なんでもいい

榊 海獺(さかき らっこ)

文字の大きさ
88 / 101

ささやかな反抗

しおりを挟む
 漫画BECKでコユキ(田中幸雄)が中学生の頃、自分の通っていた中学校の放送室を占拠して、爆音でダイブリ(The Dying Breed)の曲をかけるシーンがある。あれは彼なりのささやかな反抗。日常からの脱却の足掛かりとなるのだが、当時の彼はまだそのことに気付いてはいなかった。

 実を言うと僕も似たようなことをしたことがあった。僕の場合はもっともっとささやかな反抗だったのだが。
 僕が中学三年生の頃、当時バンドを組んでいたこともあり、氣志團にどハマりしていた。そもそもOne Night Carnivalがきっかけでバンドを結成したのだから、言わずもがななのだけれど。(詳細は本エッセイ第17~22回の『寂しがり屋達のOne Night Carnival』を参照ください。)
 氣志團の楽曲を聴いたことがある人はなんとなく分かるかもしれないが、当時の僕の中では”氣志團=大人達への反抗”みたいなイメージがあった。それは単に大人達に対する反抗というだけではなく、大人になることへの反抗みたいなものもあった。本人達も永遠の十八歳と言うてるし。

 あれは、夏休み明けのことだった。僕の通っていた学校では、給食の時間に生徒や教師がリクエストした曲が流れるリクエストコーナーがあった。放送委員会や係があった訳ではなく、生徒会の人達が交代でその係をしていた。流石に放送室を占拠しようものなら、内申点響く。そこで思いついたのが、そう。
「お願いして氣志團を校内放送で流して貰おう。」
 ということだった。

 当時の僕はバンドをやっては居たものの、物静かな草食系男子のような人間だった。クラスの所謂イケてるグループとは、確執は無かったものの明らかな壁があり、いけ好かない気持ちでは居た。氣志團を流すことで、彼らへの細やかな反抗が出来るような気がした。
 偶然にも、僕のクラスには生徒会長が居た。当時の生徒会長は、生徒会長とは名ばかりで裏番長に近い存在だった。マフィアのボス感すらあった。でも、そこそこ僕は親しかった。(はずだ。)
「これお昼の放送で流してくれない。」
「おう。いいよ。」
 内容も確認せず、生徒会長は了承してくれた。
 いざ給食の時間。予定通り曲が流れ始める。

”おりおりおりお~”
”やりやりやりや~”
 野太い唸り声が流れ始め、曲が始まった。
”前歯叩き折れ”  ”あばらをへし折れ” ”ケツアゴかち割れ”
 ここまで流れた時点で強制ストップが掛かった。僕が生徒会長に渡したのは、氣志團の高校与太郎組曲~喧嘩(クォーラル)ボンバー~のCDだった。歌詞カードで放送前にバレるのを避けるべく、100均の紙のCDケースに入れて渡していた。いつもクールな顔の生徒会長が、慌てた顔で僕の元へ駆け寄ってくる。
「何流させてんだ!!」
 この後担任に呼ばれ、説教されたのは言うまでもない。
「あのな。もっと給食の時間に合った音楽を流しなさい。」

 この反抗があったからなのか、僕には反抗期は訪れなかった。ささやか且つ一瞬の反抗期だった。暴走族のバイクのように一瞬で通り過ぎた訳だ。やんちゃな反抗期だったということにしておいてくれ。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...