攻略対象者【D】は、重めの愛にへこたれない

たまとら

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悪役令息のなりそこない

悪役令息の夢 ・鬼・

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脇腹にぐいと圧力が掛かった。

ぷつっと音が弾ける。
それがすぐに熱い。に変わる。

ぐっと歯を噛み締める。

どくんどくんと頭の中で血が暴れる。

わかってる。
すぐに痛みが追いかけてくるんだ。


痛みを逃す為に、はっはっと口を開けて息をする。
唇がぷるぷるして止まらない。

だめだ。
泣いてはだめだ。
泣いたらもっと酷くなる。

ユアンは傷口が直ぐに、ずくずくと痛みと脈動で震え始めたのを感じた。


はぁはぁと鬼の荒い息がする。

涙の膜で揺れる目を上げて、恐る恐る見上げた。

そこには碧い目をギラギラ光らせた鬼がいる。
白っぽい髪が僕の血でまだらにピンク色に染まっている。
そいつの口元は僕の血が滴って、舐め上げる舌がぺらぺらと動いていた。


泣くな。
泣いたらうるさいともっと殴られる。

痛みを流す事は覚えた。
もうこのくらいの傷は耐えられる。
でも怖くて、震えが止まらない。

それに、ダメージを受けたと思わせないと、この鬼は満足しない。
ほどほどに苦しむ様子を見せる為に、時々涙を流す。

そして、いつも言わされる謝罪の言葉。

「ご、ごめ……さ、い…」

途切れ途切れに掠れた。
いけない。
はっきり耳に届くように言わないと、詰問される。

「ごめ…なさい。生まれて来てごめんなさい。」

ユアンは母親を知らない。
だからその人に謝れと言われても良くわからない。
ただ自分が生まれた事でその人が死んだと言われた。

痛い事がエスカレートしないように、ひたすら謝る。

もう長い事、この生活が続いてるから。
怒りのツボはわかってる。
だからひたすら従順に謝る。




ユアンの血を舌で舐めとると、デュークは目を細めた。


甘い。
母様の血は甘い。

うっとりと血の滲む脇腹を撫であげる。

そこは細かい傷が無尽に走って、鱗のようにテラテラしている。
まるで蛇だ。

白い腹が蜥蜴のようで、デュークは満足する。

母様の血を保って。
母様の瞳を保って。
母様の命を喰い尽くして産まれてきた

でもこんなに醜い身体だ。

俺の方が美しい。
俺の方が母様に似ている。

涙で潤んだ翠色の目をうっとりと見ながら、デュークは今度はももを裂いた。



鬼は手袋をしている。
汚いものに触りたくないと、いつもしている。

以前廊下で見てた時。
鬼は使用人が整えた部屋に、自分でクリーンをかけていた。

勉強の時も食事の時も手袋を外さない。


汚いものは嫌だというのに。
ユアンを呼び出した時はそれを外す。

ゆっくりと、焦らすように、歯で指先を噛んで手袋を脱ぐ。
その時の目はギラギラして、これから始まる事が怖くて声も上げられない。

その陽にあたってない白い手が。
血を絞る為に先の尖った刃物を掴むのを、絶望の思いで見てるしか無い。

手袋は黒い。
ユアンの血を吸って染まるのを隠す為だ。

いつか僕は、この鬼に喰いつくされてしまうだろう。




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