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第五部
第47話 女神様の欲しいもの
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「そういや、美桜は今何が欲しい?」
美桜は片付けを、僕は調理場で夕飯を作りながら彼女に話しかける。
すると美桜はきょとんと首を傾げる。自分でも思ってしまった──あまりにも不自然な質問の流れだったと。だが他にどうやって話を切り込めばいいのかもわからないため、バレないことを祈るばかりだ。
案の定──美桜は少し顔を上げた。
「どうしたんですか? 急にそんなことを訊いてくるなんて」
やはり不自然に思われていたようだ。
美桜は学校全体で設けてられているイベントである、『真城美桜生誕祭』についてあまり関心がないとはいっても、その日は美桜本人の誕生日。美桜が知らないはずもない。
故にここで『誕生日だし欲しいものとか……』みたいなそんな質問をすれば一発アウト。
陰キャは堂々と先陣を仕切るのが苦手なのだ。失敗覚悟で挑んでは僕の負けは確定事項だ。
そのために、ここは誤魔化そう。ごめんな、許してください。
「……別に、細かい理由はないけど。い、伊月が、保健室で鈴菜さんとそんな話をしたって言うから……ついでに、美桜にも訊いてみようかなって、思って……」
「……………」
まだ何か疑う様子を見せる美桜だったが、一応僕の言い分には納得してくれたようだ。
伊月には明日報告を入れることになってるから、そのときにこの事も話して口裏を合わせてもらうことにしよう。
秘密にしておく理由は特にない。
だが、一般的に友達同士で行われる誕生日プレゼントというのは、秘密裏に用意しておくのが定番というか、クラスの女子達がそんなことをしていたのを見かけたというか。
なので僕も、あのときと同じように、当日まで秘密にしておくことにする。
「カノジョさんへのプレゼント……ということでしょうか?」
「そんなところじゃないか。伊月は貢ぎ上手だからな」
「ふふっ。合ってるようで、間違っていそうな例えですね。村瀬君が聞いていたらこの場で怒ってきそうですよ」
「へぇ。わかるもんなんだな」
「……嘘偽りがない人の思考というのは、1番素直ですからね。昼間のやり取りを見るに、きっと村瀬君は“そういう人間”なのだと予想出来ます」
「……さすがなことで」
ご察しの通り、伊月が本当にそのことを鈴菜さんに訊いたのか、僕にはわからない。
許せ美桜。これは、お前にサプライズをするためなんだ。
それに……先程見せた苦笑、おかしいと美桜がそう思ってくれた何よりの証拠。
僕1人の知恵では、果たして現実化出来たかどうか。
「……んで、結局のところ、美桜だったら何が欲しいんだよ」
「そうですね……」
美桜は作業を中断させて真剣に考えているようだ。
それに合わせて僕も作業を中断せざるを得なかった。
「今欲しいものは──特にありません」
「ですよね……」
質問をする前からそうなのではと思ってはいた。
ごく普通のように僕の家の台所使ってるので忘れがちではあるのだが、真城美桜は列記とした『お嬢様』だ。
作法に礼儀。日本の『和』を中心とし、様々な技法を会得している美桜は当然、お嬢様という特殊な人類に分類され、美桜は何不自由ない生活をしてきた。
勝手な偏見かもしれない。
が、こいつにとってはそれが正しい。
現に目の前にいるお嬢様は、さも当然のように『何もない』とそう言い切ってみせた。
決定的瞬間である。
……そうすると参ってしまう。
美桜はあまりにも家庭的な人間故、プレゼントは何を所望するのか、まったく謎なのだ。
僕の勘と直感が当たるとも思えない。……せめて、欲しいものではなく、プレゼントされてみたかった物っていうのは……怪しいか、さすがに。
そんな思考に陥っていると、美桜が「ですが」と付け加えた。
「私は、湊君が選んでくれたものなら何でも嬉しいです」
「……美桜?」
「……覚えていますか? 中学2年生の頃、湊君が私の誕生日にプレゼントでキーホルダーを買ってくれました」
「覚えてるけど」
というか、伊月と今日そのときの話してたからな。少し心臓がドクッと跳ね上がったが、美桜は気づいていない。気づかれたらそれはそれで嫌だけど。
「誕生日に、誰かからプレゼントを貰うなんてこと、家族以外では初めてだったんです。あのときは端的に『大切にする』と言ってしまいましたが、本当は……もっと言いたいことがあったんですよ」
「……お礼言われたしそれで十分だったんだけど」
これは本心だ。
別に誕生日にプレゼントを渡したのは、何かしら欲があった訳ではない。幼馴染だし、誕生日は知っていたから気分で買ったものを渡したにすぎなかったのだ。美桜には、少し失礼なことしたかもしれないけど……喜んでくれた、それだけでもう嬉しかった。
それ以上のことを何も望まない。
男女の仲が敏感になってきた歳頃だ。下手に美桜と関わることは避けてきた。それでも、お前は変わらない口ぶりで『大切にします』と──そう言ってくれたんだ。
「本当、湊君は欲が無いですね。照れてはいますけど」
「そ、そんなんじゃ……!! …………っ」
「私にとって湊君はそれだけ『特別』なんです。だから──湊君から貰ったものなら、それも私にとっては『特別』になります。だから、何だっていいんです。湊君からの贈り物。そういう大前提が大事なので」
「……そ、っか」
いい感じに丸め込まれたが、僕の中でまた1つ問題が提示されてしまった。
何かリクエストがあったときの『何でもいい』という回答ほど、困る回答はない……。
どうしたもんか、と僕には少し頭を悩ませる一夜になってしまった。
美桜は片付けを、僕は調理場で夕飯を作りながら彼女に話しかける。
すると美桜はきょとんと首を傾げる。自分でも思ってしまった──あまりにも不自然な質問の流れだったと。だが他にどうやって話を切り込めばいいのかもわからないため、バレないことを祈るばかりだ。
案の定──美桜は少し顔を上げた。
「どうしたんですか? 急にそんなことを訊いてくるなんて」
やはり不自然に思われていたようだ。
美桜は学校全体で設けてられているイベントである、『真城美桜生誕祭』についてあまり関心がないとはいっても、その日は美桜本人の誕生日。美桜が知らないはずもない。
故にここで『誕生日だし欲しいものとか……』みたいなそんな質問をすれば一発アウト。
陰キャは堂々と先陣を仕切るのが苦手なのだ。失敗覚悟で挑んでは僕の負けは確定事項だ。
そのために、ここは誤魔化そう。ごめんな、許してください。
「……別に、細かい理由はないけど。い、伊月が、保健室で鈴菜さんとそんな話をしたって言うから……ついでに、美桜にも訊いてみようかなって、思って……」
「……………」
まだ何か疑う様子を見せる美桜だったが、一応僕の言い分には納得してくれたようだ。
伊月には明日報告を入れることになってるから、そのときにこの事も話して口裏を合わせてもらうことにしよう。
秘密にしておく理由は特にない。
だが、一般的に友達同士で行われる誕生日プレゼントというのは、秘密裏に用意しておくのが定番というか、クラスの女子達がそんなことをしていたのを見かけたというか。
なので僕も、あのときと同じように、当日まで秘密にしておくことにする。
「カノジョさんへのプレゼント……ということでしょうか?」
「そんなところじゃないか。伊月は貢ぎ上手だからな」
「ふふっ。合ってるようで、間違っていそうな例えですね。村瀬君が聞いていたらこの場で怒ってきそうですよ」
「へぇ。わかるもんなんだな」
「……嘘偽りがない人の思考というのは、1番素直ですからね。昼間のやり取りを見るに、きっと村瀬君は“そういう人間”なのだと予想出来ます」
「……さすがなことで」
ご察しの通り、伊月が本当にそのことを鈴菜さんに訊いたのか、僕にはわからない。
許せ美桜。これは、お前にサプライズをするためなんだ。
それに……先程見せた苦笑、おかしいと美桜がそう思ってくれた何よりの証拠。
僕1人の知恵では、果たして現実化出来たかどうか。
「……んで、結局のところ、美桜だったら何が欲しいんだよ」
「そうですね……」
美桜は作業を中断させて真剣に考えているようだ。
それに合わせて僕も作業を中断せざるを得なかった。
「今欲しいものは──特にありません」
「ですよね……」
質問をする前からそうなのではと思ってはいた。
ごく普通のように僕の家の台所使ってるので忘れがちではあるのだが、真城美桜は列記とした『お嬢様』だ。
作法に礼儀。日本の『和』を中心とし、様々な技法を会得している美桜は当然、お嬢様という特殊な人類に分類され、美桜は何不自由ない生活をしてきた。
勝手な偏見かもしれない。
が、こいつにとってはそれが正しい。
現に目の前にいるお嬢様は、さも当然のように『何もない』とそう言い切ってみせた。
決定的瞬間である。
……そうすると参ってしまう。
美桜はあまりにも家庭的な人間故、プレゼントは何を所望するのか、まったく謎なのだ。
僕の勘と直感が当たるとも思えない。……せめて、欲しいものではなく、プレゼントされてみたかった物っていうのは……怪しいか、さすがに。
そんな思考に陥っていると、美桜が「ですが」と付け加えた。
「私は、湊君が選んでくれたものなら何でも嬉しいです」
「……美桜?」
「……覚えていますか? 中学2年生の頃、湊君が私の誕生日にプレゼントでキーホルダーを買ってくれました」
「覚えてるけど」
というか、伊月と今日そのときの話してたからな。少し心臓がドクッと跳ね上がったが、美桜は気づいていない。気づかれたらそれはそれで嫌だけど。
「誕生日に、誰かからプレゼントを貰うなんてこと、家族以外では初めてだったんです。あのときは端的に『大切にする』と言ってしまいましたが、本当は……もっと言いたいことがあったんですよ」
「……お礼言われたしそれで十分だったんだけど」
これは本心だ。
別に誕生日にプレゼントを渡したのは、何かしら欲があった訳ではない。幼馴染だし、誕生日は知っていたから気分で買ったものを渡したにすぎなかったのだ。美桜には、少し失礼なことしたかもしれないけど……喜んでくれた、それだけでもう嬉しかった。
それ以上のことを何も望まない。
男女の仲が敏感になってきた歳頃だ。下手に美桜と関わることは避けてきた。それでも、お前は変わらない口ぶりで『大切にします』と──そう言ってくれたんだ。
「本当、湊君は欲が無いですね。照れてはいますけど」
「そ、そんなんじゃ……!! …………っ」
「私にとって湊君はそれだけ『特別』なんです。だから──湊君から貰ったものなら、それも私にとっては『特別』になります。だから、何だっていいんです。湊君からの贈り物。そういう大前提が大事なので」
「……そ、っか」
いい感じに丸め込まれたが、僕の中でまた1つ問題が提示されてしまった。
何かリクエストがあったときの『何でもいい』という回答ほど、困る回答はない……。
どうしたもんか、と僕には少し頭を悩ませる一夜になってしまった。
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