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番は特別らしい

3 番への盲想

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サンドロはすぐにわかった。
自分の番がここにいる。

細胞の一つ一つが飢えたように騒めいて、歓喜の叫びが轟轟と頭に吹き荒れた。

年寄り達の『合えばわかる』と言う言葉を鼻先で笑っていたのに…
もう、空気すらも違うのだ。
滴り落ちる甘い陶酔で、もう何も考えられない。

取り憑かれるとはよく言ったものだ。
"番を亡くした者は狂う"という話を、馬鹿みたいだと笑ってたのを殴ってやりたい。
顔もまだ見ていないのに、この番を失ったら生きてはいられない。

サンドロはその愛おしい番を探した。

サンドロは由緒正しいアンパット家の跡取りだ。子供は自分一人だ。
でも従兄弟のジャダがいる事で、家の存続は安泰だと祖父はいう。
ジャダは自身も召喚魔法陣に魔力を注いだし、俺の為にこの旅では侍従と護衛のお目付役として付き添ってくれている。

この召喚の儀は、待ち焦がれたあちこちから参加の要請があったという。
上は棺桶に爪先を引っ掛けた御老体でさえ、独身者は手を挙げたそうだ。
そのくらい皆は番を望んでいる。
この世界で会えないのなら、相手は異世界に生まれたのだと沢山の者が召喚を祈っていた。
いつからだろう、子供が生まれにくくなったのは。
でも召喚の儀をしてから、人口はゆるゆると増えているそうだ。

番同士だと子供は出来やすい。
しかも異世界人だと、魔素の澱みを受けていないので沢山の元気な子供が出来るらしい。
俺はそれを話半分に聞いていた。

父上と母上は番ではなかった。
番契約で結婚した。
それでも互いに労りあって、見ているだけで微笑ましい愛がある。
だいたい、番と言うものに夢を見過ぎなのだ。
大袈裟で困ったものだ。大概にいてほしい。
俺は年寄り達をそう思っていた。
なのに…  この体の騒めきはどうだろう‼︎
見なければ。
見つけなければ‼︎
自分の身体が焦れていく。
息の仕方さえ忘れたようだ。
本能の、奥の奥がひたすら震えて相手をさがしている。


そして見つけた。
向こうに黒い髪を揺らめかせている彼女がいた。
目が潤む。知らないうちに涙が止まらない。
体中の全てが彼女に向かっていく。

彼女が笑う。美しい。
彼女の声が聞きたい。
彼女に見つめて欲しい。

ふらふらと近づくと、彼女の隣に男がいた。
ひょろりとした黒髪の男。彼女が指先を触れさせている。
彼女がその手を置いている。

誰た‼︎
胃から腹から尻からと、捻れるような苛立ちが溢れていく。
足元がぐにゃぐにゃと崩れて立っているのがやっとだ。
彼女がそいつに笑い、俺の殺意が膨れ上がった。

「サンドロ。落ち着け。」

異変を察したジャダが囁く。
無理だ。
お前は番が見つからないから、そんなに落ち着いていられるんだ。
無理だ。
このドス黒さは自分では止められない。


「きゃっ!」

小さな声が耳朶を打った。
黒い髪がふわりとひろがる。

彼女が叫んだ。
彼女が倒れる。
彼女が危ない。

「待てっ!サンドロォ‼︎」

彼女を助ける為に踏み出したサンドロは、レンの肩を掴むと殴り飛ばしていた。
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