Baseball Side Story

榊 海獺(さかき らっこ)

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三階席のマーチ

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 高校に入って3ヶ月程過ぎた頃、僕には彼女が出来ていた。彼女は野球好きで、中学時代は軟式野球チームでキャッチャーをしていた。ちなみに、彼女のお爺ちゃんは学生時代の高橋由伸の野球バッグに名前の刺繍を入れたことがあり、お父さんは巨人の試合のスタッフをしたことがあるんだとか。(本当か嘘かは未だに確かではない。ただ、お爺ちゃんがスポーツメーカーの下請けで刺繍をしていたのは事実。)

 野球好きの二人とあって、初デートは東京ドームだった。彼女がどこからか交流戦のチケットを貰ったとのことで、一緒に巨人対楽天戦を観に行くことになった。
 ヤンキース対デビルレイズを観て以来の東京ドームに、僕は完全に遠足気分だった。コンビニで沢山のおやつを買って東京ドームへ。ガサガサとビニール袋を揺らしながらゲートを潜る。
 座席は三階席のかなり後ろの方だった。グラウンドまでは相当の距離と高さである。高所恐怖症の僕にはちょっと、いや、かなり厳しかった。それでもなんとか座席へ。座ってからも慣れるまで大変だった。

 試合が始まると僕らは早速買ってきたおやつタイム。高校生なんて食べ盛り真っ只中みたいなものである。ポテトチップスやじゃがりこ、サッポロポテトなどを袋から取り出す。(パーティーでもするんか。)
 適当につまみながら試合観戦。塩っぱいものから攻めた結果、無性に甘い物が食べたくなってしまった。リプトンのミルクティーを買っていたくせに。
「なんかさ、甘い物食べたくない? 売店で何が売ってないかなぁ。」
「あ。そういえば私コアラのマーチ持ってきたよ。」
 なんとも気が利くチョイスだ。彼女の鞄からコアラのマーチが出てきた。
「じゃあ、次はそれにしよう。」
 コアラのマーチの箱を開け、中の銀の包装を開けようとしたところで事件が起こる。勢いよく開けた結果、数個のコアラのマーチが飛び出して転がっていってしまった。あのフォルムのくせに思いの外転がっていってしまった。
 さすがにそのままにしておくことは僕の良心が許さない。とりあえず拾い集めなくては。
「ちょっと拾ってくるわ。」
 そう彼女に告げたものの、そこは三階席。かなりの高さの場所に居ることを立ち上がってやっと思い出した。しかしながら、ここで引いては男が廃る。涼しい顔をして拾いに行くことにした。
 三つは、同じ通路沿いにあったので難なく回収成功。問題は残り一つ。階段で下に転がっていってしまった。急な階段を降りて行かなくてはならない。慎重に、慎重に階段を下る。お気付きかもしれないが、この時点でもう野球観戦どころではない。何が巨人対楽天だ。こっちは三階席のコアラのマーチと戦ってるんだ。

 勝った。なんとかコアラのマーチの回収に成功した。アルマゲドンのテーマソングが脳裏に浮かぶ。それはもう大仕事を成し遂げた勝者の気分だった。(試合中である。) 
 座席に戻り腰を下ろす。もうコアラのマーチを落とすものか。細心の注意を払いながら残りのコアラのマーチを彼女と食べた。
 肝心の試合はというと、茂木栄五郎のホームランで楽天が勝利。僕らはお互いにどちらのファンでも無かったので、「楽天勝ったね。」とかそんな感じの感想を交わしながら帰路に就いた。僕にとってはそんなことより、転がっていったコアラのマーチのシュールな光景と、それを拾いに行った時の急階段の恐怖ばかりが脳裏に焼きついた。この日の想い出として。
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