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攻略対象者【D】の戸惑い

1 D-思い出す

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デュークはビアズリー公爵家の長男である。
文武両道で冷静沈着。
クールビューティーと言えば聞こえはいいが、人がビビって近寄らなくなる程の冷徹完璧超人なお兄さん。
  ……に、将来なる予定だった。

潔癖が過ぎていつも手袋をしている。
そして重度な人嫌い。
王立学園の3年の時に入学してくる弟の同級生がヒロインで、彼の光属性の魔法で心の闇が解けていく。
  ……予定である。


攻略対象者-D。

そう呼ばれるデューク・ビアズリーは、そのルートに入らなければわからない、マザコンナルシストの鬼畜野郎だった。

そして、例の如く前世の記憶を持っていた。


デュークがその記憶を思い出したのは"血"が引き金だった。

生臭い匂い。
鉄臭さが鼻の奥を刺激する。
まだ新鮮な為に手がぬるりと滑って、体温を手放した身体に覆い被さった。
二歳の頭でっかちの体は言う事を聞かない。
ばたばたと蠢いて、手を付いて頭を上げると、そこが母様の上だと気がついた。


二日前から屋敷がバタバタしていた。
大好きな母様と引き剥がされ、デュークは従者と部屋に押し込められていた。

人の気配がバタバタざわざわと落ち着かない。
従者も気もそぞろで、何かが起こっていると、ドキドキした。

泣いても母様も父様も来てくれない。
ドアノブは手の届かないくらいに高い。

絵本を貰っても、おやつを貰っても心のざわざわは落ち着かず。
夕食のワゴンを押す従者の隙を突いて抜け出した。

廊下に出ると、あちこちに泣き声や叫び声がしている。
みんなは互いに縋って泣いていて、デュークはこっそりと廊下を進んだ。

びくびくと人目をさけて、そろそろと母様の寝室に行く。


そこはしんと暗く。
薬草と生臭い匂いが充満していた。

誰かがベッドにいるのがわかった。
きっと母様だ。
お腹が大きかったから、しんどいって休んでるんだ。

そう思って、いつものようにベッドに這い登った時。
血の匂いがわっと攻撃してきた。


いつも優しい顔は怖いくらいによそよそしく。
むせかえる血の匂いと、足早にやって来た死の匂いが、がんがんと頭の中を揺さぶった。

起きて。
ねぇ、起きて。

異常を感じて揺さぶると、力が抜けたゴムの様な感触がして。
もうこの体はお前のものじゃ無いと告げていた。

シーツと体に揺すられてぬちゃぬちゃと血が粘る。

デュークの手も血で染まり、ズボンも袖も、まだ生暖かい液体が沁みてくる。

それは"死"と言うものが巻き付いてきたようで。
振り払えないその匂いに、ぞわりと総毛だった。

頭の中で悲鳴が響く。

どうも自分が叫んでいるようだ。

喉が痛い。


誰かが走ってくる足音がする。
それでも叫びながら、薄れていく意識の中で、
『あ、これデュークじゃ無いのぉ?』
と、呑気な声がした。



……と、言うわけで。
デュークは攻略対象者Dとしてここにいる事を思い出したのだった。


母様は弟を産む為に命を落とした。
デュークは死亡した母様が、死化粧される前に忍び込んで。
死体を目にしてパニックになって気絶した所を保護された訳で。
その事がデュークに、ちょっとヤバい心の闇を引き起こす。
  ……に、なるはずだった。
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