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第三章
第二話 かすかな光
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コーラクエンに戻って4日。
お土産を持って帰ったものの、自らイチガヤに行けないため、ずっとコーラクエンに待機していた。
私は、今後の活動方針を考え、ゴーストの方針に従うという結論を導いたのち、オルゴールのねじを巻いた。
このオルゴールはユイが好んで聴いていたものだ。
私も聴いているうちに、この曲を好きになった。
そのことを告げると、ユイは私にそのオルゴールをくれた。
初めて何か感受性のあるものを好きになった証だと言って。
いっしょにやったゲームや、会話の端々に私の好みは現れていたが、確かに音楽を聴いてそれを好きと感じるのは初めてだった。
今でも私は、このオルゴールをたまに聴いている。
その時、生体反応を検知した。
南側から2人、ゴーストだろう。
やっと来てくれたか。
「やあ、ノア。久しぶりだな。」
ガイだった。
その後ろにはサキもいる。
「ああ、久しぶりだ。元気だったか?」
「ははは、元気だよ。ノアも元気そうでよかった。
またオルゴールを聴いていたのか。」
「そうだ。このオルゴールを聴くか、考えることしかやることがないからな。」
「確かにな。俺もイチガヤでは体を鍛えるくらいしかやることがない。」
ガイはにこやかに笑う。
ゴーストの隊長であるガイは、身長175mでそこまで大きいというわけではない。
ただ、体付きはしっかりしていて、身体能力が高いことがうかがえる。
体の芯がぶれず、体幹が非常に強い。
そして、腰に携えている日本刀。
使っているところは見たことがないが、調査ではいつも持ち歩いていることから、武術の心得があるはずだ。
「まあ、こうしてノアの下に来れたのも先日の調査が終わり、休暇が出たからだ。
しばらくは身が楽になっている。」
「そうか、隊長ともなると仕事は多そうだしな。」
「そうでもない、俺たちが調査に行くときは半数をイチガヤに残す決まりになっている。
何かあったときに対応できるように。
ただ、俺とジンは必ず一方が残ることにしているんだが、最近はジンがやる気になっていてな。
俺が残ることが多くなっているんだ、忙しいわけではなくてな。」
「なるほど、確かに最近はずっとジンと調査していたな。」
「ああ、みんなノアに会いたいんだろう。」
そういってガイは笑った。
常に最悪の結果を想定しているらしい。
ガイとジンの両方を失ったとき、精神の支柱が
「ノア、久しぶり。そのオルゴールはなに?」
オルゴールは何という質問、どこで拾ってきたのかということだろう。
ガイやアキラは私がオルゴールを聴いているところを見たことがあるが、サキは初めてだったか。
「これは昔もらったものだ。」
「へえ、ノアも音楽を聴くんだ。意外。」
「そうだな、音楽は聴くが、このオルゴール以外は聴かないな。」
「そんなにいい曲なんだ、私にも聴かせてよ。」
そう頼まれ、私は改めてオルゴールを聴く。
「すごくいい曲だね。なんというか、儚い?
でもなんか、きらめき?明るさもあって、とても素敵。」
この曲はマイナーキーが基調になっており、それゆえの切なさが醸し出されている。
そこに、アドナインスのようなテンションノート、特に型にはまらない音を加えていくことで独特の旋律を奏でている。
それは不協和音と認識できるが、不思議と心地よく感じる。
まるで浮遊した感覚になり、儚さの中にきらめきを持たせ、切ないと認識するはずなのにどこか希望をイメージさせている。
しかし、ジャスやクラシック、ロックなど、どのジャンルにも当たらないこの曲を、論理的に解釈するのは野暮というものだ。
「ああ、ほんとうにいい曲だ。」
「俺もしっかり聴くのは初めてだが、とても心地がいいな。
ノア、それは何という曲名なんだ?」
ガイの質問に気付かされる。
私はこのオルゴールの曲名を知らなかった。
「そういえば、知らないな。」
そういって箱を見ると、底にひどく擦れた文字があるのをガイが気付いた。
「V,,A,,N..I..S..H..I..N..G..。バニッシングか?」
「VANISHINGか、曲名とするなら、消えゆくもの、というところか。」
「消えゆくものか、確かにそうだな。
だが、俺はこの曲からわずかに希望を感じる。
いつ消えてもおかしくない、俺たちのようなわずかな希望。
かすかな光と解釈するのはどうだ?」
「………!!
ガイ、思っている以上に、詩的なんだな。」
そういって私は驚いた。
確かに、この曲を作った人は、間違いなく暗い曲のなかにきらめきを意図した音を重ねている。
ガイの以外な感受性にも驚くが、かすかな光という解釈はこれ以上ないほど合致している。
ガイは私の驚きに対し、笑っていた。
私は少し放心状態になりつつ、あることを思い出した。
「そうだ、ガイの話を聞く前に渡したいものがある。」
そういって私はバングルを取りにいった。
「4日前にアキバに行った。その時にいくつか遺物を回収したんだ。
これはサキへのお土産だ、つけてみてくれ。」
サキは一瞬、戸惑ったように見えた。
間違いなく喜んでいるが、まるで自分には不釣り合いな物と認識したかのように。
2秒の間があった。
「…………綺麗。私にくれるの?」
「ああ、サキはこういうものを持っていないだろう?
つけてみるといい。」
そういうとサキはバングルを受け取り、右手に着けた。
「わああ、本当に綺麗。
嬉しい、ありがとう。大事にするね。」
先ほどの違和感はなくなり、全力の笑顔でそう答える。
「そう言ってくれると私も嬉しいよ。」
「なんか、ピンクの宝石もあるね?」
「それはおそらくローズクォーツだ。サキは花が好きだと言っていたから花の名を冠する宝石のあるものがいいと思って探したんだ。」
「探してくれたの?!すごく気に入った。
ほんとうにありがとう。ずっと着けておくね、ノア!」
想像以上に喜んでくれた。
贈り物はいいな。きっとカンナに贈り物をしたくなる理由もこの気持ちだろう。
「ジンとアキラの分もあるんだが、すまないがガイの分はない。
全員分を持って帰る余裕がなかったんだ。」
本当は、サンシャインシティでの出来事を上書きできるよう考えたもので、メンバー全員に贈る想定はなかった。目的が明確だっただけに、全員に贈り物をする考えは最初からなかったのだが、それは私の思考が、全員分を探すという思考ができるほど余裕がなかったと解釈した。
あれは、私にも思考力を低下させるような、重大なイベントであったのかもしれないな。
「いや、気にしないでくれ。
むしろノアがみんなに贈り物をしてくれた気持ちだけで十分だ。ありがとう。」
ガイはそう言った。
ガイはゴーストでの父親的な存在だ。
いや、本人もそうあろうと努めているはずだ。
核がタテヤマに落ちた時、住民は避難勧告も通知も一切なかったらしい。
それはエグザスに悟られぬよう秘密裏に仕掛けられたものだろうが、国民もろともすべてを焼き尽くした。
まさに国家による自国民の大量虐殺と呼べる非人道的な作戦だ。
何も知らされず、核の炎に包まれたまさに極限状態と言える街の中で、ガイやジン、トウゴウは危険を顧みず人民の救助を行っていたらしい。サキもその時救った1人だと以前に話してくれた。
それもあり、イチガヤや居住区には、肉親がいる人はいないらしい。
そうした背景もあり、ガイは皆の父親であろうとしている姿勢が多く伺える。
ガイの贈り物がないにも関わらず、ここまで純粋に感謝を述べる精神性は私も多く学ぶべきものがある。
間違いなく人格者であり、まさしく人の上に立つべき器だ。
この世界でお互いの背中を託し合える関係は、言葉にするほど簡単に作れるものではない。
「ガイ、ジンとアキラの分を持って帰ってくれるか?」
「ん?いや、その必要はない。
近いうちにみんな来るだろうさ。」
「そうか、なら自分で渡すことにするよ。
ところで、今日は調査に行くのか?」
私が話を切り替える。
「ああ、サンシャインシティに行こうと思っている。
ついて来てくれないか?」
「もちろん。」
そういって、5日ぶりにサンシャインシティに行くことになった。
お土産を持って帰ったものの、自らイチガヤに行けないため、ずっとコーラクエンに待機していた。
私は、今後の活動方針を考え、ゴーストの方針に従うという結論を導いたのち、オルゴールのねじを巻いた。
このオルゴールはユイが好んで聴いていたものだ。
私も聴いているうちに、この曲を好きになった。
そのことを告げると、ユイは私にそのオルゴールをくれた。
初めて何か感受性のあるものを好きになった証だと言って。
いっしょにやったゲームや、会話の端々に私の好みは現れていたが、確かに音楽を聴いてそれを好きと感じるのは初めてだった。
今でも私は、このオルゴールをたまに聴いている。
その時、生体反応を検知した。
南側から2人、ゴーストだろう。
やっと来てくれたか。
「やあ、ノア。久しぶりだな。」
ガイだった。
その後ろにはサキもいる。
「ああ、久しぶりだ。元気だったか?」
「ははは、元気だよ。ノアも元気そうでよかった。
またオルゴールを聴いていたのか。」
「そうだ。このオルゴールを聴くか、考えることしかやることがないからな。」
「確かにな。俺もイチガヤでは体を鍛えるくらいしかやることがない。」
ガイはにこやかに笑う。
ゴーストの隊長であるガイは、身長175mでそこまで大きいというわけではない。
ただ、体付きはしっかりしていて、身体能力が高いことがうかがえる。
体の芯がぶれず、体幹が非常に強い。
そして、腰に携えている日本刀。
使っているところは見たことがないが、調査ではいつも持ち歩いていることから、武術の心得があるはずだ。
「まあ、こうしてノアの下に来れたのも先日の調査が終わり、休暇が出たからだ。
しばらくは身が楽になっている。」
「そうか、隊長ともなると仕事は多そうだしな。」
「そうでもない、俺たちが調査に行くときは半数をイチガヤに残す決まりになっている。
何かあったときに対応できるように。
ただ、俺とジンは必ず一方が残ることにしているんだが、最近はジンがやる気になっていてな。
俺が残ることが多くなっているんだ、忙しいわけではなくてな。」
「なるほど、確かに最近はずっとジンと調査していたな。」
「ああ、みんなノアに会いたいんだろう。」
そういってガイは笑った。
常に最悪の結果を想定しているらしい。
ガイとジンの両方を失ったとき、精神の支柱が
「ノア、久しぶり。そのオルゴールはなに?」
オルゴールは何という質問、どこで拾ってきたのかということだろう。
ガイやアキラは私がオルゴールを聴いているところを見たことがあるが、サキは初めてだったか。
「これは昔もらったものだ。」
「へえ、ノアも音楽を聴くんだ。意外。」
「そうだな、音楽は聴くが、このオルゴール以外は聴かないな。」
「そんなにいい曲なんだ、私にも聴かせてよ。」
そう頼まれ、私は改めてオルゴールを聴く。
「すごくいい曲だね。なんというか、儚い?
でもなんか、きらめき?明るさもあって、とても素敵。」
この曲はマイナーキーが基調になっており、それゆえの切なさが醸し出されている。
そこに、アドナインスのようなテンションノート、特に型にはまらない音を加えていくことで独特の旋律を奏でている。
それは不協和音と認識できるが、不思議と心地よく感じる。
まるで浮遊した感覚になり、儚さの中にきらめきを持たせ、切ないと認識するはずなのにどこか希望をイメージさせている。
しかし、ジャスやクラシック、ロックなど、どのジャンルにも当たらないこの曲を、論理的に解釈するのは野暮というものだ。
「ああ、ほんとうにいい曲だ。」
「俺もしっかり聴くのは初めてだが、とても心地がいいな。
ノア、それは何という曲名なんだ?」
ガイの質問に気付かされる。
私はこのオルゴールの曲名を知らなかった。
「そういえば、知らないな。」
そういって箱を見ると、底にひどく擦れた文字があるのをガイが気付いた。
「V,,A,,N..I..S..H..I..N..G..。バニッシングか?」
「VANISHINGか、曲名とするなら、消えゆくもの、というところか。」
「消えゆくものか、確かにそうだな。
だが、俺はこの曲からわずかに希望を感じる。
いつ消えてもおかしくない、俺たちのようなわずかな希望。
かすかな光と解釈するのはどうだ?」
「………!!
ガイ、思っている以上に、詩的なんだな。」
そういって私は驚いた。
確かに、この曲を作った人は、間違いなく暗い曲のなかにきらめきを意図した音を重ねている。
ガイの以外な感受性にも驚くが、かすかな光という解釈はこれ以上ないほど合致している。
ガイは私の驚きに対し、笑っていた。
私は少し放心状態になりつつ、あることを思い出した。
「そうだ、ガイの話を聞く前に渡したいものがある。」
そういって私はバングルを取りにいった。
「4日前にアキバに行った。その時にいくつか遺物を回収したんだ。
これはサキへのお土産だ、つけてみてくれ。」
サキは一瞬、戸惑ったように見えた。
間違いなく喜んでいるが、まるで自分には不釣り合いな物と認識したかのように。
2秒の間があった。
「…………綺麗。私にくれるの?」
「ああ、サキはこういうものを持っていないだろう?
つけてみるといい。」
そういうとサキはバングルを受け取り、右手に着けた。
「わああ、本当に綺麗。
嬉しい、ありがとう。大事にするね。」
先ほどの違和感はなくなり、全力の笑顔でそう答える。
「そう言ってくれると私も嬉しいよ。」
「なんか、ピンクの宝石もあるね?」
「それはおそらくローズクォーツだ。サキは花が好きだと言っていたから花の名を冠する宝石のあるものがいいと思って探したんだ。」
「探してくれたの?!すごく気に入った。
ほんとうにありがとう。ずっと着けておくね、ノア!」
想像以上に喜んでくれた。
贈り物はいいな。きっとカンナに贈り物をしたくなる理由もこの気持ちだろう。
「ジンとアキラの分もあるんだが、すまないがガイの分はない。
全員分を持って帰る余裕がなかったんだ。」
本当は、サンシャインシティでの出来事を上書きできるよう考えたもので、メンバー全員に贈る想定はなかった。目的が明確だっただけに、全員に贈り物をする考えは最初からなかったのだが、それは私の思考が、全員分を探すという思考ができるほど余裕がなかったと解釈した。
あれは、私にも思考力を低下させるような、重大なイベントであったのかもしれないな。
「いや、気にしないでくれ。
むしろノアがみんなに贈り物をしてくれた気持ちだけで十分だ。ありがとう。」
ガイはそう言った。
ガイはゴーストでの父親的な存在だ。
いや、本人もそうあろうと努めているはずだ。
核がタテヤマに落ちた時、住民は避難勧告も通知も一切なかったらしい。
それはエグザスに悟られぬよう秘密裏に仕掛けられたものだろうが、国民もろともすべてを焼き尽くした。
まさに国家による自国民の大量虐殺と呼べる非人道的な作戦だ。
何も知らされず、核の炎に包まれたまさに極限状態と言える街の中で、ガイやジン、トウゴウは危険を顧みず人民の救助を行っていたらしい。サキもその時救った1人だと以前に話してくれた。
それもあり、イチガヤや居住区には、肉親がいる人はいないらしい。
そうした背景もあり、ガイは皆の父親であろうとしている姿勢が多く伺える。
ガイの贈り物がないにも関わらず、ここまで純粋に感謝を述べる精神性は私も多く学ぶべきものがある。
間違いなく人格者であり、まさしく人の上に立つべき器だ。
この世界でお互いの背中を託し合える関係は、言葉にするほど簡単に作れるものではない。
「ガイ、ジンとアキラの分を持って帰ってくれるか?」
「ん?いや、その必要はない。
近いうちにみんな来るだろうさ。」
「そうか、なら自分で渡すことにするよ。
ところで、今日は調査に行くのか?」
私が話を切り替える。
「ああ、サンシャインシティに行こうと思っている。
ついて来てくれないか?」
「もちろん。」
そういって、5日ぶりにサンシャインシティに行くことになった。
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