なんでもいい

最悪の誕生日

あれは、何年か前の誕生日のことだった。
いつも通り仕事をこなしながら、夕飯をどこで食べようか考えていた。
せっかくの誕生日だから、少しくらい豪勢に行きたかった。仕事の途中で近場の焼肉屋を調べたりしちゃって。
その結果、根津にある洋食店タケルで、花咲きオムライスを食べることに決めた。
仕事中からウキウキした気分で居ると、突然スマートフォンにYahoo!より、ニュース速報の通知が来た。
”〇〇被告の死刑が執行されました。”

某宗教団体のトップだった人物の、死刑執行を知らせる通知だった。
それを見た瞬間、頭が真っ白になった。
それまで僕の誕生日と言えば、ビートルズのジョン・レノンとポール・マッカートニーが出逢ったとされる日で、当時シンガーソングライターとして活動していた僕は、そんなことを鼻高々に語っていた。それが”死刑執行”だ。きっとWikipediaにもばっちり記載されるだろう。
なんだか一気にブルーになった。

それからというもの、テレビを点ければ”死刑”。インターネットを開けば”死刑”。死刑、死刑、死刑、死刑。
まるで自分が死刑にでもなったかのような気がしてきた。

結局その日はオムライスを食べに行かなかった。（後日アフターバースデーとして、食べに行った。）
とにかく今行ける”死刑”から1番遠いところに行きたかった。
悩みに悩み、迷いに迷い、辿り着いたのはインドカレー屋だった。
あそこならテレビはあるけど、よく分からないインドの番組がいつも垂れ流しになっているので、安心だと踏んだのだ。
その読みは的中した。
やっぱり、よく分からないインドの番組が流れていた。
僕はビールと値段が高めのディナーセットを頼んだ。誕生日なのだ。インドカレーのフルコースを満喫した僕は、すっかりいい気分になっていた。

お店を後にした僕は、急にアイスクリームが食べたくなった。人というのは不思議なもので、お腹が満たされるとアイスクリームが食べたくなる生き物だ。（違ったらすいません。）
僕は帰り道のコンビニでアイスクリームを買うことにした。アイスを一つ手に取り、レジに並んで会計を終えた。
出口に向かう際、新聞の置かれていたカートと接触した。幸い倒れる寸前で受け止めることが出来た。元に戻す際に、見出しの記事が目に入った。そこには、でかでかと”死刑”と書かれていた。僕の気分は一瞬で振り出しに戻った。台無しだ。

この最悪な誕生日は、このあと数年続くのだと思っていた。メディアなどが盛り立てて。
しかしながら、このことが翌年に持ち越されることは無かった。少し、いや大分ホッとしていたら、当時付き合っていた彼女にフラれた。
別の意味で最悪の誕生日だ。