有明の鬼人

錦木

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緋色の一閃

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 そんなやり取りがあり、ちょうど隣町にある山田の依頼を受けがてら偵察に来たというわけだ。山田の家はその畑とやらの近くにあるから何か知っているかもしれないと思った。
 重吾はアキラに依頼を振ってくるときに何も言ってなかったが鎌ジジイとやらのことと関係してアキラにこの仕事を任せたのかもしれない。

「あの、山田さん。あそこの大きい畑の人のことって何か知ってます?」

 出来るだけさりげないふうを装ってアキラは言う。

「古野さんのこと?」

 山田は少し険しい顔をした。

「また何か変な話が流れているのかい?」
「変な話って?」

 アキラが聞き返すと何だ、その話ではないのかというふうに山田は表情を緩める。
 ふう、と息をついて山田も茶を飲んだ。

「悪い人じゃないんやけどね。世間付き合いがあまり好きじゃない人で。妖怪ジジイなんていう悪口をたたくやつがおるのよ」

 妖怪。その言葉にアキラは反応してしまう。

「こんなババアが言っとったことは内緒やで」

 悪戯っぽく言われたことにアキラはもちろん、と頷いた。

「そういや最近姿見てないねえ。用事があるならあんたよかったら訪ねてみてくれるかい。これうちで取れたキャベツだから持っていって」

 そういってキャベツを持ってきてアキラに押しつけた。
 人の頭くらいの大きさのゴロンとしたものだ。
 どうやって持っていこうかと思うと山田は手早く風呂敷に包んでくれた。
 いってらっしゃい、と手を振り見送られる。

「あんたのぶんも置いておくから用事が終わったら取りに来なさい」

 ニッコリ笑ってそう言っていた。


 どうしたものか、と思った。
 近寄ってみると畑の奥に家があるのが分かった。おそらく古野の家だろう。
 それはいいのだが。

「気が重いなあ……」

 まずなんと話を切り出せばいいのか。
 キャベツを届けに来ましたって?いやいや。 

「そこで何しとる」
「ひいっ」

 いきなり声をかけられてアキラは思わず背筋を伸ばす。最近はこんなのばかりだなと思う。
 不審そうな目で老人がアキラのことを見ている。背が低く見えるのは背骨が曲がっているからだろう。
 それ以外は丈夫そうな老爺が立っていた。気迫があって皺が刻まれた顔の眼光は鋭い。
 たしかに子どもたちには嫌われるわけだ、と思った。昔の頑固親父そのままのような見た目の人である。
 こちらを観察するように見ていたが、ふとアキラの顔を見て動きを止めた。

「お前は……」
「あの……。えっと」

 畑へ勝手に入って来たことを謝るべきかと考えていると老爺ははっきりとした口調で言った。

「お前、辰んとこの坊主でねえか」

 え、とアキラは固まる。

「はい。そうですけれど……」

 辰、というのはアキラの祖父のあだ名だ。
 思わず頷くと分かりやすく老爺は表情を崩した。

「そうか。でかくなったなあ」 

 その反応を見ると古野とアキラは初対面ではないらしい。
 笑った表情も怖いというか愛想がなさそうに見えると言うと失礼だがとにかく友好的に話を聞いてくれそうな雰囲気になったのはよかった。

「あのこれ山田さんからの預かり物なんですけれどよかったら古野さんに持っていってくれって」

 すかさずキャベツを取り出すと古野は目を丸くした。

「これまた立派だな」
「そうですよね」
「年寄りには重い。運んでくれるか」

 そう言って首で家のほうを示した。

「入っていけ」

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