17 / 17
悪役令息のなりそこない
悪役令息の夢・天使・
しおりを挟む
『婚姻が決まったら、回復薬で綺麗さっぱり直すから。』
傷口に薬を塗りながら食い下がるウィレムに、デュークはうるさそうに吐き捨てた。
傷薬といっても、公爵家の使用人が使うものより遥かに程度の低いものだ。
なんとか血を止めるだけで、皮膚のダメージを回復させない。
それはデュークの意向で。
酷い傷跡にウィレムはいつも心が痛んだ。
楽しみの時間が終わったデュークは、綺麗な自分に汚れがつかないように手袋をする。
出血で気を失ったユアンを世話するウィレムは、なおも食い下がってきた。
『服を着てたらわからないだろう。』
肩をすくめたデュークに、ウィレムはもう返す言葉がなかった。
せめて自分に回復魔法があったら。
ユアン様の苦しみを減らす事ができるのに…
ウィレムはユアンの世話をする。
他の従者達にこれを見せてはいけない。
血の跡はクリーンを掛ける。
風呂の世話も全てウィレムがする。
多分、他のもの達は気がついている。
でも直接見るのとは違うから。
何度も懇願した。
でもあまりお諌めすると、その反動はユアン様に向かう。
あの時。
無理矢理体を開かれて、血溜まりに転がっていた時。
その目は、もう助けを諦めて何も映していなかった。
あの翠の目が凍ったように見開かれていた。
ああ、旦那様。
貴方のお子様を見て下さい。
こんなに歪になったこの家に、気付いてらっしゃいますか。
お許しください奥様。
お許しくださいユアン様。
私は何も出来ない。
せめてこの傷をお直ししたいのに。
それさえも出来ない。
心弱い私をお許しください。
鬼が来る。
僕は時々気を失う程に血を流す。
だから剣の稽古もあまり出来ない。
鬼が来る。
血が少なくて倒れるから、虚弱なお子様だと家庭教師達は言う。
大事にしてくれる。
鬼が来る。
でも、誰も助けてくれない。
鬼が来る。
誰か、助けて。
「た、すけ…て…」
小さな声が上がった。
誰かがぎゅっと抱きしめてくれた。
「大丈夫。怖い夢だよ。大丈夫。
ここにいるよ。愛してるよ。」
そう繰り返しながら背中をトントンしてくれる。
温かくって、柔らかくって、いい匂い。
大好きな匂い。
涙で固まっていた目を開けて、ぱしぱししたら、目の前に天使がいた。
ああ、大丈夫。
悪い夢だったんだ。
この抱っこがあれば大丈夫。
鬼はどこにもいない。
愛してるよ。
いい子だね。
その言葉に、僕はうっとりと兄様に抱きつく。
子守唄を歌ってくれるから、もう少し一緒にねんねしよう。
ん、兄様、大好き。
傷口に薬を塗りながら食い下がるウィレムに、デュークはうるさそうに吐き捨てた。
傷薬といっても、公爵家の使用人が使うものより遥かに程度の低いものだ。
なんとか血を止めるだけで、皮膚のダメージを回復させない。
それはデュークの意向で。
酷い傷跡にウィレムはいつも心が痛んだ。
楽しみの時間が終わったデュークは、綺麗な自分に汚れがつかないように手袋をする。
出血で気を失ったユアンを世話するウィレムは、なおも食い下がってきた。
『服を着てたらわからないだろう。』
肩をすくめたデュークに、ウィレムはもう返す言葉がなかった。
せめて自分に回復魔法があったら。
ユアン様の苦しみを減らす事ができるのに…
ウィレムはユアンの世話をする。
他の従者達にこれを見せてはいけない。
血の跡はクリーンを掛ける。
風呂の世話も全てウィレムがする。
多分、他のもの達は気がついている。
でも直接見るのとは違うから。
何度も懇願した。
でもあまりお諌めすると、その反動はユアン様に向かう。
あの時。
無理矢理体を開かれて、血溜まりに転がっていた時。
その目は、もう助けを諦めて何も映していなかった。
あの翠の目が凍ったように見開かれていた。
ああ、旦那様。
貴方のお子様を見て下さい。
こんなに歪になったこの家に、気付いてらっしゃいますか。
お許しください奥様。
お許しくださいユアン様。
私は何も出来ない。
せめてこの傷をお直ししたいのに。
それさえも出来ない。
心弱い私をお許しください。
鬼が来る。
僕は時々気を失う程に血を流す。
だから剣の稽古もあまり出来ない。
鬼が来る。
血が少なくて倒れるから、虚弱なお子様だと家庭教師達は言う。
大事にしてくれる。
鬼が来る。
でも、誰も助けてくれない。
鬼が来る。
誰か、助けて。
「た、すけ…て…」
小さな声が上がった。
誰かがぎゅっと抱きしめてくれた。
「大丈夫。怖い夢だよ。大丈夫。
ここにいるよ。愛してるよ。」
そう繰り返しながら背中をトントンしてくれる。
温かくって、柔らかくって、いい匂い。
大好きな匂い。
涙で固まっていた目を開けて、ぱしぱししたら、目の前に天使がいた。
ああ、大丈夫。
悪い夢だったんだ。
この抱っこがあれば大丈夫。
鬼はどこにもいない。
愛してるよ。
いい子だね。
その言葉に、僕はうっとりと兄様に抱きつく。
子守唄を歌ってくれるから、もう少し一緒にねんねしよう。
ん、兄様、大好き。
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
俺は完璧な君の唯一の欠点
一寸光陰
BL
進藤海斗は完璧だ。端正な顔立ち、優秀な頭脳、抜群の運動神経。皆から好かれ、敬わられている彼は性格も真っ直ぐだ。
そんな彼にも、唯一の欠点がある。
それは、平凡な俺に依存している事。
平凡な受けがスパダリ攻めに囲われて逃げられなくなっちゃうお話です。
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
悪役令嬢の兄、閨の講義をする。
猫宮乾
BL
ある日前世の記憶がよみがえり、自分が悪役令嬢の兄だと気づいた僕(フェルナ)。断罪してくる王太子にはなるべく近づかないで過ごすと決め、万が一に備えて語学の勉強に励んでいたら、ある日閨の講義を頼まれる。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる