最低な恋の終わり、最高の恋の始まり

Short break : 箸休

<🐻>
　学生時代友人とルームシェアをしていた想い出の地、広尾。私がこの地にバーを構えて早10年になる。
　この店では日々色々な人間模様が繰り広げられている。

　お酒を交え仲を深める者、私が居ることを忘れキスをし始める者、痴話喧嘩の仲直りをしようとしている者、別れ話を切り出す者など様々だ。普段の私はその全てに見て見ぬ振りをする。プライバシーというヤツがあるからだ。それに、そもそも興味が無いのだ。

　しかし、今目の前に居る 中川航(24)は違う。気になる。興味しかない。かっこ笑い。
　初来店時、好きだった女の子と自分の親友の仲を取り持とうと奮起したキューピッド、、、いや、お人好しだったが、来る度にヤツは違った表情を見せる。時に待ち惚けで酔っ払い、時に常連で私のアイドル 広瀬小都子(27)に甘えたり、分かりにくいアプローチを仕掛けたりする。一見恋愛不器用に見えて、SとMを上手く使い分けているように思える。いや、待てよ。お人好しキャラ(Ohitoyoshi)と酔っ払いキャラ(Yopparai)もあるから″OYSM″か。OYSMを上手く使い分けているのか！  なんてヤツだ。さては、この男は百面相なんじゃないか？　この他にもあと96の顔があるんじゃないか？　もういっそのこと百面相と呼ぼう！　百面相！　百面相！　いや、やっぱり長いからやめよう。航にしよう。航。うん。その方がしっくりくるしな。

　二人は最初こそ小都子ちゃんの興味本位で話し掛けたのがキッカケだったが、それ以降は航の方から求めている感が強くなった。 鼻息全快で″んー会いたい。んー会いたい。″みたいな。
※注意※ 
航はそのような人物ではありません。

　とにかく、鈍感で真っ直ぐな航と航の分かりにくいアプローチに全く気付いていなかった小都子ちゃん、そして敏腕でイケメンで人気者のマスターの３人を軸に繰り広げられるこの物語。この先どういう展開になるのか。私がシナリオライターだったら、、、

　バシッ！！

「あんたいつまでぶつくさ言ってんのよ！」
　妻の楓だ。楓=メープル。世間一般ではあの甘いシロップを連想させるが、ウチのメープルは糖質フリーだ。このオニヨ、、、

　バシッ！！

　そうだ。私はBlueでは寡黙でイケメンなマスターを演じているが、家では座布団のように尻に敷かれている。今だって財布を渡されコンビニへ走っている。無論、私の財布だ。そして、今は朝の６時半だ。いや、ほら、食べたいんだって。娘がコーンフレークを。可愛い一人娘の頼みとあっちゃねぇ。答えてあげるのが父親の務めってもんでしょう。ついでにシリアルも欲しいんだって。コーンフレークとシリアルの違い全く分かんないんだけどさ。俺全く分かんないんだけどさ。寧ろ違いがあるんだとしたら、シリアルが何者なのか全く分かんないんだけどさ。まぁとにかくそういうことよ。

　話が逸れたね。元に戻すね。男ってのは女の子の連絡先を手に入れた時点で多少なりとも安堵感と達成感を味わうものなの。今回の航の場合も。それで、そこからシフトレバーをセカンドギヤに入れる。つまりね、調子に乗るのよ。そんな時に小都子ちゃんがアプローチのスピード感の話をしてたでしょ？　3～4回目でって。で、次が4回目な訳さ。これは、次面白そうだよね。告白とかしちゃうのかなぁ？

<次回予告>
航運命の告白。小都子に届くのか？乞うご期待！

　みたいな？　みたいな？　マスター楽しみだな。

　さぁ。コンビニ着いたしコーンフレークとシリアルを、、、え？　シリアル置いてない？　いまどきコンビニで？？
い・き・づ・ま・り、行き詰まり。完。