私が猫になってから

フジ

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猫になる前の私

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朝倉家の朝は、今日も息子から乱される。

「お母さん、今日、給食無いんだって~」

食パンをかじりながら息子の陽介が、楽しみだなーって言ったのを、洗濯物を干し終わり、カゴを持ち部屋に入ろうとしていた時に聞いた。

「そーなのー」

ん?と思いながらも、早く食べなさーい遅れるわよーと声を掛けて、カゴを脱衣所に持っていこうとして、ふと、変なことに気付いた。

「ようへーい、それって、お昼で帰ってくること?」

返事を待ちながら、洗わなかったタオルやバスタオルをカゴに入れる。

「ううん~、6時間まであるよ~」
と陽気な声が帰ってくる。


「……え?」

こーゆー時に子供との会話って難しいな、と思う…が。
いやいや、ちょっと待て待て待て。


「お昼ご飯は…」
リビングに急いで戻ると、ふわふわの癖っ毛な息子がこっちを見ながら、ジュースを飲んでいた。

「うん!だからお母さんのお弁当すっごい楽しみ!」

そして勢いよく飲んだから、服は濡れ、床も濡れた。

「あぁ…ママ、汚れちゃった」

時計をパッと見ると、7時50分。
この子が家を出るのは8時過ぎ。



(うそーーーー!)






「もう、ほんっと大変だったんだから!」

ドライヤーをしながら夫の正也にグチグチと言うと、プシィ…と音がかすかに聞こえた。
鏡の中の自分が、2本目かぁ、明日ビールまた買わなきゃ…安いビールでいいか。と少しだけ悪い顔をしていたので、ニコッとしてみる。

「まぁ間に合ったんだろ?」

「そーゆー問題じゃないわよ」

(もー…大変だったね、とか言えないの?…)
とモヤモヤしながら、カチ、とドライヤーを切ってリビングに戻ると、正也さんはこっちを見て、少し濡れたビールを持ち上げた。

「お前も飲むだろう、お疲れさん」

「~~そーゆー所、卑怯!!飲む飲む!」

見ろ、グラスも冷やしておいたぞ、と冷凍庫からキンキンに冷えたグラスを持ってくる。
それに対して、ありがとう~と言いながら、あぁだから冷凍モノが、冷蔵になってたのね…と思う。

しかも、保存がきく干物を解凍されたので、明日は必然的に干物を焼くかみりん干しにするかしかない。

(明日は献立考えていたのにな…まぁ当人は喜んでるからいーか…)

気持ちを切り替えよう。

結婚、育児は切り替えないとやってられない、それは子供が小さい時に学んだこと。

「おっとっとっと~」

釣りとお酒しか楽しみがない夫に、不満をぶつけても仕方ない。考え方を変えると、キンキンに冷えたビールが飲めるのだ。

ニコニコと注いでくれているのを待つ。

おっと、忘れちゃダメね。
戸棚を開けてガサガサと音を立てると、飼い猫のミミがすっ飛んできて、足元でにゃーにゃー!と必死に泣いた。
こーゆー時だけくるんだから、と煮干しを差し出した。

「おいおい、人用の煮干しはダメだろう」

「これは猫用なの。私達のはこっち」

と、コンビニで売っているサラミやチーズが入ったおつまみセットを取り出した。

「はい、お前の」

「ありがとう。正也さんも、お疲れ様です」

2人でコツン、とグラスを合わせると、一気に傾けて、泡のヒゲを2人で作った。






そんな3人と1匹は、どこにでもいる普通の家族だった。



あの日までは。


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