きみがヒトと呼んだ、鉄屑に

lifinside

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第三章

第一話 消えゆくもの

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ーーーーーー

『ノア、どんなに窮地に陥っても、仲間を見捨ててはいけないよ。』
「でも、私が計算するに、自分だけ生き残ればチームとしての生存確率は67.3%だけど、
味方を守るため敵の中に突撃すればそれは2.7%までに低下するよ。」
『ノア、ちがうよ。自分だけ生き残ってもダメなんだ。人間は一人では生きていけないんだよ。』

ーーーーーー

外は雨が降っていた。
コーラクエンの地下にいても、その音は壁を、コンクリートを透過して響いてくる。
ここはかつて、無数の人間の「熱狂」が渦巻いていた場所。
今はその残骸が、とても儚く残っているだけだ。
酸性雨の雨が降るたび、これらはさらに朽ち果てていくだろう。
盛者必衰、驕るもの久しからず。
私に記録されている古い言葉が、頭に浮かんでは消えていった。

2044年4月25日 完璧な世界で初めて暴力行為が観測された。小動物に対する暴力だった。
2044年5月16日 暴力行為は人間に伝搬した。
2044年6月1日  集団による暴力行為が観測された。
2044年6月26日 止まらない暴力行為に対し、エグザスに救済を求める人々があふれた。
2044年7月2日  エグザスの指示により、対話のみで暴力を解決しようとした人間が殺害された。
 完璧な世界における、初の殺人事件となった。

そこからは、指数関数的なスピードで世界に亀裂が生まれる。
2044年7月14日 暴力行為に対する抑止力を暴力として活動する団体が登場。
2044年7月29日 小規模な組織同士による戦闘が発生。初めて兵器の使用が確認された。
2044年8月8日  人間同士の戦争が開始された。
2044年8月13日 過激派武力組織を制圧するため、ミサイルの使用を観測。
2044年8月20日 多くの民間人を犠牲にしたテロ行為を観測。

そしてついに、エグザスは決断する。
2044年9月2日  エグザスが人類に対し、抹殺を宣言、人類との戦争を開始する。
2044年10月21日 人類は手を取り合い、エグザスに対抗するため、人類同盟軍を結成。 
2044年12月25日 エグザスを破壊するため、世界に核を放った。

これが私の知る人類の歩んだ道。
人類は幸せに飽きてしまった。
この場合、どちらが盛者だったのか、その答えをもはや知る由もない。


現在は2050年8月25日6時47分
私はこの世界でできることを探す必要がある。それがユイとの最後の約束。


私は今はゴーストの一員である。
サンシャインシティでの悲劇を見るに、仲間を守るための「力」が必要になる可能性は高い。
私は基本的に生身ひとつで、回収した物資を持つくらいしか物を持つことはないが、ジンやサキを含め、ゴーストのメンバーは全員が拳銃を持っている。
今後は私も拳銃を持っておくべきだろう。
幸い、この世界では欲しいものは全て手に入っていた。
私も拳銃を持ち、戦う力を身に着けるくらいたやすいだろう。
コーラクエンでの考え事はまだ整理できていないが、ひとまず行動に移すことにした。

地下鉄を抜けた時、雨は上がっていた。
雨は降水回数自体は多いが、長く降ることもあれば短い時もある。
降雨を記録してから39分9秒。
考え事をしていて雨の降り始めを記録した時刻は正確ではなく、降り終わりも正確ではない。
これは記録として参考データとして残しておく方がいいだろう。

この国に落ちた核は5つを確認している。
世界ではいくつ落ちたかわからないが、それでもこの星の活動は停止していない証拠だ。
科学的なシミュレーションによれば、世界で核が300個程度使用されば人類は滅亡する。
完璧な世界になる前の経済的な数値から算出するに、この国で5つであれば、世界に放たれた核はおよそ125個程度であると推測できる。まだ、核の冬に到達していないことから、あながち間違いではない数量であるだろう。

この国に落ちた核のうち一つはタテヤマに投下された。
その影響で、この周辺は異常気象とも呼べる天候になっているものの、人類が死に絶えるほどの気候にはなっていないという状態だ。

酸性雨の雨は直接受けると危険だが、少量の雨であれば靴を履き、水たまりを避けていれば大した被害にはならない。
そうして私はアキバの街を物色する。
ここは、かつて欲望と電子のるつぼ。
アキバには、すべてが存在すると呼ばれていたほどだ。
武器を探すならここより他はない。
問題は、保存状態だけか。

ガイガーカウンターがアラームを発する。
後楽園から2kmしか離れていないのに、放射能濃度はなかなか差がある。
できるだけ、早めに用件を済まそう。
そして、最初の目的はすぐに達成された。

――――『ノア、今日はFPSやるよ!』
ユイとの会話が思い出される。
あの試合は惨敗で、二人で笑い飛ばした。

『ノア、武器を発見した!  ここはやっぱり、S&W M19だね。』
「いや、H&K MP5がいい。連射性能、装弾数、反動制御、あらゆるパラメータで、サブマシンガンが有効だ」
『威力については?』
「単発の威力だと、たしかにM19がMP5を、51%上回る。
でも、連射性能を加味した、DPSにおいては、MP5がはM19の4倍以上あるはずだ。」
『それじゃあ、やっぱりM19だね。』
ユイは、迷うことなく、旧式のリボルバーを、選択した。 私には、理解できない、非合理的な、判断。
「ユイ、リボルバーは、連射も効かない。装弾数も、わずか6発だよ?」
『ノア~、ロマンがないんだよ。
 リボルバーの方が、かっこいいだろ?
 それに、一発一発、敵を、確実に、狙えばいいだけさ。
 そこに、魂を込めることで、人は、成長するんだ!
 サブマシンガンなんて使ってたら、成長しないよ』
「.......たしかに、カッコよさだけは、同意できるかな。」

――――

完璧になった世界において、武器ショップは一部の愛好家のための展示会のようになっていた。
保存状態にばらつきがあるが、そのほとんどはまだ使用可能な範疇だろう。
一通り銃を眺めたあと、私は迷うことなく一丁の拳銃を手に取った。

「やはり、S&W M19がかっこいいな。」
そうつぶやき、私はホルスターを装着し銃をしまった。
初めてつけたが、想像以上にしっくりくる。
弾薬も多量にあったが、ひとまずはバッグに入る分だけでいいだろう。

調達は、銃だけでも良かったが、何かもう一品欲しい。
そんなとき、またユイがやっていたゲームが頭を駆け巡る。
それは、一人の少年が世界の危機を解決するために冒険する物語。
自分がどこからきて、何のために生まれたかも知らず、それを探し求める主人公たちの冒険。
ユイはそれを、私みたいだと表現した。

私はそれを思い出し、二振りのダガーを手に取る。
そのダガーも腰に吊るし、戦闘準備は完了した。
戦闘になった場合、私の腕前があれば銃だけで事足りるだろうが、ダガーがあれば何かと便利だろう。
これがあれば、いちじくを手でちぎる必要もない。


そういえば、サンシャインシティの調査でサキやアキラはお土産を持って帰っていた。
私単独の調査は、ゴーストに加入して以来初めてだった。
せっかくなので、ジン、サキ、アキラにお土産を持って帰ろう。

何かいいものがないか探していたところ、オイルライターを発見した。
核が落ちる前までは、電気による発火装置が主流となっており、ガスやオイルによる発火装置を見かけることは少なくなっていた。
電気がないこの世界において、それらはもう意味を成さなくなってしまった。
オイルライターは小型で可搬性もいいが、希少性は高いはずだ。
少なくともゴーストで所持している話を聞いたことはない。

ジンは火を起こすのが得意だが、キャンプ用品を使っている。
雨が多いこの世界では、着火が難しく、火を起こすことは容易な作業ではなかった。
ジンならこれで喜んでくれるだろう。

そして、サキのお土産もすぐに決まった。
多数のバングルが散らばっているのを発見したからだ。
サキはゴーストの紅一点だが、お洒落に対する感覚はおそらくない。
サキ自身に華やかさはもちろんあるが、アクセサリーの類は一切身に着けておらず、少し控えめな印象になる。
サンシャインシティでは銃を構えた時、手が震えていて撃てなかった。
バングルを付けていれば、それが目に入り、気持ちを落ち着かせられるかもしれない。

いくらか探してみて、ゴールドで細身のバングルがよさそうだと考えた。
そして、薄いピンク色の宝石がついているゴールドのバングルを発見する。

「これは、ローズクォーツか?」
サキは花が好きだと前に聞いた。
ローズクォーツは希少な宝石ではないが、バラの花を関するこの宝石ならサキに適切だ。
これ以上のバングルは見つからないだろう、決まりだ。

最後に、アキラへのお土産を考える。
アキラが喜ぶお土産は、一番推察が難しかった。
アキラ自身については、まだ理解している部分が少ない。

そういえば、アキラは回収する遺物を一般的にはガラクタと呼ばれてしまうような、生活には必要ないものを持ち帰ることがある。
サンシャインシティではハーモニカを持ち帰っていた。
小さなだるまや木彫りの熊を持ち帰っていたのも記憶している。
もしかすると、特産品を集めているのかもしれない。

そんなとき、大きな王将の将棋駒が目に入った。
とても存在感のある置物だ。
まるでこれしかないと思わせるほど、奇妙な感覚を覚えた。

「王将か。これはヤマガタの特産物だろう、悪くないか。」
手に取り裏を見ると【慶長五年九月十五日、ハセドウ】と彫られている。
ハセドウはヤマガタにある地名だ、やはり特産物。
これを贈り、特産物を集めているか聞いてみるのがいいだろうな。

そうして、武器とお土産を携え、コーラクエンへ戻ることにした。
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