上 下
5 / 10

第5話

しおりを挟む

「優しいって…そんなに簡単に私のことを信じても良いのですか?私たちは出会って間もないのに…」

「大丈夫です。私は人の本性を見抜けるようになれ、と幼い頃から言われて育ちましたから」

「人の本性…ですか?」

「はい。おかげで私も、かなり分かるようになりましたよ。失敗した人に厳しい事を言って、怒っているように見えるけれど、本当はただ口下手で心配しているだけの優しい人だ、とか」

「少々変わった教育方針ですね…」

「そうですね。でも私の家族にとっては普通の事なのです」

「家族にとって…?」

「なぜなら私は、王族だからです」

 空腹で頭が回らなかったが、シャーロットはずっとウィリアム・ジェームズという名前に違和感があった。王族、と聞いて思い出す。ウィリアム・ジェームズは隣国の第三王子である事を。

「た、大変失礼しました…!!」

 慌てて平伏しようとしたシャーロットだが、ウィリアム本人に止められた。

「失礼な事などないですよ。あなたを助けたのは私の意思ですからね」

「え…?」

「不謹慎かもしれませんが、倒れているあなたを見て、一目惚れしたのですよ。どうしても助けたいと思ったのです」

 ウィリアムは恥ずかしそうに柔らかな笑みを浮かべてそう言った。

「仮にも私は第三王子。もし悪人だったらどうしよう、と考えて話しかけてみましたが、悪い人ではなくて安心しました」

「はぁ…」

 色々な事が一気に起きたので、シャーロットは気の抜けた返事をしてしまった。

「どうか、私と結婚してください」

 さらに、突然のプロポーズ。シャーロットは流石に拒否した。

「む、無理ですよ!!そもそも出身国が違いますし、私は廃嫡されたので、貴族ではなく庶民です。王族が庶民と結婚出来るはずがありません!」

「あなたは、私の事が嫌いですか…?」

「そういう問題ではありません!!」

 シャーロットは思わず叫んだ。自分を助けてくれた人を嫌いになるはずがない。むしろ、自分も話しているうちにウィリアムに好意を抱いた。だから、内心はすごく喜んでいるが、どうしてもこの想いを叶えられない理由がある。そう考えていた時、ウィリアムが真剣な顔でシャーロットを見た。

「そういう問題です。あなたは私が嫌いですか?」

 ウィリアムがあまりに真剣な顔をするので、シャーロットは思わず本心を言ってしまった。

「嫌いな訳無いじゃないですか!私だってあなたの事が好き…」

 そこまで言って、はっと気づいてウィリアムを見る。ウィリアムは嬉しそうな顔で笑っていた。

「良かった…」

「…でも、どうにも出来ませんよ。私たちの間には、あまりにも障害が多すぎる…」

「私に考えがあります。任せて下さい」

 そう言ってウィリアムは笑った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私が王女です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:23,999pt お気に入り:266

亡き妻を求める皇帝は耳の聞こえない少女を妻にして偽りの愛を誓う

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,884pt お気に入り:81

女鍛治師のライナ わけあり勇者様と魔女の箱庭でスローライフ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,386pt お気に入り:57

会社を辞めて騎士団長を拾う

BL / 完結 24h.ポイント:3,677pt お気に入り:42

悪役令嬢の姉

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:973pt お気に入り:15

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,212pt お気に入り:4,128

オレはスキル【殺虫スプレー】で虫系モンスターを相手に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,430pt お気に入り:618

処理中です...