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15、謁見
第147話 母の涙
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后リザリアが、廊下をうつむき元気のない様子で自室に戻って行く。
侍女が心配して、彼女の手をそっと手に取った。
「お疲れではございませんか?
あのような光景は、たいそうお心にご負担になられたのではないのでしょうか?」
ぼんやり何か考えている様子で、ふと立ち止まる。
3人の侍女が、ぶつかりそうになりながら慌てて歩みを止めた。
「王の所へ参ります。」
そう言って、王の居室へ足を速める。
しかし、忙しい王に突然訪問して時間をとらせることは難しい。
また宰相の怒りを買うかもしれない。
まして、いつも穏やかな彼女がこうも強い姿勢をとることは珍しい。
何か粗相があったのかと、侍女も不安になってくる。
「お待ち下さい!王にはお時間を頂きませんと!」
「妻が夫に会うのに許しを得る必要などありません。お退きなさい。」
侍女が止めるのも聞かず、その顔は怒りも秘めて厳しくなって行く。
結局彼女は驚く兵や騎士達も押しのけ、王の居室へと乗り込んでしまった。
「我が王よ、お話がございます。お人払いを。」
王に先ほどのことで、宰相や貴族たちも話を聞きに来ている。
人が集まっている中、それでも后はとにかく自分の話を優先するようにと、有無を言わさぬ迫力があった。
「あとにせよ、リザリア。」
「いいえ、今話をお聞きいただけないのでしたら、私はそこから飛び降りますわ。」
「なんと……」
部屋にいた家臣達が驚いて顔を見合わせ、一礼してぞろぞろ部屋を出て行く。
王の弟であるサラカーンは兄と苦い顔で目を合わせると、仕方なく部屋をあとにした。
二人きりになった部屋で、后が王の前に詰め寄る。
「私が、何を話しに来たのかは御察しがお付きになりましょう。
なぜ私にお隠しになったのです。
なぜ、私に嘘をつかれたのです。」
王は、ため息をついて目をそらす。
「突然、何のことかわからぬ。」
「母が子をわからぬはずございません。
ましてあれほど特徴ある子を。
それでも知らぬとおっしゃるのですか?」
王は、目を合わせることもなく、ただ険しい顔でため息をついて椅子に腰を下ろす。
后は昔の状況が次々と思い起こされ、それは口からあふれ出てきた。
「あのとき、私は二人の子を産んで疲れ切っておりました。
それに加えて生かすか殺すかとあの騒ぎ、その上あなたが切ってしまったあの騎士の一件。
もう心身ともに疲れた上に、あの子とひと目も会わせて貰えない不安で、このまま会えないのではと、それはそれは不安でいっぱいで……
風殿が最後に見せた……あの子が血を流して見えたのは……あれはあの真紅の髪だったのですね。」
産着から見えた赤い血、それは髪の毛だったのか。
風殿は、あの時「最後にひと目」と見せに来た。
殺されて息絶えた姿を見せに来たのかと、自分は錯乱して叫び声を上げ、彼女は驚いてそれから一切あの子の話をしなくなった。
それは厳密に口止めされたのだろうが、勘違いとは言えなんと言うことをしてしまったのだろう。
それから、結局生まれた子は一人とされ、あの子の存在は抹殺されてしまった。
それが、まさか生きていたなんて……
リザリアの目から、ポロポロと涙がこぼれる。
「あなたは、先見の予見にも大丈夫だと、守ると言ったから安心して産んだのに……
きっと守って下さると……
……いいえ……いいえ、もうその事は申しません。
あの子は、名をリリスと申しました。
それはセフィーリアの弟子、キアナルーサの旅で供をした魔導師ではありませんか。
なんてこと、私はあの子にすでに会っているのだわ。
だからあの子の頭に布をかけたのですね。
だから、あの子には決して登城を許さなかった。
なんて酷い方、低い身分に落とされ、あの子がどんな生活を送っていたか……あの子にはきっと私に捨てられたと思われているのだわ。
捨てるなんて、大切なあの子を、私はどんな姿でも決して離したくなかったのに。」
王は、顔を覆って涙を流す后の姿に、来るべき時が来たのだと、まるで奈落の底を見ている気分だった。
ウソをどんなに隠そうとしても、それはいつか露呈してしまう。
あの子の顔は、自分の若い頃に似ている。
自分の子供の頃を知る者達が、弟ラグンベルクが流した噂もある以上は気付かぬはずもない。
ベルクは……あの賢い弟だけは最初から子を手放すことには反対だった。
そうだ。
何を言われようと、手放すべきではなかった。
これは罰だ。
后の心が、自分から離れていくのを感じる。
とてつもない孤独なこの時間。
それは、あの子を護りきれなかった自分の不甲斐なさがもたらしたもの。
王ヴィアンローザは、自分の深い罪を呪って大きくため息をつき、酷くうろたえていたキアナルーサの姿を思いだしていた。
侍女が心配して、彼女の手をそっと手に取った。
「お疲れではございませんか?
あのような光景は、たいそうお心にご負担になられたのではないのでしょうか?」
ぼんやり何か考えている様子で、ふと立ち止まる。
3人の侍女が、ぶつかりそうになりながら慌てて歩みを止めた。
「王の所へ参ります。」
そう言って、王の居室へ足を速める。
しかし、忙しい王に突然訪問して時間をとらせることは難しい。
また宰相の怒りを買うかもしれない。
まして、いつも穏やかな彼女がこうも強い姿勢をとることは珍しい。
何か粗相があったのかと、侍女も不安になってくる。
「お待ち下さい!王にはお時間を頂きませんと!」
「妻が夫に会うのに許しを得る必要などありません。お退きなさい。」
侍女が止めるのも聞かず、その顔は怒りも秘めて厳しくなって行く。
結局彼女は驚く兵や騎士達も押しのけ、王の居室へと乗り込んでしまった。
「我が王よ、お話がございます。お人払いを。」
王に先ほどのことで、宰相や貴族たちも話を聞きに来ている。
人が集まっている中、それでも后はとにかく自分の話を優先するようにと、有無を言わさぬ迫力があった。
「あとにせよ、リザリア。」
「いいえ、今話をお聞きいただけないのでしたら、私はそこから飛び降りますわ。」
「なんと……」
部屋にいた家臣達が驚いて顔を見合わせ、一礼してぞろぞろ部屋を出て行く。
王の弟であるサラカーンは兄と苦い顔で目を合わせると、仕方なく部屋をあとにした。
二人きりになった部屋で、后が王の前に詰め寄る。
「私が、何を話しに来たのかは御察しがお付きになりましょう。
なぜ私にお隠しになったのです。
なぜ、私に嘘をつかれたのです。」
王は、ため息をついて目をそらす。
「突然、何のことかわからぬ。」
「母が子をわからぬはずございません。
ましてあれほど特徴ある子を。
それでも知らぬとおっしゃるのですか?」
王は、目を合わせることもなく、ただ険しい顔でため息をついて椅子に腰を下ろす。
后は昔の状況が次々と思い起こされ、それは口からあふれ出てきた。
「あのとき、私は二人の子を産んで疲れ切っておりました。
それに加えて生かすか殺すかとあの騒ぎ、その上あなたが切ってしまったあの騎士の一件。
もう心身ともに疲れた上に、あの子とひと目も会わせて貰えない不安で、このまま会えないのではと、それはそれは不安でいっぱいで……
風殿が最後に見せた……あの子が血を流して見えたのは……あれはあの真紅の髪だったのですね。」
産着から見えた赤い血、それは髪の毛だったのか。
風殿は、あの時「最後にひと目」と見せに来た。
殺されて息絶えた姿を見せに来たのかと、自分は錯乱して叫び声を上げ、彼女は驚いてそれから一切あの子の話をしなくなった。
それは厳密に口止めされたのだろうが、勘違いとは言えなんと言うことをしてしまったのだろう。
それから、結局生まれた子は一人とされ、あの子の存在は抹殺されてしまった。
それが、まさか生きていたなんて……
リザリアの目から、ポロポロと涙がこぼれる。
「あなたは、先見の予見にも大丈夫だと、守ると言ったから安心して産んだのに……
きっと守って下さると……
……いいえ……いいえ、もうその事は申しません。
あの子は、名をリリスと申しました。
それはセフィーリアの弟子、キアナルーサの旅で供をした魔導師ではありませんか。
なんてこと、私はあの子にすでに会っているのだわ。
だからあの子の頭に布をかけたのですね。
だから、あの子には決して登城を許さなかった。
なんて酷い方、低い身分に落とされ、あの子がどんな生活を送っていたか……あの子にはきっと私に捨てられたと思われているのだわ。
捨てるなんて、大切なあの子を、私はどんな姿でも決して離したくなかったのに。」
王は、顔を覆って涙を流す后の姿に、来るべき時が来たのだと、まるで奈落の底を見ている気分だった。
ウソをどんなに隠そうとしても、それはいつか露呈してしまう。
あの子の顔は、自分の若い頃に似ている。
自分の子供の頃を知る者達が、弟ラグンベルクが流した噂もある以上は気付かぬはずもない。
ベルクは……あの賢い弟だけは最初から子を手放すことには反対だった。
そうだ。
何を言われようと、手放すべきではなかった。
これは罰だ。
后の心が、自分から離れていくのを感じる。
とてつもない孤独なこの時間。
それは、あの子を護りきれなかった自分の不甲斐なさがもたらしたもの。
王ヴィアンローザは、自分の深い罪を呪って大きくため息をつき、酷くうろたえていたキアナルーサの姿を思いだしていた。
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