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第2章
29.彼女が残したもの
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セシルはレイスに巻き付かれ息ができず、だんだん意識が遠のいてきた。そのとき、ぱあっと辺りを温かい光が包み込む。
「……!!」
「なんだっ!!」
『ギィヤーーーーー!!』
今までセシルに巻き付いていたレイスが悲鳴とともにセシルから離れる。光が消えた後、苦しみながら井戸に逃げようとするレイスの背中に、後ろからケントが大剣を思い切り突き出す。
「逃がすかっ!!」
『ギィッ……!』
レイスは一度霧散するがまた元の姿に戻り、今度はケントに向かってくる。セシルはふと懐にあった光魔法の付与された鏡のことを思い出す。懐からそれを取り出すと、セシルは太陽の光を反射させるようにレイスに当てた。
『ギャーー、ヤ、ヤメロ……』
レイスは鏡の光を浴びると悲鳴を上げ、じゅうっと煙のようなものを上げながら、その場に留まりもがき苦しむ。
だが、すでにレイスはかなり井戸の近くにいた。顔のあたりを両手で覆うと、そのままよろめきながら井戸の中に落ちていく。
「くっ!」
ケントは急いで井戸を覗き込む。セシルはレイスが落ちていくのと同時に体の力が抜け、へにゃへにゃと座り込んでしまった。
「セシルっ! おい、大丈夫か!」
ケントはセシルの方を振り返り、大剣を納め、駆け寄ってくる。
「う、うん、何とか……でも、死ぬかと思った……。」
「そうか、よかった……。だけどやっぱり剣だけじゃ無理だな……。斬れねー。」
ケントがセシルを横抱きに抱え上げる。
「とにかく一度ビンゲンに帰ろう。もうすぐ日が暮れる。」
もう既にだいぶ日が落ちているようだ。夕方の5時ごろだろうか。
「うん、ごめん。僕が油断したから……。それと、この鏡、役に立つかも。あと、ケント、僕歩けるから降ろして。」
セシルがケントに申し出ると、ケントはゆっくりとセシルを降ろす。
とにかく夜にレイスとやり合うのはかなり不利だ。ここから早く離れたほうがいい。セシルとケントはケスラーの村を後にする。
村に帰りついて村長宅に行くと、ヤンがセシルとケントの帰りを待っていた。
「おかえりなさい! お二人とも大丈夫ですか? レイスはいましたか?」
ヤンは心配そうな顔でセシル達に歩み寄る。それに対してケントが答える。
「ええ、いました。そして襲われました。やはり武器でいくら斬っても倒せそうにない。」
ケントがそう言った後、ふと思い出したように、セシルは懐の靴と鏡を取り出す。
「ヤンさん、この靴に見覚えはないですか?」
「……!! これを一体どこで!?」
「この村とケスラー村の間の道端で拾ったんです。見覚えがあるんですね……?」
「これは、この靴の花の模様は、イリーネのものです……。ああ、イリーネ、イリーネ……!」
ヤンはセシルから靴を受け取り、靴に施してあった花模様のステッチを指でなぞると、それをぎゅっと抱きしめ、涙を浮かべて震える声で答える。セシルはヤンに鏡を見せてさらに話しかける。
「これも靴の傍に落ちていました。この鏡には光魔法が付与されていて、この鏡に太陽の光を反射させてレイスに当てたら、あいつはかなり苦しんでいました。もしこの鏡がイリーネさんのものなら……。」
セシルは胸が締め付けられるような気持ちで、ヤンに話を続ける。
「この村に、貴方にこれを届けようとしていたのではないかと。」
「イリーネが……? なぜ……。」
ヤンは呆然とした顔でセシルに問いかける。それに対してセシルは話し続ける。
「実は僕、ケスラーでレイスに襲われてもうダメかと思った時、ヤンさんの時と同じだと思うのですが、温かい光に包まれてレイスの力が弱まり助かったのです。その光の魔力の温かさというか質が、その鏡に付与されている魔法のものと同じでした。」
「え……。」
「以前、この村の村長が、イリーネさんが悪霊になって村を襲ったとおっしゃったそうですが、ヤンさんの言う通り僕も違うと思います。なぜならイリーネさんがあの光の持ち主だと思ったからです。」
「なんですって……!」
セシルはヤンに大きく頷き、ゆっくりと話を続ける。
「これは飽くまで推測なのですが、イリーネさんはヤンさんと会う前にレイスの存在を知り、村の危機を知らせるために貴方に会いに行ったのではないでしょうか。この光魔法を施した鏡を持って。だけど、約束が夜だったこともあって、レイスに追いつかれて鏡を使えず殺されてしまった……。」
「なんてことだ……。ああ、イリーネ……。」
ヤンは靴を胸に抱きしめたまま膝をついて俯く。足元に雫がぽたぽたと落ちる。
「イリーネさんはきっと貴方と貴方の村を救いたかったんでしょう。走って、走って……。でも間に合わなかった。」
セシルの目にも涙が溢れる。イリーネの気持ちを思うとやるせなくて堪らなかった。もはやヤンは泣き崩れてしまって言葉もない。
「そう考えると、ヤンさんと僕を助けてくれたあの光……。あれは……。」
セシルはそこまで言葉を発したあと、ぐっと口を噤む。確証もない。ぬか喜びをさせてしまうかもしれない。そう思ったからだ。
「セシル、今日はもう休みな。お前、さっきのでだいぶダメージ受けただろう。」
俯いたセシルの肩に優しく手を置くと、ケントがセシルを労わるように声をかける。するとヤンがはっと顔を上げて口を開く。
「はっ、そうだ! ケントさん、セシルさん、お食事の用意ができてます。お泊りいただく部屋も準備してますから、そちらに食事を持っていきましょう。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます。」
セシルは礼を言うと、ケントと一緒に食事をもらって、準備されたベッドで休ませてもらった。
翌朝、起きて階下に降りると、既にケントは起きていて、椅子に座って何か深く考え込んでいる。
「おはよう、ケント。どうしたの?」
「ああ、おはよう。いや、昨日のレイスのことを考えてた。正直あいつは俺では歯が立たない。あと、あのレイスと女神の祠の黒い靄、関係あると思うか?」
「あー、うん、僕は関係あると思う。あの祠には光の女神様が祀られてるんだよね?」
「ああ、ヤンさんがそう言ってたな。」
「あのレイスの弱点が光魔法なんだとして、その『光の女神』様がレイスにとって脅威だったから封印したとかは考えられない?」
「ふむ……。その可能性はあるな。あいつは昼間でもうろうろしてるから、弱点なのはただの光じゃないな。」
「うん、多分聖属性の光に弱いんだと思う。あのときの光の温かさには神聖なものを感じた。」
「ということは、あの鏡を使えばあるいは……。なあ、セシル、あの鏡の光で祠の靄を祓えないか?」
「あ、なるほど! そうだね、あの靄がレイスの仕業だったら祓えるかもしれない。早速行ってみよう。」
セシル達はヤンとともに光の祠に向かう。祠は昨日と同じように邪悪な黒い靄で覆われている。
早速セシルは陽の光を鏡に反射させ靄に当てる。靄はしゅうと音を立てて蒸発する。
「!!」
「おお!」
ケントとヤンが目を瞠る。セシルはそのまま光を当て続ける。しばらくすると、とうとうすべての靄が取り払われた。
「やったな!」
ケントがにかっと笑って声を上げた。セシルは大きく頷くと、祠の前に跪いて、胸の前で両手を組み、祠に向かって祈り始める。
「光の女神様、闇は取り払いました。さぞ苦しかったことでしょう。どうぞごゆっくりお体をお休めください。」
『何言ってんのよう、休めるわけないじゃないのよう!』
「「「えっ!」」」
突然祠の中から光の塊が飛び出してきた。そしてセシルの周りをくるくる回ったかと思うと、セシルの目の前でぴたりと止まり、その姿を顕わにする。
見ると、身長30センチほどで、全身淡い光に包まれ、ワンピースドレスを着た、ポニーテールの女の子のような姿……。セシルの、今は見えない愛する友人たちと同じ容姿……この子は、精霊?
「光の女神……さま?」
セシルが目を見開いてそう尋ねると、その女神が答えた。
『違うわよう。わたしは光の精霊なのよう。貴女、精霊のいとし子ねえ? わたしはウィルっていうのよう、よろしくねえ。』
ウィルの言葉を聞いて、セシルは慌てて他の二人を見る。明らかにウィルを凝視している。どうやら彼らにもウィルが見えているようだ。セシルは二人に尋ねる。
「もしかして二人ともウィルのこと見えてるの?」
「あ、ああ。はっきりと。」
「ええ、私にも見えます。」
ケントとヤンがセシルに答える。おかしい……。精霊の姿はおばあちゃんとセシル以外には見えないはずなのにどうして……?
『ふふ、今どうしてって思ったわねえ。わたしは今はセシルの魔力を借りて顕現してるのよう。だから普通の人間にも見えるのよう。それというのも、皆に伝えないといけないことがあるからなのよう。』
ウィルはどうやらセシルの考えていることが分かるようだ。そして、なぜかセシルの名前も知っている。
「伝えないといけないこと?」
セシルが首を傾げながら尋ねると、ウィルは大きく頷き、話し始めた。
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