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ささやかな反抗

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 漫画BECKでコユキ(田中幸雄)が中学生の頃、自分の通っていた中学校の放送室を占拠して、爆音でダイブリ(The Dying Breed)の曲をかけるシーンがある。あれは彼なりのささやかな反抗。日常からの脱却の足掛かりとなるのだが、当時の彼はまだそのことに気付いてはいなかった。

 実を言うと僕も似たようなことをしたことがあった。僕の場合はもっともっとささやかな反抗だったのだが。
 僕が中学三年生の頃、当時バンドを組んでいたこともあり、氣志團にどハマりしていた。そもそもOne Night Carnivalがきっかけでバンドを結成したのだから、言わずもがななのだけれど。(詳細は本エッセイ第17~22回の『寂しがり屋達のOne Night Carnival』を参照ください。)
 氣志團の楽曲を聴いたことがある人はなんとなく分かるかもしれないが、当時の僕の中では”氣志團=大人達への反抗”みたいなイメージがあった。それは単に大人達に対する反抗というだけではなく、大人になることへの反抗みたいなものもあった。本人達も永遠の十八歳と言うてるし。

 あれは、夏休み明けのことだった。僕の通っていた学校では、給食の時間に生徒や教師がリクエストした曲が流れるリクエストコーナーがあった。放送委員会や係があった訳ではなく、生徒会の人達が交代でその係をしていた。流石に放送室を占拠しようものなら、内申点響く。そこで思いついたのが、そう。
「お願いして氣志團を校内放送で流して貰おう。」
 ということだった。

 当時の僕はバンドをやっては居たものの、物静かな草食系男子のような人間だった。クラスの所謂イケてるグループとは、確執は無かったものの明らかな壁があり、いけ好かない気持ちでは居た。氣志團を流すことで、彼らへの細やかな反抗が出来るような気がした。
 偶然にも、僕のクラスには生徒会長が居た。当時の生徒会長は、生徒会長とは名ばかりで裏番長に近い存在だった。マフィアのボス感すらあった。でも、そこそこ僕は親しかった。(はずだ。)
「これお昼の放送で流してくれない。」
「おう。いいよ。」
 内容も確認せず、生徒会長は了承してくれた。
 いざ給食の時間。予定通り曲が流れ始める。

”おりおりおりお~”
”やりやりやりや~”
 野太い唸り声が流れ始め、曲が始まった。
”前歯叩き折れ”  ”あばらをへし折れ” ”ケツアゴかち割れ”
 ここまで流れた時点で強制ストップが掛かった。僕が生徒会長に渡したのは、氣志團の高校与太郎組曲~喧嘩(クォーラル)ボンバー~のCDだった。歌詞カードで放送前にバレるのを避けるべく、100均の紙のCDケースに入れて渡していた。いつもクールな顔の生徒会長が、慌てた顔で僕の元へ駆け寄ってくる。
「何流させてんだ!!」
 この後担任に呼ばれ、説教されたのは言うまでもない。
「あのな。もっと給食の時間に合った音楽を流しなさい。」

 この反抗があったからなのか、僕には反抗期は訪れなかった。ささやか且つ一瞬の反抗期だった。暴走族のバイクのように一瞬で通り過ぎた訳だ。やんちゃな反抗期だったということにしておいてくれ。



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