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15、謁見
第159話 青い蝶
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キュアの鋭い爪がブルースの顔に向けられた。
「うわあっ!!」
なぜか、キュアの足が吸い込まれるように、ブルースの瞳の中に消えて行く。
地下室の魔導師ゼルダの水盤の表面が青く燃え上がった。
「なっ、なんだ?!」
突然その炎の中から巨大な鳥の足が、鋭い爪をあらわにして大きく開いて現れた。
「ひいいっ!!」
爪はゼルダの顔面を包むように上半身を掴み、一瞬で水盤の中へと引き込んでゆく。
バシャバシャ水を叩いて暴れる足が水の中に消え去り、呆然と見るローブの男の前に水盤が床に落ち、音を立てて砕け散った。
「一体……あれはなんだ!」
ローブの男が腹立たしげにフードを後ろに倒す。
あらわになった顔を片手で覆い、彼、ゼブリスルーンレイアが苦々しく唇を噛む。
かたわらのレナパルド家に仕えるミスリルが、思いがけないことに動転して頭を下げた。
「例の子供の始末を確認して参ります。」
「当たり前だ!あの魔導師も始末しろ!
我が家名に傷を付けることまかり成らん、良いな!」
「はっ」
ミスリルの男は、風のように階段を駆け上がり地下室から消えてゆく。
彼はゼブラの父が所有するミスリルの一人だ。
父が自由に使えと差し向けてくれた。
が、一瞬で済むと思っていたことがどうして上手く行かない。
念入りにしたはずが、ミスリルを買いかぶりすぎたのか。
せっかく私の王子が現れたというのに、これでは今度は私が役立たずではないか。
連れ去ったはぐれミスリルは、ちゃんととどめを刺したのか。
この目で確認できなかったのは心許ない。
殺したと報告を受けても、きっと安心できない。信用できない。
ゼブラは唇を噛み、しばし考えると腰から剣を抜いた。
ローブを背中にやり、左手の手首に刃を当てる。
「古の精霊よ、契約に従え。
我が血を持って、分身を成す。
我が血はすなわち我が命、これをにえとし、契約を果たせ。」
一気に、刃を引いて手首を切る。
流れ出す血はしずくとなって落ち、途中からそれにポッと青い火が付いて床には青い炎の固まりができた。
地下の部屋がその輝きに照らされ、まるで水の中のように青い空間が広がる。
ゼブラは痛みに眉をひそめながら、その冷たい輝きに心まで落ちてゆくような奇妙な感覚に包まれた。
「出でよ、我が分身。
あの子を追い、死を確認するのだ。」
火だまりの中から、ひときわ大きな青い蝶が生まれ出る。
それはヒラヒラ飛び立つと、青い火の粉のような鱗粉をパッと散らして、ゼブラの差し出す、血に染まった指に留まった。
ゼブラが大きく深呼吸して目を閉じる。
「ああ、そうだ。お前は私、私はお前。
美しく輝きながら、あの子を追って飛んでゆけ。逃がしてはならぬ、私の王子は魔導師リリスの死をご希望なのだ。
………誰も、……誰も信用できぬ。
信じることができるのは自分だけ。
だから私はお前を望んで契約した。
さあ、お行き。私のもう一つの命。」
青く輝く蝶は、ふわりと舞い上がって外へと飛んでゆく。
ゼブラは大きくため息をつき、うなだれると水差しの水で手の血を洗い流して傷口を手ぬぐいで縛った。
もう何度も切った腕は、傷だらけで癒える暇がない。
それでも構わないとさえ思える。
もう、どうなってもいい脱力感に襲われ、目から一粒涙が流れた。
兄から結婚の日、正式に父のあとを継ぎ爵位を賜ると手紙を貰った。
父は近いうちに別荘に引き取り、家の一切を兄に譲る。
兄が正式に当主となり、ミリテアとあの館で、幸せに暮らすのだ。
兄は、父のあとを継いで貴族院の長となるだろう。
やがて彼女との間に子ができて、またその子があとを継いでゆく。
これからずっと、それを笑って祝福できるのか自信がない。
ミリテア……
僕は、君と一緒になれるのだと、ずっとそうなのだと思っていたよ。
だから、僕はその日の為に立派に役目を果たして、君を迎えに行くのだとそう思っていたんだ。
なんて、滑稽なんだろうね。
僕には、僕の手にはもう、あの心許ない王子だけしか残らなかった。
だから、
……だから、あの王子は王にならなければいけないんだ。
邪魔になる者は排除する。
火の神殿など誰が許す物か。
この命をかけても……
僕は……
ああ……僕は……何のために生きているんだろう…………
「うわあっ!!」
なぜか、キュアの足が吸い込まれるように、ブルースの瞳の中に消えて行く。
地下室の魔導師ゼルダの水盤の表面が青く燃え上がった。
「なっ、なんだ?!」
突然その炎の中から巨大な鳥の足が、鋭い爪をあらわにして大きく開いて現れた。
「ひいいっ!!」
爪はゼルダの顔面を包むように上半身を掴み、一瞬で水盤の中へと引き込んでゆく。
バシャバシャ水を叩いて暴れる足が水の中に消え去り、呆然と見るローブの男の前に水盤が床に落ち、音を立てて砕け散った。
「一体……あれはなんだ!」
ローブの男が腹立たしげにフードを後ろに倒す。
あらわになった顔を片手で覆い、彼、ゼブリスルーンレイアが苦々しく唇を噛む。
かたわらのレナパルド家に仕えるミスリルが、思いがけないことに動転して頭を下げた。
「例の子供の始末を確認して参ります。」
「当たり前だ!あの魔導師も始末しろ!
我が家名に傷を付けることまかり成らん、良いな!」
「はっ」
ミスリルの男は、風のように階段を駆け上がり地下室から消えてゆく。
彼はゼブラの父が所有するミスリルの一人だ。
父が自由に使えと差し向けてくれた。
が、一瞬で済むと思っていたことがどうして上手く行かない。
念入りにしたはずが、ミスリルを買いかぶりすぎたのか。
せっかく私の王子が現れたというのに、これでは今度は私が役立たずではないか。
連れ去ったはぐれミスリルは、ちゃんととどめを刺したのか。
この目で確認できなかったのは心許ない。
殺したと報告を受けても、きっと安心できない。信用できない。
ゼブラは唇を噛み、しばし考えると腰から剣を抜いた。
ローブを背中にやり、左手の手首に刃を当てる。
「古の精霊よ、契約に従え。
我が血を持って、分身を成す。
我が血はすなわち我が命、これをにえとし、契約を果たせ。」
一気に、刃を引いて手首を切る。
流れ出す血はしずくとなって落ち、途中からそれにポッと青い火が付いて床には青い炎の固まりができた。
地下の部屋がその輝きに照らされ、まるで水の中のように青い空間が広がる。
ゼブラは痛みに眉をひそめながら、その冷たい輝きに心まで落ちてゆくような奇妙な感覚に包まれた。
「出でよ、我が分身。
あの子を追い、死を確認するのだ。」
火だまりの中から、ひときわ大きな青い蝶が生まれ出る。
それはヒラヒラ飛び立つと、青い火の粉のような鱗粉をパッと散らして、ゼブラの差し出す、血に染まった指に留まった。
ゼブラが大きく深呼吸して目を閉じる。
「ああ、そうだ。お前は私、私はお前。
美しく輝きながら、あの子を追って飛んでゆけ。逃がしてはならぬ、私の王子は魔導師リリスの死をご希望なのだ。
………誰も、……誰も信用できぬ。
信じることができるのは自分だけ。
だから私はお前を望んで契約した。
さあ、お行き。私のもう一つの命。」
青く輝く蝶は、ふわりと舞い上がって外へと飛んでゆく。
ゼブラは大きくため息をつき、うなだれると水差しの水で手の血を洗い流して傷口を手ぬぐいで縛った。
もう何度も切った腕は、傷だらけで癒える暇がない。
それでも構わないとさえ思える。
もう、どうなってもいい脱力感に襲われ、目から一粒涙が流れた。
兄から結婚の日、正式に父のあとを継ぎ爵位を賜ると手紙を貰った。
父は近いうちに別荘に引き取り、家の一切を兄に譲る。
兄が正式に当主となり、ミリテアとあの館で、幸せに暮らすのだ。
兄は、父のあとを継いで貴族院の長となるだろう。
やがて彼女との間に子ができて、またその子があとを継いでゆく。
これからずっと、それを笑って祝福できるのか自信がない。
ミリテア……
僕は、君と一緒になれるのだと、ずっとそうなのだと思っていたよ。
だから、僕はその日の為に立派に役目を果たして、君を迎えに行くのだとそう思っていたんだ。
なんて、滑稽なんだろうね。
僕には、僕の手にはもう、あの心許ない王子だけしか残らなかった。
だから、
……だから、あの王子は王にならなければいけないんだ。
邪魔になる者は排除する。
火の神殿など誰が許す物か。
この命をかけても……
僕は……
ああ……僕は……何のために生きているんだろう…………
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