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第九部
第76話「幼馴染は、告白する。LAST」
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「……なぁ、渚。覚えてるか、1ヵ月前のこと」
「へっ……?」
渚から抜けた声が漏れる。
そう。──もうすぐで渚から告白をされて、丁度1ヵ月になる。
『──私、ハル君のことが好きなの!』
高校に入学する前の春休み──突如として家を訪れた矢先に渚が言い放った突然すぎた一世一代の大告白。その告白は何を隠そう、幼馴染でありながら、“学園一の美少女”と名高い彼女とはかけ離れた一般庶民、凪宮晴斗に向けられたものだった。
長年こいつと幼馴染という関係性を歩んできたが、一体誰がそんな展開を思いつくだろうか、と……何度頭を抱えそうになったことか。最早あのとき、水平線が見えてたからね。普通は見えないはずのものが見えそうになってたからね。
告白をされれば誰だって驚くものだ。
何より、あの『一之瀬渚』が僕のことをそういう目で見ていてくれたのだと……初めて知った瞬間でもあった。
あれから約1ヵ月──。
容姿端麗の美少女からの告白を蹴り、必死に幼馴染としての関係性を戻してきた1ヵ月でもあった。
だがそこに、元あった関係性など、果たしてあったと言えるのだろうか?
部室でのお弁当の件に始まり、翌日のお泊り会でのちょっとした事件、その後の妹のプレゼント選び、それから小学生以来の一緒の登校。見られるという最悪の未来を想定しつつも、結局はあのとき──自分から『一緒に行く』と決めた。
あれやこれやと起こった1ヵ月。
今まで築き上げてきた『普通の幼馴染』に、果たして戻れているかと聞かれれば……そんなの「いいえ」と答えるに他ならない。
以前のままだったら、絶対あんな風にしてこなかった。もっと大袈裟に避けてきたはずだ。あいつを危険に晒すまいと思う一方で……どこかできっと、変わろうとしていたのかもしれない。
否、もしくは、変えさせられたのかもしれない。
1ヵ月前の告白が無ければ、僕は絶対、お前に言おうとしなかった言葉を今の僕はきちんと持っている。ずっと騙していたかもしれない自分の本心。欺いてきた心を、もしかしたら渚が動かしてくれたのかもしれない。
僕は少しだけ頬を赤く染める渚に向かって続けた。
「あのとき、お前が啖呵きって『好きだ』って言い出してきて、当時は一体何事だと思ったよ」
「そ、そんなに言うことある?」
「あるね。まったく、何事だと思って全然思考回路が働かなかったよ。あんなに情緒不安定になったの、産まれて初めてだったよ。さすが渚だと思ったね」
「あうぅぅ~~……」
熟しかけていた果実が立派に色づいたように、渚の顔は耳朶まで真っ赤に染まった。
渚にとってあの出来事は、人生の黒歴史と変えてもいいのかもしれない。今はこうして普通に話せるけれど、こんな時期になるまで、この話には一切触れてこなかった。
その対象者にとって黒歴史とは、穴を掘って埋めたいほどの罪深い記憶だしな。
──だが僕は、感謝している。
あのときに、お前が勇気を出してくれたから──
あのときのことを、乗り越えようとしてくれたから──
僕も、迷うし怖いと思うけれど……それでも、一緒に乗り越えたいと思ったんだ。
「だから──あのときの告白の続きを、言ってもいいか?」
「……続、き?」
誰がこんな結果を予想しただろうか。
今まで渚のことを特別意識したこともなかった僕が、ただの幼馴染でそれ以上でも以下でもないと屁理屈を述べてきた僕が……こんなことを言うなんてさ。
自分で自分が信じられない。
だが、起こっている事実は本物で。僕の渚に対する気持ちも……紛れもない、本物だ。
過去15年間向けられ続けてきたこの言葉に、僕はお前と、同じ意味を持てているだろうか。そんなのきっと──誰にもわからない。
その先のことなんて、どうでもよくなるほどに。
今、どうしてもこの気持ちを伝えたい。
あのとき、笑顔を崩さず真剣な眼差しで向き合ってくれたお前も、そんな気持ちだったのだろうか。
「渚。僕は──お前のことが、好きだ」
少しの怖さと先が見えない恐ろしさを覚えつつも、僕は伝えたかったのだ。
悩みに悩んだ末、僕はあのときに出来なかった本当の返事をしたのだった。
「へっ……?」
渚から抜けた声が漏れる。
そう。──もうすぐで渚から告白をされて、丁度1ヵ月になる。
『──私、ハル君のことが好きなの!』
高校に入学する前の春休み──突如として家を訪れた矢先に渚が言い放った突然すぎた一世一代の大告白。その告白は何を隠そう、幼馴染でありながら、“学園一の美少女”と名高い彼女とはかけ離れた一般庶民、凪宮晴斗に向けられたものだった。
長年こいつと幼馴染という関係性を歩んできたが、一体誰がそんな展開を思いつくだろうか、と……何度頭を抱えそうになったことか。最早あのとき、水平線が見えてたからね。普通は見えないはずのものが見えそうになってたからね。
告白をされれば誰だって驚くものだ。
何より、あの『一之瀬渚』が僕のことをそういう目で見ていてくれたのだと……初めて知った瞬間でもあった。
あれから約1ヵ月──。
容姿端麗の美少女からの告白を蹴り、必死に幼馴染としての関係性を戻してきた1ヵ月でもあった。
だがそこに、元あった関係性など、果たしてあったと言えるのだろうか?
部室でのお弁当の件に始まり、翌日のお泊り会でのちょっとした事件、その後の妹のプレゼント選び、それから小学生以来の一緒の登校。見られるという最悪の未来を想定しつつも、結局はあのとき──自分から『一緒に行く』と決めた。
あれやこれやと起こった1ヵ月。
今まで築き上げてきた『普通の幼馴染』に、果たして戻れているかと聞かれれば……そんなの「いいえ」と答えるに他ならない。
以前のままだったら、絶対あんな風にしてこなかった。もっと大袈裟に避けてきたはずだ。あいつを危険に晒すまいと思う一方で……どこかできっと、変わろうとしていたのかもしれない。
否、もしくは、変えさせられたのかもしれない。
1ヵ月前の告白が無ければ、僕は絶対、お前に言おうとしなかった言葉を今の僕はきちんと持っている。ずっと騙していたかもしれない自分の本心。欺いてきた心を、もしかしたら渚が動かしてくれたのかもしれない。
僕は少しだけ頬を赤く染める渚に向かって続けた。
「あのとき、お前が啖呵きって『好きだ』って言い出してきて、当時は一体何事だと思ったよ」
「そ、そんなに言うことある?」
「あるね。まったく、何事だと思って全然思考回路が働かなかったよ。あんなに情緒不安定になったの、産まれて初めてだったよ。さすが渚だと思ったね」
「あうぅぅ~~……」
熟しかけていた果実が立派に色づいたように、渚の顔は耳朶まで真っ赤に染まった。
渚にとってあの出来事は、人生の黒歴史と変えてもいいのかもしれない。今はこうして普通に話せるけれど、こんな時期になるまで、この話には一切触れてこなかった。
その対象者にとって黒歴史とは、穴を掘って埋めたいほどの罪深い記憶だしな。
──だが僕は、感謝している。
あのときに、お前が勇気を出してくれたから──
あのときのことを、乗り越えようとしてくれたから──
僕も、迷うし怖いと思うけれど……それでも、一緒に乗り越えたいと思ったんだ。
「だから──あのときの告白の続きを、言ってもいいか?」
「……続、き?」
誰がこんな結果を予想しただろうか。
今まで渚のことを特別意識したこともなかった僕が、ただの幼馴染でそれ以上でも以下でもないと屁理屈を述べてきた僕が……こんなことを言うなんてさ。
自分で自分が信じられない。
だが、起こっている事実は本物で。僕の渚に対する気持ちも……紛れもない、本物だ。
過去15年間向けられ続けてきたこの言葉に、僕はお前と、同じ意味を持てているだろうか。そんなのきっと──誰にもわからない。
その先のことなんて、どうでもよくなるほどに。
今、どうしてもこの気持ちを伝えたい。
あのとき、笑顔を崩さず真剣な眼差しで向き合ってくれたお前も、そんな気持ちだったのだろうか。
「渚。僕は──お前のことが、好きだ」
少しの怖さと先が見えない恐ろしさを覚えつつも、僕は伝えたかったのだ。
悩みに悩んだ末、僕はあのときに出来なかった本当の返事をしたのだった。
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