【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら

文字の大きさ
19 / 59
城での生活

6 敬意は90度のお辞儀

しおりを挟む
バタバタと御一行様が出ていって。
下から馬車がガラガラと動いて行った。

まあ、ルーアのおやつを見に行こうと歩いたら
ドアの向こうで家令と執事長が、90度のお辞儀のまま固まっていた。

……びっくりした。
明るい部屋からの薄暗い廊下での90度に、"城で歩き回る半身の幽霊伝説"(イミフ)とかのホラーかと思った。

すかさずガゼルにエスコートされて座り。
香り高いお茶を出されてホッと落ち着き。
さぁ、もう一戦か?と気分をアゲた。



ビーチェは前領主夫人の弟で。
調子の良い甘えん坊で。服も宝石もするちゃっかりさんだった、と。
いや、それちゃっかりでいいんかい⁉︎
『蝶の間』が気に入って、気が向いたらふらっとやってくるそうだ。

前領主が亡くなった後も、お見舞いと称してやって来るが子供は嫌いで近寄らせない。
領主夫人の座を狙ってるようで、アルベルトに色目を使っているが相手にされず…。

「付け買いする事は止みませんので、アルベルト様に何度も進言致しましたが…」

領地の財政を管理する家令は溜め息をつく。
アホベルト‼︎ お前かっ!
面倒だからと目を逸らしやがったな。


「そうして王様の発言がございました。」

そこから競乱がはじまりまして…
と、項垂れる執事長。


我こそは‼︎
カリヴァンスに嫁いだら玉の輿♡と、アルベルトのイケメンぶりもあって、自選他薦が湧いて出た。

勿論アルベルトは招いてもいないし、望んでもいないので馬車や宿を用意しなかった。
それでも思い込みの激しい令息達は、
まるで一番に着いたら、景品のように結婚がぶら下がっているかのように騒めいて、勝手に次々と出発していく。

正直、焦ったのは王様でございました。

何せ、整備されていない道を一ヶ月。
王都では考えられない深い森。
村といっても人家がポツポツ。
しかも周りはライバルの馬車。自分より外見も中身もスペックの高いご令息達。

ガタガタと揺れる辛さで、心は折れてまいります。
精神的にかなりの重さだったでございましょう。

こんな僻地に生涯暮らしていくのかしら。
店どころか人家も少ないここで。
……僕、無理かもしれない。
選ばれるのも無理なんじゃないかなぁ…

そうやって折れた心は元には戻りません。

王様は、人の話を聞かずに飛び出す奴は、すぐに現実に覚めるとわかっておられました。
ですから、馬車の通れない細道を王宮の兵に駆けさせました。

「伴侶が欲しい奴は名乗り出よ‼︎
欲しいならおとこを見せて奪え!
勿論有給休暇を与えるぞっ!」

と、言うわけで立ち往生しそうな馬車に兵が助けに駆け付けたのです。
アニマは少ない貴重品。しかも売り込みに行くほどに美貌に自信があるものばかり。
危機に現れた逞しい兵士に、心細い令息はころっと行ったというわけです。


兵士はだいたい下級貴族の次男や三男。
たとえ平民でも腕一本でのし上がれる食いっぱぐれの無い安全牌。
こうして城を目指した令息の大部分が、新たな恋で脱落致しました。

つまり王様は自分のうっかり発言のミスを、集団お見合いと化けさせて人気を博しました。

この兵士に目もくれずに、歯を食いしばって辿り着いた方もいらっしゃいましたが…



「あ、開口一番の愛さない発言と、『後継は決まっている』『子はいらない』とか言って巡回に出て取り残されちゃうんですね」

そして聞きつけたビーチェがお約束の様にやってきて、物理的ににと精神的にもイビり始めると…

そりゃ、グラつく。
でもアルベルトはイケメンだし。
今更どんな顔して…と必死で耐えていても。

帰って来たアルベルトは戦いの後で、返り血と焼けた匂いと死臭にまみれていた。

無理でーす‼︎
帰りますからっ‼︎


「っという流れではなかったのですか?」

再び二人は90度にお辞儀した。
肯定です。
肯定ゆえの追及はここまで。です。

大丈夫。
怒りの矛先はアホベルトです。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

グラジオラスを捧ぐ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
憧れの騎士、アレックスと恋人のような関係になれたリヒターは浮かれていた。まさか彼に本命の相手がいるとも知らずに……。

契約結婚だけど大好きです!

泉あけの
BL
子爵令息のイヴ・ランヌは伯爵ベルナール・オルレイアンに恋をしている。 そんな中、子爵である父からオルレイアン伯爵から求婚書が届いていると言われた。 片思いをしていたイヴは憧れのベルナール様が求婚をしてくれたと大喜び。 しかしこの結婚は両家の利害が一致した契約結婚だった。 イヴは恋心が暴走してベルナール様に迷惑がかからないようにと距離を取ることに決めた。 ...... 「俺と一緒に散歩に行かないか、綺麗な花が庭園に咲いているんだ」  彼はそう言って僕に手を差し伸べてくれた。 「すみません。僕はこれから用事があるので」  本当はベルナール様の手を取ってしまいたい。でも我慢しなくちゃ。この想いに蓋をしなくては。  この結婚は契約だ。僕がどんなに彼を好きでも僕達が通じ合うことはないのだから。 ※小説家になろうにも掲載しております ※直接的な表現ではありませんが、「初夜」という単語がたびたび登場します

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

王太子殿下は悪役令息のいいなり

一寸光陰
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」 そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。 しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!? スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。 ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。 書き終わっているので完結保証です。

処理中です...