攻略対象者【D】は、重めの愛にへこたれない

たまとら

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攻略対象者【D】の戸惑い

11 D-は溺愛する

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「にぃに」

も一回言ってー

「にぃに」

…天使かっ!
ここに天使が降臨したぞっ‼︎


感動のあまり仰け反って転げ回るデュークを見て、ユアンがきゃっきゃと笑う。
昇天せんばかりのデュークに、従者達の目は生温い。

「にぃに♡」

死ぬ。
キュン死にするっ‼︎

母様ありがとう。
僕にユアンを残してくれて。

ゲームのデュークよ、おまえは馬鹿だ。

今、デュークは日々キュンに生きていた。

寝返りをうつユアン。
はいはいをするユアン。
つかまり立ちをするユアン。

転んで頭を打たないように、リュック型の頭カバーを従者と縫った。
ユアンの為に羽をつけて天使にした。
おかげでほとんど無かった裁縫の腕が、かなり上達したのは言うまでもない。

よちよちしたお尻が振られて、鼻血ものに可愛い。


はじめデュークの熱狂を苦笑で見ていたジョコモも、ウィレムと共に今ではユアンに夢中だ。

こんなに愛されたユアンが、僻んだ悪役令息にならない!
はず。だ。


デュークは余計なフラグは少しでも折ろうと窓をみる。
学園に入学するまでに、折って折って折るのだ!



真夜中、湖の上にはぽっと灯がともる。
前世でもエンバーミングというものがあったが、母様の遺体は"ナントカ魔法"で綺麗なままらしい。

つまりあの納棺堂のなには、何代も前の爺さん婆さんの遺体もあるわけで。
その中に通うおやぢは、ある意味賞賛出来る。
その狂気とも言える一点集中な愛は、デュークの体にも脈々と流れてるようで、ちょっと気味悪い。


あれからおやぢはいっさい目を合わせない。
すれ違っても抜け殻のようにぼうっとしている。
冬の幽霊というやつで、正直面倒くさい。

しっかりせいやっ‼︎
と、揺さぶりたかったが、子育てのエネルギーが減るから我慢して耐えた。

そして、もう限界だ。



夜明け前。
紺から紫に色を変えた空は、向こうに紅蓮のオレンジ色を隠している。

ゆらゆらとした灯が、島から水面に滑り降りて、船着場へと向かってきた。
男の影が、ゆるゆると舟から降りる。
そのままゆるゆると、館へと向かった。


デュークは眠い目を擦りながらベッドから這い出ると、両頬を叩いて気合いを入れた。

公爵はふらふらと館に戻ってくる。

二階のプライベートフロアへと階段を登って来た時。
デュークは立ち塞がった。


こんな顔してたのか…。
と、腹の中で思った。
げっそりと窶れたその男は、まじゾンビだった。
無精髭と隈と生気のない目。


まだ夜明け前の廊下の灯は薄暗く点っている。
そこに立ち塞がった子供は、愛するシーレそっくりで、公爵は棒立ちになった。

常夜灯を反射してキラキラした髪が取り巻く顔は、眩しい程に整っている。
そしてエメラルドのような瞳が、真っ直ぐこっちを見ていた。
まるで断罪の天使が降臨したようだ。


「お久しぶりです。父様。」

自分が父親の顔を忘れてたように、こいつも俺がわからないだろう。
と、挨拶してみた。

すっごく驚いた顔をされたので、やっぱりなって思った。

「あなたが放ってたうちにユアンは大きくなりました。」

そう言うと、おやぢは訝しげに首を傾げた。
おいおい、ユアンって名前がわからないのか?
まじ最低。

「母様そっくりの顔で、にぃに♡と呼んでくれます。」

母様そっくりに反応して、おやぢはびくりとこっちをみた。
初めてはっきり目が合う。

「このまま育てば母様そっくりになります。
あなたのことは会ってもいないから、"知らないおじさん"って言うんでしょうね。」

母様の声色で"知らないおじさん"と言う。
おやぢの目が、瞬いた。
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