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蜃気楼の恋

5 赤い糸とルーア

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何もしたく無くて。
ぼうっと転がってた。
自分の思い上がった心を、静かに見つめてた。


糸も持たず。
誰とも妻合わず。
誰にも愛されず。
誰にも必要とされない、怪物。
一人で生きていくべき怪物。

そう思ってた。

それなのに今はどうだ。
アルベルトに背を向けられてめめしく泣いている。

……馬鹿馬鹿しい。

キリルは反動をつけて起き上がった。


好きな男が出来た。
好きな男と寝た。
守るべき子供ルーアがいる。

以前から見ると、良いことずくめじゃないか。

アルベルトの赤い糸が何処かに向かってたのはわかってた。
わかってた癖に、今更うじうじするなんて‼︎

キリルの心は底辺まで落ちた。
そしてぐんと急浮上した。

二日も転がってれば充分だ。
二日も有れば自分の恋心は成仏してくれる。
ただまだ微妙に身体が重怠かった。


ベッドサイドに持ってきて貰わずに、キリルは自分で洗面所に行って顔を洗った。
鏡には、青白い覇気のない顔が映っている。

馬鹿だなぁ。
他人に期待するから落ち込むんだ。

水を掬うと顔にぶつけて、はぁぁと溜めていた息をだした。
うじうじするのはもう終わり。
いつだって自分は自分だ。


キリルは窓から庭を見た。
ルーアが剣を振っているのが見える。
小さな体が動くのは、子犬の様で微笑ましい。
キリルは微笑む自分にほっとした。
湧いてくるルーアへの愛にほっとした。


『風邪』だからと会わなかった。
無垢な顔を見るのがつらかったからもある。
ルーアはもう一人で眠ってる。
一人で勉強して自立している。
そんな子供に自分のぶれぶれな姿を見せたくなかった。

ガルゼに支度されて部屋を出る。
出会う従者達はほっと眉を八の字にして、挨拶してくる。
ああ、心配かけちゃったんだなぁ。
人のいたわる目にちょっとじんとした。

「キリルママ!」

気付いたルーアが走ってくる。
寝付いてたキリルを案じて、飛び付かずに少し手前で止まって、それでも子犬のように嬉しそうな顔で。
その姿にほっこりと愛が溢れる。

ルーアは陽にキラキラと金髪を揺らし。
青空の様な目で真っ直ぐこっちを見てくる。
アルベルトに似ている。
改めて思ったが、もう心は痛まなかった。
そしてそんな自分に満足した。

大きくなったなぁ。
将来イケメンでモテモテだ。
僕が育てたから性格も良いしね。
抱きついた頭が胸に掛かるのをしみじみと思った。

ルーアの体温にうっとりして、キリルは遅れて気付いた。

無垢なルーアの赤い糸は珊瑚のような色だ。
今まで、まだ相手が生まれてないのか虚空に消えていた。
その糸がはっきりと見えている。

キリルはびくりと震えた。

その糸はルーアの指にしゅるりと煌めいて、抱きついたそのままに、真っ直ぐキリルの腹の中へと沈んでいた。

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