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9 戦友

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街に行って腹が括れたのかフィルは落ち着いた。
食べる時も書く時も、指差し一つを意識して動かす。
バーロイはそんなフィルに、自分も腹を括った。


フィルはすごーく、すごーく考えた。
チビ達もそうだけど。
俺。
俺だって将来を考えなければいけない。
今まで将来なんてこと、存在さえしていなかった。

字が書けて読めて、礼儀作法が出来る。
そりゃ、卒業証書は自分のものじゃ無いけれど。
覚えたのは自分のモノだ。
ソレがあれば良い所に勤められるだろう。
上手くすれば孤児院を卒院したけど、行く当てが決まらなかったちびを引き取れるかも知れない。

もう、スラムには帰れないし。帰らない。
あそこはもう、俺を迎えてはくれない。


そう、ストンと決めた時に。
口では言わなくても、バーロイとフィルは戦友になった。

もう腹を括って遠慮の無くなったフィルは、バーロイの目をじっと見る。


「あのさ。
あんたやフィル様って生まれた時からお貴族様でさぁ、金もあって食うに困ってなかったんだろ」

唐突に喋り出したフィルに、バーロイは怪訝な顔をした。

「俺はさ、食うのに精一杯で勉強なんて夢の世界だった。だからさ、勉強するのも慣れてない。
どうやってやるのかよくわかんない。
だから多分あんたより覚えるのがすっげぇ遅いと思うけどさぁ…」


くさくて汚いのに人がぎゅうぎゅうにいる下町に行って、バーロイは初めてそこで保護者も無く生きていく事を想像した。
身を寄せ合わないと生きられない事を考えていた。

「俺。きちんとフィル様になるから。
一生懸命フィル様になるから。
~~よろしくお願いします」

そこで初めてぺこりと頭を下げた。

面食らったバーロイは、真っ直ぐフィルと目を合わせ、ちょっと考えてからうんと頷いた。

「あ、明日からね!
今日は勘弁して‼︎
明日からフィル様に成り切っちゃうからさ!」

慌てたフィルがちょっと可愛くて、バーロイはわかったよ。っと初めて笑った。


そして学園は前期が終了し、夏季休暇に突入した。
フィルの覚えている事は着々増えて。
いつのまにか壁の紙や表が消えていった。

鞭の出番も少なくなり。
たまに褒められながら、バーロイを従者として図書館や大使館のお茶会にでた。
(驚き‼︎バレないもんだ!)

そして流れるような所作を無意識のうちにできるようになったころ。

学園で新しい学期が始まった。
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