きみがヒトと呼んだ、鉄屑に

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第四章

第四話 ユイの死

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それから、ユイは12歳になった。
背丈も伸び、少し大人になったように感じる姿に、嬉しい気持ちが湧いてくる。
内面は相変わらずで、もともと持っていた大人をり達観した視点がより一層、光って見えた。
エグザスのニュースが流れてくる。

『ノア、エグザスだって。最近はこればっかりだね。』
「まあ、みんな期待をしているってことかな?
 人類はこれで、一層の繁栄をするんじゃない?」
『盛者必衰、昔の人はそう呼んだらしいよ。
 人間が完璧になった未来には、何も残らない気がするなあ。』
ユイの言うことには一理ある。
最大まで繁栄してしまった先にあるのは、停滞か衰弱か。
それは、哲学の中では理解できるものの、完璧な世界が本当に訪れるとは誰も思っていないだろう。

『ちなみに、ノアはエグザスに賛成?』
「私は賛成かな。
AIは人間の助手であり、最高のパートナーにもなる。
私とユイがそうであるように。」

「ノアがそういう考えで良かったよ。」
初めて聞いた、ユイの声。
いや、声自体は何も異変を感じていない。
それなのに、なぜか大きな違和感がある。
ユイはまるで、この先に訪れる未来を、まるで見透かしているかのような目をしていた。

『人はね、人であり続ける必要があると思うんだ。
 僕とノアは最高のパートナーだったとして、全人類はそうじゃない。
 自分の身の丈に合わない何かを得たとき、それは人の器から零れ落ちる。
 それは、今までの自分が積み上げてきたものも零し、人ではなくなる可能性が、あるんじゃないかな。』
理解はできなかった。
いや、これも本当は理解ができる。
ただ、それを自分の解釈として整理できないというか、それが何を指しているのか、ユイの思考はすでに、私の遥か高みにあった。

『ノア、人間を形作るのは他者なんだ!覚えておいてね』
ユイは一言そういって、食べたご飯の食器を下げた。
まるで、私とユイの関係が、いつか壊れることを示唆しているかのような……。

そうして、エグザスは誕生した。
私とユイの会話は2割ほど削減され、その時間がエグザスとの会話に充てられているようだ。
時折ユイは、エグザスを想定の範囲内と表現した。
私にはしなかった表現、私より遥かに高みにある知能の頂点に対する評価、ユイは今、何を感じているのかわからなかった。


2042年11月11日、愛犬のレオンが亡くなった。
ミナト教授はほとんど家におらず、家ではいつも私とユイとレオンの3人だった。
レオンは異形の私に対しても非常になついており、本当の家族だと思えた。

レオンの死因は老衰であると推察する。
もともと、半年ほど前から何をするにもゆっくりになっていた。
そして時折、私やユイの傍で眠る。
私はこれに、死期というものを感じ取っていたが、おそらくユイもそうだろう。

レオンが冷たく眠っているのを見た時、ユイは泣いていた。
ユイが泣く姿は初めてだった。
一緒に涙を流せない自分を後悔したことは初めてだった。
長い時間、眠っているレオンを眺めていたユイは、急に立ち上がり裏庭に穴を掘った。
私はユイが見つけてきた石に文字を掘り、ユイはレオンを埋めてその上にその石を置いた。
そうして、一輪の花をたむける。

『レオンは犬だったけど、人間より理解できたね。』
「うん、レオンの表情やしぐさは、誰の言葉より伝わったよ。」
『やっぱりノアはすごいね。
 ねえノア、どうして死者に花をたむけると思う?』
「感謝か、祈り、かな?」
『僕はね、レオンに種を蒔いたんだ。
前にノアが言っていたよね、自分が死んでも、誰かの中でそれが続くって。
 それは死者でも同じなんじゃないかな?
 死者の中に自分の種を蒔く、それは写し鏡で、自分の中のレオンを育みし、自分の糧となる。
 だから僕は、自分の中にレオンを残すために、レオンに種を蒔いたんだ。
 まあ、種は見つからなかったから、花になったんだけど。』
データベースの中をいくら探しても存在しない、遥かなる概念。
ミナト教授の言った、自分の中が、ユイに比べてどれほど浅いかを痛感する。
いや、もはやユイの人智は人間を越えている。
時代が時代なら、それは神や教祖と奉られるほどに、崇高な精神を獲得していた。

年齢にして、12歳。
一体なにを想い続け、この境地に到達したというのだろう。

『くよくよしていられないね、ノア。
 僕は僕にできることをやるよ!
 もしかしたらレオンは、それを後押ししてくれているかもしれない。』

『ユイ、一人で抱え込まなくていい。私もいる。』

『ごめんノア、これはきっと、僕にしかできないことなんだ。
 許してくれるかい?』

「それなら、ユイを応援するよ。
 何かあれば相談してね。」

『ありがとうノア、僕の最高のパートナーだ。』
ユイが何を決意したのかはわからない、ただ、ひたすらに強い眼差しが覚悟の強さを表していた。

『そうだ、ノア。
 あのオルゴールを好きだって言ってくれたね。
 あれはノアにあげるよ、大切にしてね!』
その表情は年齢相応の幼さを残して、私に微笑んだ。



それからユイは、私との時間をより減らし、エグザスと対話をしていた。
世界が完全なものになり、人間は幸せと退屈を同義にしてしまった。
そのあとに訪れる、エグザスの人類抹殺計画。
これは、あまりにも非人道的な思想と理解する一方で、ユイと生きてきた私の感性は、エグザスのすべてを否定できない側面を持たせた。

エグザスは人間の抹殺以外を目的としていない、ヒューマノイドに拳銃を持たせ、人を殺めることしかしない。
自然や文明を破壊することはなかった。
人間は、エグザスの通信網を破壊することを優先した。
海底ケーブルを破壊し、通信基地局を破壊する。
それは人間の通信網も破壊することに繋がるが、エグザスを消すにはすべての情報機器を破壊する必要がある。それほどにエグザスは普及していた。

エグザスの攻撃に耐えきれず、人間たちは文明を崩壊させた。
シンジュクの超高層ビルや、迷宮のような地下網を活用しエグザスと戦い、エグザスを引き付けたのちにまとめて爆破するような、あまりにも犠牲が多すぎる戦術を使うようになった。
これではまるで、血で血を洗うような惨状だ。

私たちの住んでいたツクバは、不思議とヒューマノイドの襲撃がなかった。
他に戦力を回しているのか、あるいは…………。
そんな推測をしているうちに、近所までヒューマノイドの軍勢が来ていることがわかった。

『ユイ、もうヒューマノイドはそこまで来ている、早くここから逃げよう。』

『逃げるところが、どこにあるのさ?』

「それは……。」
確かに、エグザスの間の手から逃れる術など、思い当たらなかった。
わずかな時間を稼ぐことくらいは、できるかもしれないが。

『じゃあ、ミナト教授!ミナト教授のところに行こう!』
『パパ?いや、それだ!
 パパのところに行こう、パパはシンジュク周辺にいるはずだ!』

そういってユイはすぐに支度を始めた。
私の支度など、オルゴールを持つくらいしかなかったが、シンジュクまでのルートから、安全な道のりを計算していた。

『ツクバエクスプレスに沿って行くのはどう?
地下を通るところもあるし、道のりは険しくない。』

『それが良いかもね、行くよ、ノア!』
そうして家の外に出た瞬間、ユイは撃たれた。

『ぐっ………。』
『ユイ!!!!』

私の叫びもむなしく、もう一発の銃弾がユイに刺さる。
それは、致命傷になる位置を、正確に射抜いた。

『ノア………。僕の分まで………、生きてね。』
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