聖女の孫だけど冒険者になるよ!

春野こもも

文字の大きさ
66 / 96
第6章

64.邪悪なもの

しおりを挟む


こんにちは・・・・・、お嬢さん。」

 目の前にはこちらを向いて昏い瞳で歪に笑うエメリヒではない何かが立っていた。
 姿かたちはエメリヒなのだが纏う気配が全く違う。恐ろしく邪悪で強大な……そうだ、ルーンに憑いていたものに近い、悪魔……。

「貴方は、誰……?」

 目の前のエメリヒの形をした何かに尋ねる。それ・・に対して全身の毛穴が開くほどの恐怖を感じる。

「私はエメリヒですよ? 知ってると思っていましたが。ふふふ。」

「……エメリヒの体に入った貴方は誰?」

 ようやく声を絞り出して再び尋ねると、それはくつくつと笑いながら答えた。

「この聖堂に長らく封印されていたものですよ。私の名前はディアボロス。まさかこんなに簡単に出られるなんてね。」

「……どうして出てこれたの?」

「この男の書いた魔法陣に少し仕掛けをしておいたのですよ。邪悪を召喚する魔法陣を描くためには獣の血が使われていましてね。この神殿の神官の精神をほんのちょっと弄ってあらかじめ悪魔召喚に使われる素材に換えてこの男に手渡したんですよ。この男は気づかずにそれを使って魔法陣を描いたわけです。後は使用されるのを待つだけ。」

「用意周到だね……。」

「ええ、封印の綻びを見つけるまでに100年かかりましたよ。ようやくその綻びから精神支配ができる程度にはなりましたよ。」

「それで、貴方は何をするつもりなの?」

「私はこの国の聖女というものが大嫌いでしてね。貴女はこの男が言っていたような傀儡にすることができない。精霊どもに守られていますからね。」

 やはり悪魔には精霊の存在を感じることができるようだ。エメリヒを傷つけたくはない。何とかこの悪魔を彼の体から引き剥がすことはできないだろうか。

「貴方は人間の体から離れて実体化することはできないの? そんな不自由な体に拘ることもないでしょう?」

 にやにやと笑いながらディアボロスが答える。

「この男の体は実に私と相性がいいのですよ。魂の捻じれ、歪み、そして邪悪な魔力。とても心地がいい。実体化できないこともないがやめておきます。貴女の魂胆など見え見えなのですよ。」

 こいつはセシルがエメリヒを傷つけたくないことを知っている。流石悪魔だけあって賢しい。厄介だ。

「だから貴女と上の階にいる聖女が邪魔なんですよねぇ。でもまずは貴女から死んでもらうことにしましょうか。この男は貴女に拘っていて殺したくないようですがね。」

 そう言ってディアボロスが左手を上へ掲げその掌に闇の球体を作る。見る見るうちにその塊は大きくなりそれをこちらに投げうつ。その直径1メートルほどの塊が疾風のごとくセシルを襲う。放たれてから着弾までにそれほどの時差が感じられないほどの速さだ。

「くっ!」

 なんとか反応しそれを寸でのところで避けた。闇の塊は後ろの壁にぶつかり消滅する。ふと後ろを見ると石の壁だったところが大きく抉れ土が剥き出しになっている。恐ろしい破壊力だ。
 セシルはすぐに防御強化プロテクション身体強化ブーストを自身にかける。

「なかなかすばしこいですね。ではこれでどうですか?」

 彼は両手を掲げそれぞれの掌に二つの闇の球体を作る。先ほどと同じようにあっという間に大きくなりそれを同時に投げうつ。

「『防御結界シールドプロテクト』!」

 直前で結界を張るが闇の塊は結界を破りそうな勢いでめり込んでいる。

「ウィル!」

『任せてよぅ!』

「『聖光球ホーリースフィア』!」

 ウィルがその姿を直径2メートルほどの光の塊に変え、闇の塊の一つへ向かう。残りの一つを何とか避けながら、そのまま光の塊を闇の塊にぶつけ打ち消すことができた。

「はぁ、はぁ……。」

 防御結界シールドプロテクトだけでは破られてしまう。だからといってエメリヒに攻撃はできない。
 だけど逃げるばかりではそのうち追い詰められてしまう。相手は悪魔だから魔力切れは期待できないだろう。ディアボロスはあれだけの破壊力のある攻撃をしてきているのに息切れひとつせずにけろっとしている。
 とりあえず足止めができれば!

「ノーム!」

『ふぁい。』

「『堅牢岩プリズンロック』!」

 ディアボロスの足元の床が盛り上がる。まるで床石が液状になったかのごとく蠢き奴の足元から覆い始める。そして腕と首元まで固まった。よし、いける。

「ふふふ、可愛いですね。こんなもんですか、精霊の力は?」

 奴がそう言うと、奴を覆う岩にぴきぴきとひびが入り上からぽろぽろと剥がれ落ちていく。そしてとうとう足元の岩まで壊れてしまった。
 そういえばルーンも簡単にノインを拘束する堅牢岩プリズンロックを解除していた。もしかして悪魔には効かないのか。

 どうすればいいのだ。エメリヒを傷つけずにディアボロスを倒す方法はないのだろうか。セシルが負ければ奴は必ずエリーゼを殺しに行く。でもきっとそれだけでは済まないだろう。この国の人達皆が危険に晒されてしまうかもしれない。
 いや、もしかすると自分が意識を失うか死んだ時点で精霊が暴走を始めてしまうかもしれない。そうすれば精霊と悪魔との衝突で国が、世界が危険に晒されるかもしれない。やはり何が何でも負けるわけにはいかない。

 どうする? どうすればいい? セシルはその強大な敵を前になす術もなく立ち尽くした。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

処理中です...