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まぼろしさん
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僕の会社はよく人が辞めていく。
30人弱しか社員が居ない会社にも関わらず、僕が入社してから12年間で12人もの社員が辞めた。一見これだけを聞くと、約半数の人が辞めて会社的に大丈夫なのか?と思われるかもしれないが、その都度社員を補充していくので、全体の人数はほぼ横這いだ。
ちなみに僕より後に入ってきた人間は、1年以内に辞めていく人間が多かった。
理由はまちまちで、夢を追いかけて辞めていったり、結婚や出産を機に家庭に入ると言って辞めていったり、仕事的に合わなくてやめていったり。
僕も最初の頃は、彼らと一緒に仕事をした日々を時々思い出したりしていた。
名前もちゃんと覚えていた。
でも、ある時からそれをやめた。
どうせもう会えないのだから。
そして、僕はそうして辞めていった人のことを「まぼろしさん」と呼ぶようになった。みんな一緒。まぼろしさん。
ある時、後輩が1人まぼろしさんになった。本来なら補充要員を募集して、雇ってとやるところだが、その時は募集しても応募がなかった。
どうなるのか心のどこかで心配していたら、人事部が誰かに電話を掛けているところに遭遇した。電話相手は昔働いていた、別のまぼろしさんだった。もう一度働いてくれないか?と話しをしていた。
受話器から漏れたまぼろしさんの声に、一瞬懐かしさを感じ、思い出がフラッシュバックしそうになった。僕は頭を振って、元のまぼろしさんに戻した。思い出しても寂しくなるだけだ。
結果的に電話の先のまぼろしさんが戻ってくることはなかった。まぼろしさんは、辞める時に語った夢をちゃんと叶えていた。
それを知った僕は素直に嬉しかった。
夢を叶えるためには、手放さなければならないものがあると言うが、まぼろしさんにとってはそれがきっと職場だったのだと思う。
僕は今も同じ会社で働いている。
音楽の夢はとうの昔に置いてきてしまった。僕はまぼろしさんには成れないだろう。何かを手放す勇気など、生憎持ち合われちゃいないのだ。細々とエッセイを書くくらいが丁度いい。(いつも読んでくださっている皆様。ありがとうございます。)
そういえば、夢を追いかけて辞めていったまぼろしさんがもう一人居た。
彼は無事DJに成れたのだろうか。
30人弱しか社員が居ない会社にも関わらず、僕が入社してから12年間で12人もの社員が辞めた。一見これだけを聞くと、約半数の人が辞めて会社的に大丈夫なのか?と思われるかもしれないが、その都度社員を補充していくので、全体の人数はほぼ横這いだ。
ちなみに僕より後に入ってきた人間は、1年以内に辞めていく人間が多かった。
理由はまちまちで、夢を追いかけて辞めていったり、結婚や出産を機に家庭に入ると言って辞めていったり、仕事的に合わなくてやめていったり。
僕も最初の頃は、彼らと一緒に仕事をした日々を時々思い出したりしていた。
名前もちゃんと覚えていた。
でも、ある時からそれをやめた。
どうせもう会えないのだから。
そして、僕はそうして辞めていった人のことを「まぼろしさん」と呼ぶようになった。みんな一緒。まぼろしさん。
ある時、後輩が1人まぼろしさんになった。本来なら補充要員を募集して、雇ってとやるところだが、その時は募集しても応募がなかった。
どうなるのか心のどこかで心配していたら、人事部が誰かに電話を掛けているところに遭遇した。電話相手は昔働いていた、別のまぼろしさんだった。もう一度働いてくれないか?と話しをしていた。
受話器から漏れたまぼろしさんの声に、一瞬懐かしさを感じ、思い出がフラッシュバックしそうになった。僕は頭を振って、元のまぼろしさんに戻した。思い出しても寂しくなるだけだ。
結果的に電話の先のまぼろしさんが戻ってくることはなかった。まぼろしさんは、辞める時に語った夢をちゃんと叶えていた。
それを知った僕は素直に嬉しかった。
夢を叶えるためには、手放さなければならないものがあると言うが、まぼろしさんにとってはそれがきっと職場だったのだと思う。
僕は今も同じ会社で働いている。
音楽の夢はとうの昔に置いてきてしまった。僕はまぼろしさんには成れないだろう。何かを手放す勇気など、生憎持ち合われちゃいないのだ。細々とエッセイを書くくらいが丁度いい。(いつも読んでくださっている皆様。ありがとうございます。)
そういえば、夢を追いかけて辞めていったまぼろしさんがもう一人居た。
彼は無事DJに成れたのだろうか。
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