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これからのわたしは
傷の片鱗
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その時は案外早くに来た。
夜の街で治療が終わり、2人で帰宅している最中だった。前で痴話喧嘩をしている男女がいて、横まで通り過ぎた。
湿った暑い夜だったので、後ろにいるアンジェに、こんな夜に元気だよな、と声を掛けようと振り向いた。
あいつは、何かを凝視していて、その痴話喧嘩をしている男女の方に走って行った。
おいおい痴話喧嘩なんかほっとけよー、と俺が言おうとして。アンジェは逃げなさい!後ろ!と叫んだ。
その言葉に、ハッと気付いた。後ろから誰かが走ってきていた。
男女は、突然走って意味のわからない言葉を言ってくるアンジェを不思議そうに迷惑そうに見ていて気付いていない様子だった。
そして、アンジェより先に、そいつは2人の間を駆け抜けて、その男は違う奴に刺された。
正直、おいおいおい…と思っただけで、特に下町の夜では珍しくない光景だった。
でも、こいつは違った。急に、息が荒くなり、それまで走っていた足が震えて今にもぶっ倒れそうだった。
目の前で、刺された男は先ほどまで喧嘩してた女を巻き込んで倒れた。刺した奴は顔に布を巻きつけていたので分からないが身体から女だろうと予想された。その女は慌てて走って行く。
通行人の俺たちを気にせず、よく刺せたもんだな、と思いアンジェに患者を任せ追いかけようとしたが。
ーいや、多分今は無理だな。
「おい、そこで座ってろ、俺が処置する」
大丈夫だ、とばかりに後ろから頭をくしゃくしゃにして、患者に駆け寄る。
くん、と服を引かれた。
「せんせは追いかけて、ください」
「いや、でもこいつほってたら死ぬぜ?」
ようやく喧嘩してた女が状況を理解し、泣き叫びながら男の名前を呼んでいる。
「わたしが、処置します」
わたしが、わたくしが、と必死にお願いするアンジェに、一瞬逡巡するも、これ以上は犯人を見失うし、患者も危険にさせてしまう。
ーなんて顔してんだよ
「…患者は任せた。死なせたらクビだ」
今にもぶっ倒れそうな顔して強がって。
「任せてください。先生の愛弟子ですよ?先生こそ、捕まえて下さい」
冷や汗を流して、手も震えているくせに。
こんな時くらい甘えればいいのに。
「任せた」
今まで言ったことない、相手を信じるような発言がスルリと口から出てきた。
これまで助手をしてても、処置を1人で任せたことはなかった。これまで1人でしてきて、いきなり助手が出来て、全ての処置を任せるなんて、患者が死ぬ確率を上げるようなもんで。
そこには教育なんてなかった、ただただ、目の前の命を助けたい、救命の確率を上げたい一心だっただけだったがー。
でも、確信する。
ー俺は、こいつを信じている。
こいつならやれると。
同じくらい命を、大切に思っているこいつなら。
俺の患者を任せてもいいと思えた。
「任せた、きばれよ」
その言葉に、あいつは笑った。
走り出す瞬間のあいつの言葉は聞こえたが、聞こえないふりをした。
「今度こそ 助けます」
夜の街で治療が終わり、2人で帰宅している最中だった。前で痴話喧嘩をしている男女がいて、横まで通り過ぎた。
湿った暑い夜だったので、後ろにいるアンジェに、こんな夜に元気だよな、と声を掛けようと振り向いた。
あいつは、何かを凝視していて、その痴話喧嘩をしている男女の方に走って行った。
おいおい痴話喧嘩なんかほっとけよー、と俺が言おうとして。アンジェは逃げなさい!後ろ!と叫んだ。
その言葉に、ハッと気付いた。後ろから誰かが走ってきていた。
男女は、突然走って意味のわからない言葉を言ってくるアンジェを不思議そうに迷惑そうに見ていて気付いていない様子だった。
そして、アンジェより先に、そいつは2人の間を駆け抜けて、その男は違う奴に刺された。
正直、おいおいおい…と思っただけで、特に下町の夜では珍しくない光景だった。
でも、こいつは違った。急に、息が荒くなり、それまで走っていた足が震えて今にもぶっ倒れそうだった。
目の前で、刺された男は先ほどまで喧嘩してた女を巻き込んで倒れた。刺した奴は顔に布を巻きつけていたので分からないが身体から女だろうと予想された。その女は慌てて走って行く。
通行人の俺たちを気にせず、よく刺せたもんだな、と思いアンジェに患者を任せ追いかけようとしたが。
ーいや、多分今は無理だな。
「おい、そこで座ってろ、俺が処置する」
大丈夫だ、とばかりに後ろから頭をくしゃくしゃにして、患者に駆け寄る。
くん、と服を引かれた。
「せんせは追いかけて、ください」
「いや、でもこいつほってたら死ぬぜ?」
ようやく喧嘩してた女が状況を理解し、泣き叫びながら男の名前を呼んでいる。
「わたしが、処置します」
わたしが、わたくしが、と必死にお願いするアンジェに、一瞬逡巡するも、これ以上は犯人を見失うし、患者も危険にさせてしまう。
ーなんて顔してんだよ
「…患者は任せた。死なせたらクビだ」
今にもぶっ倒れそうな顔して強がって。
「任せてください。先生の愛弟子ですよ?先生こそ、捕まえて下さい」
冷や汗を流して、手も震えているくせに。
こんな時くらい甘えればいいのに。
「任せた」
今まで言ったことない、相手を信じるような発言がスルリと口から出てきた。
これまで助手をしてても、処置を1人で任せたことはなかった。これまで1人でしてきて、いきなり助手が出来て、全ての処置を任せるなんて、患者が死ぬ確率を上げるようなもんで。
そこには教育なんてなかった、ただただ、目の前の命を助けたい、救命の確率を上げたい一心だっただけだったがー。
でも、確信する。
ー俺は、こいつを信じている。
こいつならやれると。
同じくらい命を、大切に思っているこいつなら。
俺の患者を任せてもいいと思えた。
「任せた、きばれよ」
その言葉に、あいつは笑った。
走り出す瞬間のあいつの言葉は聞こえたが、聞こえないふりをした。
「今度こそ 助けます」
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