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いきなり辺境

5 契約結婚のススメ

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「アルベルト様は僕を愛するつもりは無い。
僕も愛して欲しくは無い。」

アルベルトの赤い糸はどっかへ延びている。
もうその相手に出会っているのかも知れない。
相手と結婚出来ないって、身分違いとか既婚者なのかも知れない。
とにかく泥沼に引き摺り込まれるのはごめんだ。
いざと言うとき白い結婚なら即離婚できる。

「王様が望むからには、ここで破談にしても次々と令息が送り込まれるでしょうね。
だから見せかけの結婚はありだと思います。
今なら"一目惚れ"のドラマ付きですし。」

「なるほど」

アルベルトとエルダスは腕組みしておなじ角度で頭を傾げる。
主従は似ていくものなのだ。
~~僕の性格がちょっと黒いのは、ガルゼに似て行ったからなのさ。

ちらりとガルゼを見たら、同じ目でこっちを見てたので苦笑した。




去年、前領主が死去した事は知っていた。
残された子供がいるって報告書に書いてあったが、年齢や名前さえ書いてない。
…駄目だ、ウチの調査機関使えない。

その子に領主を譲るなんて、アルベルト様も大概の馬鹿じゃないか。
でも、そんな馬鹿は嫌いじゃない。


「そうですね。まずそのお子様の、後継としての書類を王に提出して承認を頂くのを一番にお願いしたいです。
そうして契約として婚姻するのなら、いろいろ取決めしなくちゃいけませんね。」

いきなりてきぱきとし始めたキリルに、エルダスは慌ててメモをとる。

「まず夫夫ふうふとして仲の良さを見せつける為に夜会に出ますか?その時エスコートは可ですか不可ですか?
後継問題もありませんから寝室でのお仕えは不要でよろしいですよね?僕は人前でのハグやキスは可ですが、あまり過度な接触はちょっとやめて欲しいです。」

なんか微妙な顔になったアルベルト様。
キリルはにっこりとさらに叩き込む。

「契約として婚姻を考えるのでしたら、顔合わせ期間にいろいろ擦り合わせをしたいです。
アルベルト様からの要望も、領主としてのものと個人のものがあるでしょうから」

ほうほうとアルベルトとエルダスが頷く。
同じリズムで振れる頭に、笑いが込み上がる。


「あ、後‼︎」

これだけは外せません。
と、キリルは二人を見渡した。

人差し指を立ててにっこりする。
一瞬びくりと肩を動かすアルベルトに、よしよし、マウントの刷り込みは上々だとほくそ笑んだ。

「小説でしたら、やがてなぁなぁになって。
互いに歩み寄る事で恋が芽生えるんです。
初めの『愛さない』だの『契約』は、直ぐに消え失せちゃうんですよね。
ーーそう言うの、困るんです。」

「はあぁ?」

「だ か ら。
それを防ぐ為に契約書を交わしましょうね♡」

キリルはまるでミルクを舐めた猫のようだ。
その蕩ける様な微笑みは、学園で上手く人を動かしてきた。
どことなく不穏なものを感じて、アルベルトは負けないように丹田に力を入れた。
エルダスは不覚にもデレっと見惚れた。

エルダスの方が与し易し!
と、見切ったキリルはエルダスに向き合ってにっこりする。

「エルダス様の方がこの領地の事情もお分かりでしょうから契約書を起こして下さいね。
ほら、契約書って、いざという時の為に第三者のサインが必要ですよね。ですからサインもよろしくお願いしますね♡」

急げば面倒事は少なくて済みますよ♡

そう言うと、アルベルトは頷いた。
エルダスはうっかり仕事が増えた事に気がついて愕然となった。
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