おまけってやっぱりお得よね。とごまかして、この世を渡って行くのは立派な処世術

たまとら

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逃げるおまけ

1

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隠れた茂みの脇で、兵が立ち止まった。
雄太は口に当てていた手をグーにして押し付ける。
落ち着け落ち着けと自分を宥めても、心臓が痛いほどに体を叩く。


「出て来い!」

鋭い声に眩むような絶望が脈打つ。同時にナニかが背中を踏み付けて飛び出した。

「「「「うわっ‼︎」」」」

バキバキ。
ガシャッ!
茂みの小枝を撒き散らした小さな獣の爆走に兵達がたたらを踏む。

「ジャミナだ!」
「捕まえろっ」
「晩飯だぁ‼︎」

ドスドスと何人かが走り出す。



ありがとうハダカデバネズミ(似てた)
君の献身を忘れはしない。

雄太は茂みの中で腹這いになったままハダカデバネズミ(似てる)が無事に逃げ延びるように祈った。
茂みの根元から伺うと、目の前には泥だらけの黒いアーミーブーツが乱立している。
雄太は手を口に当てたまま、静かに呼吸して気配を殺していた。


もう10日以上森を歩いている。
そしてもう2日も隠れんぼをしている。
痕跡を残さずに、存在を悟られないように逃げてるし、
もういい加減、いないんじゃないのぉ?
いるってガセだったんじゃなぁい?
って諦めてくれないかなぁと願っていた。


黒い靴の脇を茶色い傘のひょろっとしたキノコが列をなして走っていく。
おわっと避けた男が「この森は走り茸が多くてキモいっす」とぼやいた。
その足元を赤いキノコがすれ違っていく。


「なぁ、こんだけ探していないんだぜ。本当に居るのかなぁ?」

「神子様がココを指したんだ。居るに決まってるだろう‼︎」

「だって、あのっすよね。死んだはずのおまけっすよねぇ。今頃森に湧くなんてホラーっすよぉ」

あ~あ。
自分は王都から出た事ないシティボーイなんすよぉ。こんなに汚れてマジ勘弁っす。
と言いながら靴の泥を拾った枝でガリガリこそげる。
その横を走る茸が靴に引っかかって転んだ


が死ぬ時に神子様を呪ったって聞いたけど」

「そう、それそれ。だから神力が足りなくて結界がヤバイって聞いてるっす。」

「3日前に結界が光ったじゃん。
やっぱおまけが現れたんだぜ」



呪いってなんだよ。

そんな高等技術持ってねぇわっ‼︎

そう、とは雄太の事だ。
前に神子召喚に巻き込まれてこっちへ来た。
おまけだとハブられた挙句、邪魔だと殺された。

そんな最悪な思い出しかないこの世界で、何故か鬼ごっこをしている。


「もう休憩は終了だ。」

低く太いイケボが鳥肌を立てた。
雄太は咄嗟に拳に歯を立てて叫びを堪える
あいつだ。
神兵のグロッシュだ。
雄太を斬り殺した男だ。
脂汗が伝い落ちる。
震える身体を落ち着けようと、拳に何度も歯を立てた。
やばい。
怖くて呼吸が速くなる。

早く。
早くあっちへ行ってくれ。



「隊長!3時方向100ザン先で神力反応があります‼︎」

「急げっ、包囲だ!」

グロッシュは地面を蹴り上げて走り出した
ガッシャンガッシャンと後を追う神兵達に、安堵のあまり大地に沈みそうだ。


ありがとう、おっさん達。


神兵が囮に集中する隙を突いて、雄太は国境へと走るつもりだ。

捕まってたまるか!
今度こそ自由にいきるんだ。
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