3 / 17
攻略対象者【D】の戸惑い
1 D-思い出す
しおりを挟む
デュークはビアズリー公爵家の長男である。
文武両道で冷静沈着。
クールビューティーと言えば聞こえはいいが、人がビビって近寄らなくなる程の冷徹完璧超人なお兄さん。
……に、将来なる予定だった。
潔癖が過ぎていつも手袋をしている。
そして重度な人嫌い。
王立学園の3年の時に入学してくる弟の同級生がヒロインで、彼の光属性の魔法で心の闇が解けていく。
……予定である。
攻略対象者-D。
そう呼ばれるデューク・ビアズリーは、そのルートに入らなければわからない、マザコンナルシストの鬼畜野郎だった。
そして、例の如く前世の記憶を持っていた。
デュークがその記憶を思い出したのは"血"が引き金だった。
生臭い匂い。
鉄臭さが鼻の奥を刺激する。
まだ新鮮な為に手がぬるりと滑って、体温を手放した身体に覆い被さった。
二歳の頭でっかちの体は言う事を聞かない。
ばたばたと蠢いて、手を付いて頭を上げると、そこが母様の上だと気がついた。
二日前から屋敷がバタバタしていた。
大好きな母様と引き剥がされ、デュークは従者と部屋に押し込められていた。
人の気配がバタバタざわざわと落ち着かない。
従者も気もそぞろで、何かが起こっていると、ドキドキした。
泣いても母様も父様も来てくれない。
ドアノブは手の届かないくらいに高い。
絵本を貰っても、おやつを貰っても心のざわざわは落ち着かず。
夕食のワゴンを押す従者の隙を突いて抜け出した。
廊下に出ると、あちこちに泣き声や叫び声がしている。
みんなは互いに縋って泣いていて、デュークはこっそりと廊下を進んだ。
びくびくと人目をさけて、そろそろと母様の寝室に行く。
そこはしんと暗く。
薬草と生臭い匂いが充満していた。
誰かがベッドにいるのがわかった。
きっと母様だ。
お腹が大きかったから、しんどいって休んでるんだ。
そう思って、いつものようにベッドに這い登った時。
血の匂いがわっと攻撃してきた。
いつも優しい顔は怖いくらいによそよそしく。
むせかえる血の匂いと、足早にやって来た死の匂いが、がんがんと頭の中を揺さぶった。
起きて。
ねぇ、起きて。
異常を感じて揺さぶると、力が抜けたゴムの様な感触がして。
もうこの体はお前のものじゃ無いと告げていた。
シーツと体に揺すられてぬちゃぬちゃと血が粘る。
デュークの手も血で染まり、ズボンも袖も、まだ生暖かい液体が沁みてくる。
それは"死"と言うものが巻き付いてきたようで。
振り払えないその匂いに、ぞわりと総毛だった。
頭の中で悲鳴が響く。
どうも自分が叫んでいるようだ。
喉が痛い。
誰かが走ってくる足音がする。
それでも叫びながら、薄れていく意識の中で、
『あ、これデュークじゃ無いのぉ?』
と、呑気な声がした。
……と、言うわけで。
デュークは攻略対象者Dとしてここにいる事を思い出したのだった。
母様は弟を産む為に命を落とした。
デュークは死亡した母様が、死化粧される前に忍び込んで。
死体を目にしてパニックになって気絶した所を保護された訳で。
その事がデュークに、ちょっとヤバい心の闇を引き起こす。
……に、なるはずだった。
文武両道で冷静沈着。
クールビューティーと言えば聞こえはいいが、人がビビって近寄らなくなる程の冷徹完璧超人なお兄さん。
……に、将来なる予定だった。
潔癖が過ぎていつも手袋をしている。
そして重度な人嫌い。
王立学園の3年の時に入学してくる弟の同級生がヒロインで、彼の光属性の魔法で心の闇が解けていく。
……予定である。
攻略対象者-D。
そう呼ばれるデューク・ビアズリーは、そのルートに入らなければわからない、マザコンナルシストの鬼畜野郎だった。
そして、例の如く前世の記憶を持っていた。
デュークがその記憶を思い出したのは"血"が引き金だった。
生臭い匂い。
鉄臭さが鼻の奥を刺激する。
まだ新鮮な為に手がぬるりと滑って、体温を手放した身体に覆い被さった。
二歳の頭でっかちの体は言う事を聞かない。
ばたばたと蠢いて、手を付いて頭を上げると、そこが母様の上だと気がついた。
二日前から屋敷がバタバタしていた。
大好きな母様と引き剥がされ、デュークは従者と部屋に押し込められていた。
人の気配がバタバタざわざわと落ち着かない。
従者も気もそぞろで、何かが起こっていると、ドキドキした。
泣いても母様も父様も来てくれない。
ドアノブは手の届かないくらいに高い。
絵本を貰っても、おやつを貰っても心のざわざわは落ち着かず。
夕食のワゴンを押す従者の隙を突いて抜け出した。
廊下に出ると、あちこちに泣き声や叫び声がしている。
みんなは互いに縋って泣いていて、デュークはこっそりと廊下を進んだ。
びくびくと人目をさけて、そろそろと母様の寝室に行く。
そこはしんと暗く。
薬草と生臭い匂いが充満していた。
誰かがベッドにいるのがわかった。
きっと母様だ。
お腹が大きかったから、しんどいって休んでるんだ。
そう思って、いつものようにベッドに這い登った時。
血の匂いがわっと攻撃してきた。
いつも優しい顔は怖いくらいによそよそしく。
むせかえる血の匂いと、足早にやって来た死の匂いが、がんがんと頭の中を揺さぶった。
起きて。
ねぇ、起きて。
異常を感じて揺さぶると、力が抜けたゴムの様な感触がして。
もうこの体はお前のものじゃ無いと告げていた。
シーツと体に揺すられてぬちゃぬちゃと血が粘る。
デュークの手も血で染まり、ズボンも袖も、まだ生暖かい液体が沁みてくる。
それは"死"と言うものが巻き付いてきたようで。
振り払えないその匂いに、ぞわりと総毛だった。
頭の中で悲鳴が響く。
どうも自分が叫んでいるようだ。
喉が痛い。
誰かが走ってくる足音がする。
それでも叫びながら、薄れていく意識の中で、
『あ、これデュークじゃ無いのぉ?』
と、呑気な声がした。
……と、言うわけで。
デュークは攻略対象者Dとしてここにいる事を思い出したのだった。
母様は弟を産む為に命を落とした。
デュークは死亡した母様が、死化粧される前に忍び込んで。
死体を目にしてパニックになって気絶した所を保護された訳で。
その事がデュークに、ちょっとヤバい心の闇を引き起こす。
……に、なるはずだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
43
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる