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15、謁見
第145話 古(いにしえ)の火の巫子
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王が手を一振りすると、しんと静まり皆が聞き耳を立てる。
「あれは神殿があるときであった。修行を積んだ巫子であったろう、それでも起こったのだ。
なぜ神殿があれば防げると思う?」
「何も知らず、ただ普通に暮らして死ぬならば何もございません。
でも、その身には大きな力を秘めています。
修行もせず、何者にも守られず、身を守るすべの無いまま邪な者に操られることがあれば、それは容易にこの国の脅威となるでしょう。
神殿があれば未熟なうちは守られ、修行して身を守るすべを手に入れられます。」
「厄介な者よ、ならば殺してしまえば良かろう。」
「いいえ、殺しても、殺しても、殺しても巫子は輪廻の元に生まれ変わり蘇ります。
この私のように。
その場、その時に命を絶つことは簡単です。
ですが、一つの命に関わる者が多いのが人の世、そこには禍根しか残しません。」
「禍根ならばリリサレーンが残した物は大きい、火の神殿の再興など許されるものではない!」
「それはこの身で十分承知しております!
この髪の色で!
リリサレーンと同じ色であったばかりに、私は親に捨てられ生まれなかったことにされました!
私は普通の人間です、たとえ色が違っていても!
それで苦しんだ私だからこそ、神殿は興すべきだと思うのです!」
布に手をかけ、勢いに任せ取ってしまおうかと握りしめる。
でも、リリスは取ることが出来なかった。
そうすれば、憎しみだけが口から出てしまいそうな気がする。
目の前にいる父親は、自分を何とも思っていない。
罪人として、殺しても構わないとさえ思っているはずだ。
あれはこの国の王だ、自分の父ではない。
自分は今、火の巫子として許しを得に来ている。
冷静になれ、恨み辛みは今語るときではない。
ふと、昨夜のザレルの顔が思い出された。
そうだ、自分には、こんな自分を分け隔て無く愛してくれる親がちゃんといるではないか。
一息、大きく深呼吸して心を落ち着ける。
無言の王は、今どんな顔をしているのだろう。
「お前は……親を憎んでいるか?」
王が、低い声で尋ねてくる。
なぜそんなことを聞かれるのか、不思議だが気になるのかと思わず笑みが浮かぶ。
リリスは、布の中で小さく首を振り目を閉じた。
「いいえ、それは……もう、今さら仕方のないことです。
その時両親が下した判断は、そうしなければどうしようもなかったことなのでしょう。
恨みや憎しみがないとは申しません。ですが、こんな私でも子にして良いとおっしゃって下さる方がいらっしゃいました。
それでもう……」
そうだ、それ以上何がある。
父はザレル、そして母はセフィーリア。二人といれば十分幸せを感じる。
私は……それで……それで!
「それで、十分でございます。」
明るい声で返すリリスに、王がフッと息を吐く。
隣の后をチラリと見る。
彼女は大きく目を見開き、微動だにしない。
もう、きっと彼女にはピンと来たはずだ。
親であれば子はわかる。そう言うものだ。
キアナルーサは落ち着きのない様子で、わなわなと震え、こちらの顔ばかりを気にしている。
狭量な子よ……
この子を見ていると、『なぜ』という言葉しか浮かばなくなってしまった。
自分も王という言葉に奉られながら、なんと狭量なことか。
その器量の狭さゆえに、王として生まれてきた子をこの手の中から失うことになってしまった。
あれほどに、守ると誓いながら……情けない。
自分には、キアナルーサを責める資格など無い。
それにしても双子とは言え、似ていないことが幸いかと、王はうつむき力なく笑った。
「お前が言う火の巫子の指輪など、この城になかったらどうする。フレアゴートの第3の目も同様だ。」
「あります。それは私にはわかるのです。
黄泉で修行したあと、火が灯った私の心には指輪の炎が感じられます。」
「黄泉で修行だと?面白いことを言う。
それをどう証明する?信じる者はおらぬぞ。
そのすべがないお前の言う事は、すべて狂言だと言われても仕方が無かろう。」
クスッと笑う声もする。
確かにそれは、信じがたいことに違いない。
「私の指には2つの仮初めの指輪がございます。一つは黄泉で出会い、教えを請うた遠い過去の火の巫子。もう一つは私の前世とも言える巫子。
フレアゴート様がいらっしゃらない今、私は師である遠い過去の巫子様に頼るしかございません。」
「ほう、何をする?お前が巫子である証拠を見せよ。」
「承知しました。
ただ、今はまだ私の指輪がありません。
ですので、力が弱くご期待にお応え出来るかわかりませんが、やってみます。」
あまりにあっさりと、うなずくリリスに一同が驚きの声を上げる。
リリスはその場に立ち上がり、布で視界を遮られたまま指輪のある手を胸に押し当て、目を閉じ息を整えた。
どうか、どうか、イネス様、母上様、ザレル様、そしてリリサレーン様、
リリスに、力を与えて下さい。
「火よ、灯れ。
我が血に流れる灯火よ、フレアゴートの名の下に、その炎を分かち我が手に灯せ。
聖なる火より生まれしキュアよ、来たれ!
ここに古に尊き命を全うせし者のため、聖域を作れ!」
「キアアアア!」
キュアが雄叫びを上げ、背後から壁を通り抜けて飛んでくる。
そして身体を青い炎で包み、リリスの差し出す手に留まって大きく翼を広げた。
「おお!」
驚きの声を上げ、人々が思わず壁際まで下がる。
キュアは身体を燃え上がらせ、尾羽のように炎が尾の先から渦を巻いて吹き出し、リリスの周りに炎で結界を作った。
「我が手にある、古の巫子が指輪よ。
黄泉への道をたどり、その主の姿を映せ。
大いなる王にして、火の巫子ヴァルケンよ!
ここに顕現せよ!」
声が余韻を残して響き、そこにいる人々皆が不安と恐れに口を閉ざし、目を見開いて辺りを見回す。
不意に耳をすませると、しんと静まった部屋に、かすかに足音が近づいてきた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……
一体どこからなのか、その足音が響いてくる。
それはだんだん大きくなり、やがてリリスの前に床から火が大きく立ち上った。
ざんっ!
やがて結界の中、その火の中から、古いデザインの大きな靴が一歩踏み出した。
「あれは神殿があるときであった。修行を積んだ巫子であったろう、それでも起こったのだ。
なぜ神殿があれば防げると思う?」
「何も知らず、ただ普通に暮らして死ぬならば何もございません。
でも、その身には大きな力を秘めています。
修行もせず、何者にも守られず、身を守るすべの無いまま邪な者に操られることがあれば、それは容易にこの国の脅威となるでしょう。
神殿があれば未熟なうちは守られ、修行して身を守るすべを手に入れられます。」
「厄介な者よ、ならば殺してしまえば良かろう。」
「いいえ、殺しても、殺しても、殺しても巫子は輪廻の元に生まれ変わり蘇ります。
この私のように。
その場、その時に命を絶つことは簡単です。
ですが、一つの命に関わる者が多いのが人の世、そこには禍根しか残しません。」
「禍根ならばリリサレーンが残した物は大きい、火の神殿の再興など許されるものではない!」
「それはこの身で十分承知しております!
この髪の色で!
リリサレーンと同じ色であったばかりに、私は親に捨てられ生まれなかったことにされました!
私は普通の人間です、たとえ色が違っていても!
それで苦しんだ私だからこそ、神殿は興すべきだと思うのです!」
布に手をかけ、勢いに任せ取ってしまおうかと握りしめる。
でも、リリスは取ることが出来なかった。
そうすれば、憎しみだけが口から出てしまいそうな気がする。
目の前にいる父親は、自分を何とも思っていない。
罪人として、殺しても構わないとさえ思っているはずだ。
あれはこの国の王だ、自分の父ではない。
自分は今、火の巫子として許しを得に来ている。
冷静になれ、恨み辛みは今語るときではない。
ふと、昨夜のザレルの顔が思い出された。
そうだ、自分には、こんな自分を分け隔て無く愛してくれる親がちゃんといるではないか。
一息、大きく深呼吸して心を落ち着ける。
無言の王は、今どんな顔をしているのだろう。
「お前は……親を憎んでいるか?」
王が、低い声で尋ねてくる。
なぜそんなことを聞かれるのか、不思議だが気になるのかと思わず笑みが浮かぶ。
リリスは、布の中で小さく首を振り目を閉じた。
「いいえ、それは……もう、今さら仕方のないことです。
その時両親が下した判断は、そうしなければどうしようもなかったことなのでしょう。
恨みや憎しみがないとは申しません。ですが、こんな私でも子にして良いとおっしゃって下さる方がいらっしゃいました。
それでもう……」
そうだ、それ以上何がある。
父はザレル、そして母はセフィーリア。二人といれば十分幸せを感じる。
私は……それで……それで!
「それで、十分でございます。」
明るい声で返すリリスに、王がフッと息を吐く。
隣の后をチラリと見る。
彼女は大きく目を見開き、微動だにしない。
もう、きっと彼女にはピンと来たはずだ。
親であれば子はわかる。そう言うものだ。
キアナルーサは落ち着きのない様子で、わなわなと震え、こちらの顔ばかりを気にしている。
狭量な子よ……
この子を見ていると、『なぜ』という言葉しか浮かばなくなってしまった。
自分も王という言葉に奉られながら、なんと狭量なことか。
その器量の狭さゆえに、王として生まれてきた子をこの手の中から失うことになってしまった。
あれほどに、守ると誓いながら……情けない。
自分には、キアナルーサを責める資格など無い。
それにしても双子とは言え、似ていないことが幸いかと、王はうつむき力なく笑った。
「お前が言う火の巫子の指輪など、この城になかったらどうする。フレアゴートの第3の目も同様だ。」
「あります。それは私にはわかるのです。
黄泉で修行したあと、火が灯った私の心には指輪の炎が感じられます。」
「黄泉で修行だと?面白いことを言う。
それをどう証明する?信じる者はおらぬぞ。
そのすべがないお前の言う事は、すべて狂言だと言われても仕方が無かろう。」
クスッと笑う声もする。
確かにそれは、信じがたいことに違いない。
「私の指には2つの仮初めの指輪がございます。一つは黄泉で出会い、教えを請うた遠い過去の火の巫子。もう一つは私の前世とも言える巫子。
フレアゴート様がいらっしゃらない今、私は師である遠い過去の巫子様に頼るしかございません。」
「ほう、何をする?お前が巫子である証拠を見せよ。」
「承知しました。
ただ、今はまだ私の指輪がありません。
ですので、力が弱くご期待にお応え出来るかわかりませんが、やってみます。」
あまりにあっさりと、うなずくリリスに一同が驚きの声を上げる。
リリスはその場に立ち上がり、布で視界を遮られたまま指輪のある手を胸に押し当て、目を閉じ息を整えた。
どうか、どうか、イネス様、母上様、ザレル様、そしてリリサレーン様、
リリスに、力を与えて下さい。
「火よ、灯れ。
我が血に流れる灯火よ、フレアゴートの名の下に、その炎を分かち我が手に灯せ。
聖なる火より生まれしキュアよ、来たれ!
ここに古に尊き命を全うせし者のため、聖域を作れ!」
「キアアアア!」
キュアが雄叫びを上げ、背後から壁を通り抜けて飛んでくる。
そして身体を青い炎で包み、リリスの差し出す手に留まって大きく翼を広げた。
「おお!」
驚きの声を上げ、人々が思わず壁際まで下がる。
キュアは身体を燃え上がらせ、尾羽のように炎が尾の先から渦を巻いて吹き出し、リリスの周りに炎で結界を作った。
「我が手にある、古の巫子が指輪よ。
黄泉への道をたどり、その主の姿を映せ。
大いなる王にして、火の巫子ヴァルケンよ!
ここに顕現せよ!」
声が余韻を残して響き、そこにいる人々皆が不安と恐れに口を閉ざし、目を見開いて辺りを見回す。
不意に耳をすませると、しんと静まった部屋に、かすかに足音が近づいてきた。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……
一体どこからなのか、その足音が響いてくる。
それはだんだん大きくなり、やがてリリスの前に床から火が大きく立ち上った。
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