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城での生活

6 敬意は90度のお辞儀

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バタバタと御一行様が出ていって。
下から馬車がガラガラと動いて行った。

まあ、ルーアのおやつを見に行こうと歩いたら
ドアの向こうで家令と執事長が、90度のお辞儀のまま固まっていた。

……びっくりした。
明るい部屋からの薄暗い廊下での90度に、"城で歩き回る半身の幽霊伝説"(イミフ)とかのホラーかと思った。

すかさずガゼルにエスコートされて座り。
香り高いお茶を出されてホッと落ち着き。
さぁ、もう一戦か?と気分をアゲた。



ビーチェは前領主夫人の弟で。
調子の良い甘えん坊で。服も宝石もするちゃっかりさんだった、と。
いや、それちゃっかりでいいんかい⁉︎
『蝶の間』が気に入って、気が向いたらふらっとやってくるそうだ。

前領主が亡くなった後も、お見舞いと称してやって来るが子供は嫌いで近寄らせない。
領主夫人の座を狙ってるようで、アルベルトに色目を使っているが相手にされず…。

「付け買いする事は止みませんので、アルベルト様に何度も進言致しましたが…」

領地の財政を管理する家令は溜め息をつく。
アホベルト‼︎ お前かっ!
面倒だからと目を逸らしやがったな。


「そうして王様の発言がございました。」

そこから競乱がはじまりまして…
と、項垂れる執事長。


我こそは‼︎
カリヴァンスに嫁いだら玉の輿♡と、アルベルトのイケメンぶりもあって、自選他薦が湧いて出た。

勿論アルベルトは招いてもいないし、望んでもいないので馬車や宿を用意しなかった。
それでも思い込みの激しい令息達は、
まるで一番に着いたら、景品のように結婚がぶら下がっているかのように騒めいて、勝手に次々と出発していく。

正直、焦ったのは王様でございました。

何せ、整備されていない道を一ヶ月。
王都では考えられない深い森。
村といっても人家がポツポツ。
しかも周りはライバルの馬車。自分より外見も中身もスペックの高いご令息達。

ガタガタと揺れる辛さで、心は折れてまいります。
精神的にかなりの重さだったでございましょう。

こんな僻地に生涯暮らしていくのかしら。
店どころか人家も少ないここで。
……僕、無理かもしれない。
選ばれるのも無理なんじゃないかなぁ…

そうやって折れた心は元には戻りません。

王様は、人の話を聞かずに飛び出す奴は、すぐに現実に覚めるとわかっておられました。
ですから、馬車の通れない細道を王宮の兵に駆けさせました。

「伴侶が欲しい奴は名乗り出よ‼︎
欲しいならおとこを見せて奪え!
勿論有給休暇を与えるぞっ!」

と、言うわけで立ち往生しそうな馬車に兵が助けに駆け付けたのです。
アニマは少ない貴重品。しかも売り込みに行くほどに美貌に自信があるものばかり。
危機に現れた逞しい兵士に、心細い令息はころっと行ったというわけです。


兵士はだいたい下級貴族の次男や三男。
たとえ平民でも腕一本でのし上がれる食いっぱぐれの無い安全牌。
こうして城を目指した令息の大部分が、新たな恋で脱落致しました。

つまり王様は自分のうっかり発言のミスを、集団お見合いと化けさせて人気を博しました。

この兵士に目もくれずに、歯を食いしばって辿り着いた方もいらっしゃいましたが…



「あ、開口一番の愛さない発言と、『後継は決まっている』『子はいらない』とか言って巡回に出て取り残されちゃうんですね」

そして聞きつけたビーチェがお約束の様にやってきて、物理的ににと精神的にもイビり始めると…

そりゃ、グラつく。
でもアルベルトはイケメンだし。
今更どんな顔して…と必死で耐えていても。

帰って来たアルベルトは戦いの後で、返り血と焼けた匂いと死臭にまみれていた。

無理でーす‼︎
帰りますからっ‼︎


「っという流れではなかったのですか?」

再び二人は90度にお辞儀した。
肯定です。
肯定ゆえの追及はここまで。です。

大丈夫。
怒りの矛先はアホベルトです。
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