婚約破棄のその先は

フジ

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そして私たちは

終わりの足音

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話し合う部屋はヴェルファン家の一室に決まった。

今はメイドが控えてくれており、お茶を入れてくれている。


あと少しであの人が来る時間になる。貴族同士早く来ることも遅く来ることも失礼なので、時間少し前くらいに訪ねて来て、部屋には時間ちょうどにはいるだろう。

「では、お嬢様…私共は失礼いたしますが…」

お茶を差し出された後に、メイドが不安げに聞いて来た。その瞳が私を心配しているのがわかる。
私とユーリ様を2人にしたくないのだろう。

それはそうだ、今までの私の溺れっぷりと、その後の哀しみぶりは強烈だったに違いない。


「大丈夫です。…お茶、いつもありがとう」

少しでも。少しでもメイド達にも感謝を伝えたくて心を込めて礼を言う。
メイドは、何かあったらお呼びください、と声を震わせて出て行った。


優秀なメイドは足音も立てずに廊下を歩いて行ったみたいでドアを閉めると何も音がしなくなった。
静かな部屋に、お茶のカップの湯気がゆらゆらしている。


静かにカップとソーサーを持ち、ゆっくり飲む。



不思議に気持ちは凪いでいた。

あの人と会うのはもう2ヶ月ぶりで、別れも告げずに婚約を破棄してしまった。
お茶を持つ手が少しだけ震えていることに自嘲気味に笑った。



怒っているのかしら。
それとも悲しんでくれているのかしら。


2人で愛し合った時間は、今でも鮮明に思い出せて。
見つめ合った時間は、永遠にも感じていて。

確かにあの瞳の中に私を焦がすような情熱を感じた。
あの人はあの人なりに私を愛してくれていたんだわー。


でも。

だからこそ。


私はあなたのことを許すことができない。


私はいつも、貴方に伝えて来た。
2人で会いませんか、2人でお食事やお出かけをしませんか。マリー様と3人ではなく、2人で、と。
寂しいわ、と正直に伝えたこともある。


それに、3人ではダメかい?と笑って私の心を引き裂いて来たのは貴方。

こんなに抱きしめて近くにいるのに、まだ寂しいの?と呆れた口調でため息をついたのは貴方。


キスしたり抱きしめたら私が黙ると思っているわよね。気付いているわ。


私を選んでくれない貴方なんて、いらないわ。
もう我慢の限界を迎えたのよ、ユーリ様。


貴方がマリー様を大切に想っているのは笑っている。それが恋愛の意味でなかったとしても、マリー様は確実にユーリ様のことが好きよね。

それに気付かなかった、とは言わせない。

そんなお二人の関係はこれからも続くのでしょう。
もし私とユーリ様が結婚して、子供が産まれても、ずっと続くのでしょう。


耐えられないー。


だから。


だから、ごめんなさい、ユーリ様。


私は、貴方のことを諦めることに、したの。

貴方のために頑張ること、貴方のためにしてきたことを貴方が全てを否定するなら、私は私のために、貴方を全力で否定するわ。


だって、そうじゃないと私が可哀想だもの。
 
私は、私を大切に扱ってくれる人のために、可哀想でいてはいけないの。



だから、ごめんなさい。


ー早くきて、この気持ちが揺らぐ前に、貴方に伝えたい。



少しだけ荒い靴音が聞こえてくる。

こんな足音を立てる人はこの家にはいないー。

あぁ。終焉の足音ねー。




お茶を覗き込んでいる私は、少しだけ、泣きそうな顔をしていた。
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