帽子ねこマルルはコンパニオンですの

たまとら

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2 帽子ねこのたしなみ

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帽子ねこが駅から出た時、御者の目は飛び出した。
だって自分の肩ほどの大きな猫が二本足で歩いて来たのだ。
しゃなりとした気取った足取りで、バランスをとった尻尾がゆらゆらしている。
猫はそりゃもう素敵なラベンダー色の帽子を被っていた。
帽子には虹色ひなげしがさしてあって、飾りのレースがひらひらして、とてもとても似合っていた。
房飾りのついた傘と木の持ち手のハンドバッグを持っている。
辺りの人の注目を浴びながら、猫は馬車へとやって来た。

「ボーダーさんからのお迎えかしら?」

喉を鳴らす様な甘い声に、御者は慌ててお辞儀をしたのだ。



帽子ねこにとって人族が自分の魅惑の姿に見惚れるのは、月が3つあるのと同じ当たり前の事だったので、周りからじろじろ見られるのにも全く動じていなかった。
自分の素敵な耳や美しい尻尾をチラチラ見ている御者は、きっと屋敷に着いてから使用人溜まりで自分の事を興奮して話すだろう。

きっとこの辺りの人は帽子ねこに馴染んでいないのだわ。
猫は髭を微かに震わせて笑った。




ボーダー夫人はガヴァネスの面接に現れた猫に驚きました。

「帽子ねこのマルルですわ。」

それはそれはしなやかで美しい礼をされ、ボーダー夫人の心は大変な事になったのです。
だって猫はあまりにも平常運転で当たり前のように挨拶したのですから。

"え?猫が歩いて喋るって普通の事?"
"帽子ねこって何⁉︎"

ボーダー夫人の心はパニックです。

この面接は王都のポワリリエ夫人から、
「んまぁ!ガヴァネスをお探しですの‼︎とびきりの方をご紹介しますわぁ」と紹介されたものでした。
つまり帽子ねこは王都では普通で、知らない自分がとんだ田舎者の物知らずという事になります。
その事に思い至った途端に、ボーダー夫人はもう何百もの帽子ねこと会ってるかのように鷹揚に頷きました。

帽子ねこマルルはポワリリエ夫人だけでなくキラボン公やサンド卿の紹介状も持っている、とても立派な猫でした。
その柄はサビです。
こちらを真っ直ぐ見返す素敵なトルコ石みたいな瞳は、右は黒い毛でくっきりと見え左は斑らでお茶目に見えました。
目尻に伸びる赤が笑い皺のようで、ボーダー夫人は徐々に笑い声も出すほどに打ち解けました。

そういえば、ずっと昔にもう天国に旅立ったおばあさまが帽子ねこという種族の話をしていた様な気がします。
家付妖精で幸せを呼ぶと仰っていた様な…あれ?ソレはマネキネコの話だったかしら。



「実は私、ガヴァネスではなくコンパニオンなんですの…」

帽子ねこは秘密を打ち明けるように、囁くように告げました。

「ですから、ガヴァネスのお仕事はそのぉ…」

上品な言い淀みに、ボーダー夫人は『お断り』を嗅ぎつけて焦りました。
だって激アツな紹介状から、帽子ねこマルルが自分の望みにピッタリだとわかったからです。

一年前にキラボン公子があの礼節と頭脳がとびっきりでないと、試験を受ける事さえ出来ないハバトビ大学という最高学府に合格したのです。
キラボン公子は幼いころからとんだ悪たれで、誰もが入る初等科を一週間で退学になった強者でした。
初等、中等とダメダメな悪い噂しか聞こえない高貴な方は、高等で『いまさらガヴァネスが付いたらしい』という噂とともにプッツリ表舞台から消えました。
ソレがいきなりのハバトビのですもの。
阿鼻叫喚な噂が、津々浦々を稲妻の様に駆け巡りました。


キラボン公の紹介状の高めの圧からみるに、どう考えてもそのガヴァネスは目の前にいる帽子ねこマルルです。

ボーダー夫人はそんな素晴らしい宝物を、つるっと手から離すほどお間抜けさんではございませんでした。
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