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15、謁見
第146話 王の証し、巫子の証し
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「我を呼びしはお前か!我が教え子よ!」
怒号にも似た野太い大きな声が、謁見の間に響き渡る。
小さく悲鳴を上げて、貴族たちが恐怖にひとかたまりになった。
「わが師よ、王の御前に御出になられよ。」
「王とはたれぞ!我こそが王である!」
炎から、ヌッと大男が現れマントに絡みつく炎を大きく払った。
それは、巫子とは大きくかけ離れたイメージの猛々しい大男。
赤い髪は燃えるようになびき、マントを止める金細工は王家の紋章を模して、鈍く輝いている。
腰の大剣は装飾も派手で、鞘には精密な彫刻に見たこともない美しい螺鈿細工、そして柄の頭には彼の瞳と同じ色の大きな赤いルビーが飾ってあった。
それは確かに、王や宰相サラカーンにも見覚えがある。
何代も前の王がたいそう気に入りの剣だったらしいと伝え聞いたが、すでに螺鈿は割れて剥がれ落ちて、愛されていた頃の姿は残していなかった。
男はカッと目を見開き、玉座に座する現王にニヤリと笑う。
そして不敵に大きな声で笑った。
「なんと!我が玉座に座りしうぬは何者か!」
あまりの迫力に唖然とする。
現王は思わず身をただし、心配そうな后に軽く手を上げ一息ついて顔を上げた。
「お前こそ何者だ。
おぬしが我が先祖というならば、その身の証を立てよ。」
現王の言葉に、頓狂な顔をして豪快に笑う。
「ワッハッハッハッ!!おお、なんと面白いことよ!
やれ、証を立てよとしか申さぬ者の、器が知れる。
これが我が子孫か、ぬかったわ!
お前の目は節穴か?証無くては人間を見通せぬ。なんという情けない、これがこの時代の王か!」
グッと王が息を飲む。
確かにそうだ、人を見る前に証を要求する。
それはその方がラクだからだ。
判断することをおろそかにしている。だから自分の息子さえ守れなかった。
誰もが言葉を発することを忘れた中、背後でリリスが顔を上げる。
「師よ、我らが王にこれ以上の無礼をおっしゃるのであれば道を消します。」
ヴァルケンがフンと息を吐き、振り向いてリリスを見ると驚いた。
「我が教え子よ、なんだその姿は?お前は罪人か?
誉れ高き火の巫子なれば、その美しきかんばせを堂々と晒すがよい!」
「あっ」
ヴァルケンが手を一振りする。
リリスの頭にあった布が燃え上がり、千々に消えるとやっと彼は暑苦しいその呪縛から解放された。
真紅の髪が燃え上がるように舞い上がり、赤とグレーの瞳が輝く。
絶対に取るなと言われていただけに、戸惑うリリスの顔を見てヴァルケンは懐かしそうに微笑んだ。
「お前は、まことに我が后に良く似ておる……
良かろう、お前に免じて我が証立ててやろうぞ!」
スッと玉座を指差し、玉座の背後にあるタペストリーを指さす。
「その掛け物の下にある白いタイルをはがせ、丁寧にな。
そこには早世した我が后エリアラーダの冠と美しき髪が一束隠されている。
確認した後は戻せ、美しく戻さねば祟ってやろうぞ!
そして我が弟子に火の巫子が指輪、速やかに返すがよい!」
現王に、そう言い放ちきびすを返すと、リリスの頭をポンと撫でて消えていった。
炎の結界がかき消え、キュアも火を収めるとリリスの肩に留まる。
リリスは大きく息をつき、その場に手を付いて頭を下げた。
やはり自分の指輪ではない上に実在さえしていないせいか、身体からごっそりと力を持って行かれる。
キュアが言う事を聞いて手伝ってくれたおかげで、術が安定してヴァルケンの召還が成功したのだと感じた。
周りのざわつきが、緊張が消えて大きくなる。
リリスの疲れた様子に、後ろからガーラントが肩に手をかけた。
「リリス殿、大丈夫ですか?」
「え……え……少し、息を、整えます。」
顔さえ上げる事が出来ず、苦しげに息をついていると、キュアが肩から飛び立ち一鳴きして部屋をぐるりと飛んだ。
それも目に入らず、王妃がふらりと立ち上がる。
「やはり……まさか…………」
后の様子に眉をひそめ、王が遮るように立ち上がる。
ざわついていた一同が、しんと静まった。
「火の巫子の、審議を許す!」
「なんと!王よ正気か?!」
サラカーンが驚いて詰め寄る。
火の巫子を認めることは、火の神殿の再興を許すと言う事だ。
だが、王は答えず部屋をあとにしていった。
「ありがとうござ……」
リリスがようやく顔を上げたとき、そこに后がいることに初めて気がついた。
まさか……
言葉を忘れて后と見つめ合う。
驚愕して立ち尽くす、小柄の美しい女性。
リリスが呆然と、彼女を見つめた。
あれが……まさか……
后が両手をリリスに伸ばし、ふらりと一歩踏み出した。
すると侍女に二人の間を遮られ、后が侍女に促されて謁見の間をあとにする。
何度も何度も振り返りながら、言葉が出ない様子で、ただ流されるように部屋から姿が見えなくなっていった。
リリスの時間が止まったように、ぼんやりと玉座を見つめる。
まさか、あれが自分の母だろうか?
追い求めても、決して顔さえ見ることを許され無かった、あれが……
「その方!」
王を追っていた宰相が戻り、苦い顔で上げた声にハッと我に返った。
「巫子の審議は準備が整い次第開始される!
それまで部屋で待機するように。よいな!」
「は、はい、承知致しました。」
頭を下げるリリスを冷たく見下ろし、無言でキアナルーサも部屋を出て行く。
が、その胸は焦りとどこか悔しさと、そして大きな不安感が入り交じって膨らんで行く。
「王子、どちらへ。」
ゼブラの声が、背後から重く響いた。
父にどうするのか問うべきか、母はあれが自分の子だと気がついたのか。
部屋に帰ってゼブラに相談するべきか。
とにかく、誰かに何か安心出来る話が聞きたい。
いや、安心出来ることなど何一つ無い。
父も母もリリスに傾いている。
自分の不出来が、何も出来ない凡人ぶりが、あまりに強烈に感じられた先ほどの光景。
そして、あいつが呼び出したのが誰だったか。
『王であり、巫子であった』
その言葉。
自分の足下が、自分の居場所が、根こそぎあいつに奪われようとしている。
「ゼブラ、話がある」
王子の低くささやく声に、ゼブラ……ゼブリスルーンレイアの顔が密かに不気味に笑った。
怒号にも似た野太い大きな声が、謁見の間に響き渡る。
小さく悲鳴を上げて、貴族たちが恐怖にひとかたまりになった。
「わが師よ、王の御前に御出になられよ。」
「王とはたれぞ!我こそが王である!」
炎から、ヌッと大男が現れマントに絡みつく炎を大きく払った。
それは、巫子とは大きくかけ離れたイメージの猛々しい大男。
赤い髪は燃えるようになびき、マントを止める金細工は王家の紋章を模して、鈍く輝いている。
腰の大剣は装飾も派手で、鞘には精密な彫刻に見たこともない美しい螺鈿細工、そして柄の頭には彼の瞳と同じ色の大きな赤いルビーが飾ってあった。
それは確かに、王や宰相サラカーンにも見覚えがある。
何代も前の王がたいそう気に入りの剣だったらしいと伝え聞いたが、すでに螺鈿は割れて剥がれ落ちて、愛されていた頃の姿は残していなかった。
男はカッと目を見開き、玉座に座する現王にニヤリと笑う。
そして不敵に大きな声で笑った。
「なんと!我が玉座に座りしうぬは何者か!」
あまりの迫力に唖然とする。
現王は思わず身をただし、心配そうな后に軽く手を上げ一息ついて顔を上げた。
「お前こそ何者だ。
おぬしが我が先祖というならば、その身の証を立てよ。」
現王の言葉に、頓狂な顔をして豪快に笑う。
「ワッハッハッハッ!!おお、なんと面白いことよ!
やれ、証を立てよとしか申さぬ者の、器が知れる。
これが我が子孫か、ぬかったわ!
お前の目は節穴か?証無くては人間を見通せぬ。なんという情けない、これがこの時代の王か!」
グッと王が息を飲む。
確かにそうだ、人を見る前に証を要求する。
それはその方がラクだからだ。
判断することをおろそかにしている。だから自分の息子さえ守れなかった。
誰もが言葉を発することを忘れた中、背後でリリスが顔を上げる。
「師よ、我らが王にこれ以上の無礼をおっしゃるのであれば道を消します。」
ヴァルケンがフンと息を吐き、振り向いてリリスを見ると驚いた。
「我が教え子よ、なんだその姿は?お前は罪人か?
誉れ高き火の巫子なれば、その美しきかんばせを堂々と晒すがよい!」
「あっ」
ヴァルケンが手を一振りする。
リリスの頭にあった布が燃え上がり、千々に消えるとやっと彼は暑苦しいその呪縛から解放された。
真紅の髪が燃え上がるように舞い上がり、赤とグレーの瞳が輝く。
絶対に取るなと言われていただけに、戸惑うリリスの顔を見てヴァルケンは懐かしそうに微笑んだ。
「お前は、まことに我が后に良く似ておる……
良かろう、お前に免じて我が証立ててやろうぞ!」
スッと玉座を指差し、玉座の背後にあるタペストリーを指さす。
「その掛け物の下にある白いタイルをはがせ、丁寧にな。
そこには早世した我が后エリアラーダの冠と美しき髪が一束隠されている。
確認した後は戻せ、美しく戻さねば祟ってやろうぞ!
そして我が弟子に火の巫子が指輪、速やかに返すがよい!」
現王に、そう言い放ちきびすを返すと、リリスの頭をポンと撫でて消えていった。
炎の結界がかき消え、キュアも火を収めるとリリスの肩に留まる。
リリスは大きく息をつき、その場に手を付いて頭を下げた。
やはり自分の指輪ではない上に実在さえしていないせいか、身体からごっそりと力を持って行かれる。
キュアが言う事を聞いて手伝ってくれたおかげで、術が安定してヴァルケンの召還が成功したのだと感じた。
周りのざわつきが、緊張が消えて大きくなる。
リリスの疲れた様子に、後ろからガーラントが肩に手をかけた。
「リリス殿、大丈夫ですか?」
「え……え……少し、息を、整えます。」
顔さえ上げる事が出来ず、苦しげに息をついていると、キュアが肩から飛び立ち一鳴きして部屋をぐるりと飛んだ。
それも目に入らず、王妃がふらりと立ち上がる。
「やはり……まさか…………」
后の様子に眉をひそめ、王が遮るように立ち上がる。
ざわついていた一同が、しんと静まった。
「火の巫子の、審議を許す!」
「なんと!王よ正気か?!」
サラカーンが驚いて詰め寄る。
火の巫子を認めることは、火の神殿の再興を許すと言う事だ。
だが、王は答えず部屋をあとにしていった。
「ありがとうござ……」
リリスがようやく顔を上げたとき、そこに后がいることに初めて気がついた。
まさか……
言葉を忘れて后と見つめ合う。
驚愕して立ち尽くす、小柄の美しい女性。
リリスが呆然と、彼女を見つめた。
あれが……まさか……
后が両手をリリスに伸ばし、ふらりと一歩踏み出した。
すると侍女に二人の間を遮られ、后が侍女に促されて謁見の間をあとにする。
何度も何度も振り返りながら、言葉が出ない様子で、ただ流されるように部屋から姿が見えなくなっていった。
リリスの時間が止まったように、ぼんやりと玉座を見つめる。
まさか、あれが自分の母だろうか?
追い求めても、決して顔さえ見ることを許され無かった、あれが……
「その方!」
王を追っていた宰相が戻り、苦い顔で上げた声にハッと我に返った。
「巫子の審議は準備が整い次第開始される!
それまで部屋で待機するように。よいな!」
「は、はい、承知致しました。」
頭を下げるリリスを冷たく見下ろし、無言でキアナルーサも部屋を出て行く。
が、その胸は焦りとどこか悔しさと、そして大きな不安感が入り交じって膨らんで行く。
「王子、どちらへ。」
ゼブラの声が、背後から重く響いた。
父にどうするのか問うべきか、母はあれが自分の子だと気がついたのか。
部屋に帰ってゼブラに相談するべきか。
とにかく、誰かに何か安心出来る話が聞きたい。
いや、安心出来ることなど何一つ無い。
父も母もリリスに傾いている。
自分の不出来が、何も出来ない凡人ぶりが、あまりに強烈に感じられた先ほどの光景。
そして、あいつが呼び出したのが誰だったか。
『王であり、巫子であった』
その言葉。
自分の足下が、自分の居場所が、根こそぎあいつに奪われようとしている。
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