それで、今の居住区の住民は63人になったの。
クロダさんが報告してくれると思うけど、サキちゃんにも伝えとくね。」
「ありがとう。
じゃあとりあえず、持ってきたナノマシンとかを置いたらみんなで遊ぼっか!」
そういって、倉庫に向かう。
63人が住む空間で、生活水を作るには多くのナノマシンが必要になる。
ジョエンにもナノマシンを補給するので、消費量はイチガヤで使うより多い。
イチガヤには大量のナノマシンがあるけど、今のペースだと5年後にはなくなるらしい。
サンシャインシティで数年分を見つけたけど、それも終わりが見えてしまう。
何か変わらなければ。
早めに他の区域にも調査を広げないといけない。

そんなとき、周囲の目線が刺さった。
中年を越えた人たちが私を疎むような眼で見ている。
ヨシダさんから聞いた話だと、AIの作ったナノマシンを体に取り込んだことを禁忌だと考えている人が一定数いるらしい。
自分たちが飲んでいる水も、ナノマシンだということも理解せずに。
居住区はシェルターじゃない、体育館だ。
いくら屋外に出なくても、放射能の影響を受けている。
影響が出ないのは、ナノマシンを含む水を飲んでいるからで、それは私と何も変わらない。
そのことを考えようとしていないだけなのか、本当にギョエンの神秘だと思っているのか。
そもそも、私たちが運ぶ物資がなければ生きることもできないのに、私たちを疎む矛盾に気付けない。
それがどうしても理解できなくて、いつも嫌な気分になる。


「サキちゃん、ごめんね。」
「アオイちゃんが謝ることじゃないよ。」
感情が顔に出ていたのか、アオイちゃんが言った。
まあ、私が調査に行き、物資を運ぶのはカンナやアオイちゃんのような、理解してくれる人のためだから、実はそんなに気にしていない。
自分ができることをやる、それだけだ。
とはいえ、睨まれる心地は悪い、それは顔に出ても許してほしい。
そう考えながら物資を置いたところで、アキラたちが帰ってきた。

「サキ、今から集会やるってさ。」
サンシャインシティが見つかったことを報告したら、どんな顔をするんだろう。


集会はすぐに始まった。
みんな居住区の中にいるから、すぐに集会ができる。
集まらないのは、トイレに行っていた人くらいだ。

「え~、それでは集会を始めます。
 今日は、いつも物資を運んでくれている星屑拾いの方から嬉しい報告があります。
 ではアキラくん、お願いします。」
区長がアキラに繋いだ。

「はい、みなさんこんにちは。星屑拾いのアキラです。
 先日、イチガヤから北方面を調査し、サンシャインシティを見つけました。」
その言葉にぽつぽつと声が上がっている。
おそらく戦争前に行ったことのある人も多いのだろう。
カンナの頭の上にはハテナマークがついているのがわかった、かわいすぎるだろ!

「そして、サンシャインシティには多くのナノマシンや保存食があることも確認できました。
 イチガヤでは、サンシャインシティをバックアップサイトと認定し、ギョエンが見つかった際などに移り住める、第二の居住区にしようと検討しています。」
その言葉に、今度はおおーーー!と歓声が上がる。
見る限り8割くらいの人は喜んでいる。
当たり前だけど、私たちを疎む人はマイノリティーだ。
カンナはみんなに合わせて右手を掲げている。

「でも、サンシャインシティは本当にギョエンより安全なのかしら?」
さっき私を睨んでいたおばさんが言った。
今住んでいるここが安寧の地とでも思っているような口ぶりだ。
そんな話はしていないのに。

「うーん、安全かどうかと言われるとわからないな。
 でもギョエンも安全であるとは言い切れない。
 移住する候補が見つかったことが、重要なんじゃないかな?」
「そこは住みやすいの?」
「いや、それはギョエンの方が住みやすいと思う。
 サンシャインシティは、あくまでバックアップサイトだ。」
「なら、私は行かないわ。」
感じが悪い言い方だった。
こんな世界になっても、手を取り合えない人は存在しているんだ。

「まあまあ、アキラくんの言う通りかもしれませんが、大事なことは可能性が増えることです。
 まだ移り住むわけでもありませんし、文句を言うのはお控えください。
 それでは、調査をしてくれた星屑拾いの方々に拍手をしましょう。」
区長のおかげで嫌な気持ちが少し消えた。
もしかしたら、カンナが壁に描いている青空のおかげかもしれない。
あ、やっぱりアキラが矢面に立ってくれただけかも。

でも、ほとんどの人たちは私たちに感謝をしてくれている。
これは私たちが目を瞑れば、それで済む問題だ。


そうして、集会で報告するミッションも終えた。
今日は昼から来たこともあり、もう暗くなり始めていたのでイチガヤに帰ることにした。
「さきおねえちゃん、もうかえるの?」
「うん、今日はちょっとだけしか来れなくてごめんね。また来るね。」
「うん、またきてね。あきらおにいちゃんもばいばーい。」
「おう、またな!」
そうしてアキラと共に外にでる。

「なんだか複雑な気持ちだな。」
ギョエンを越えたあたりでアキラが言った。
私はその本心に少しほっとした気持ちになる。

「まあね、でも私たちを必要としてくれる人がいるなら、頑張りたいじゃん?」
「そうだな、その通りだ。まあ、しばらくはゆっくりさせてもらうけどな。」
カンナと一緒に青空の下で遊べるような世界になるといいなと、そんなことを考えながら帰路についた。

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