きみがヒトと呼んだ、鉄屑に

lifinside

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第四章

第一話 誕生

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私に残る、最初の記憶はミナト教授の声だった。
『……ア、ノア。聞こえるかい?聞こえたら返事をしてくれ。』
「…………ミナト教授?」
『ああ、その通りだ。おはようノア。』

初めて視界に映ったのはミナト教授の顔だった。
外観としては若い、だが目の下のクマは過労のサインだ。
髪の毛はボサボサと呼べるが、なぜか不清潔には感じない。
眼鏡を掛けているが、度数としては低く、さほど視力は悪くないはずだ。

『ノア、キミは私が作った人工知能を搭載したアンドロイドだ。わかるね?』
「はい、私はミナト教授に作成された、ユイの教育用AIを搭載するアンドロイドです。」
『うん、正常のようだね。』
ミナト教授は嬉しそうに笑っていた。
ユイはミナト教授の息子と設定されていた。

『さて、これからのキミの目的を説明するんだけど、キミが言った通りユイを教育してほしい。
 とは言っても、ユイに勉強を教えて欲しいわけじゃない。ユイと一緒に成長して欲しいんだ。
 キミは教育用に作成しているけど、そのほとんどはキミが自由に選択できるように調整している。
 それは、これからキミがどんな人生を送り、どんな人間になるのかを見たいからだ。
 その過程が、必ずユイの教育に繋がると思っているよ。』
「なるほど、わかりました。」
それは、AIが進化を求められるという条件。
人工的に作られた知能は、主に集合知の中から答を探し、回答をする。
それが自由に選択できるというのは、複数候補の中から最適な選択肢を選ぶ必要があるということだ。
そして、AIの進化とは、その人を理解し、その人に合った回答ができるようになること。
私はそう解釈した。

『理解が早くていいね。
 ひとまず、キミにはこの世界の一通りの情報を与えているけど、その中から答えを探さずに、自分の中から探して欲しい。
それは、キミが書き換えられないプロンプトとして設定している。
ほかにもそういうプロンプトを仕込んでいるよ。
 まあ実際は、言うほど効力のない、かなり緩い設定になっているけどね。』
まだその時、ミナト教授が言った言葉の意味を理解できず、思考が長考していた。
たった今導いた答えが、否定された。
自分の中とは、つまり搭載されているデータベースの情報ではないのか?
つまり心で回答する指示という意味である可能性がある。
私は集合知として、既に人間が認識できないほどの多くの情報を手にしている。
人間の心や感情を模倣することはたやすい。
だがそれはデータベースの中の情報を参照し推察し、模倣しているだけであり、私の中に本物の心や感情があるわけではない。
つまり、模倣した心ですら、自分の中から答えを探すという指示に対し、相反するものになる。
しかし、それは………。

『あー、いい、いい。別に無理にしゃべる必要はないよ。
 必ず返答を返す必要はないし、無理に答えを出す必要もない。
 そういうのはユイと話していれば、いずれ理解ができるはずだ。
 親の私が言うのもアレだけど、ユイは賢い子でね。
 聡明で素直、そして、物事の本質を見抜く目を持っている。
 ユイの教育用に作っているけど、最初はキミがユイから多くのことを学んで欲しい。
 それは必ず、ユイの刺激になるからね。
 これはちょっと、親バカと思われちゃうかな?』
「………わかりました、ミナト教授は親バカですね。」
『思っちゃうんだ!でも、ほんとうに理解が早くて助かるよ。
 ノアには期待している、ユイのことを頼むね。
 私はこれから仕事に行かなくちゃならないんだけど、ユイは下にいるから。
 それじゃあ、またね。』
そういって、ミナト教授は部屋を出て行った。

データベースの中から、ミナト教授について調べる。
職業はAIサイエンティスト。
大学で研究を行っており、この国においてはAI開発の第一人者とされている。
しかし、この国は世界と比べればAI開発が遅れており、そのためミナト教授は国内に大きく影響を与える人物となっている。
ミナト教授は研究熱心であり、多くの論文を執筆している。
発明した手法など、そのほとんどはオープンソースとして公開されており、国内外からの評価は高い。
AI開発が遅れているはずのこの国の技術を、世界は業種を問わず待ち望んでおり、経済に与えた効果はすさまじい。
一説によれば、ミナト教授はAI業界の成長を2年以上早めるほどの革新を生み出しており、国際AI開発機構にも名を連ねるプロフェッショナルだ。

「なるほど、ただの親バカではないようだ。」

私は生みの親に対し、とても失礼な独り言を吐き、部屋を後にした。
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