赤い髪のリリス 戦いの風

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15、謁見

第160話 火の鳥

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城内を走り、息を切らせてリリスの部屋に水の魔導師シャラナがたどり着いた時、そこはすでに事が終わったあとの部屋だった。
捕らえられた、元城付きの水の魔導師ゼルダが縛り上げられて、うなだれている。
シャラナはゼルダにつかつかと歩み寄ると、彼の頬を力の限り叩いた。

「ゼルダ!この、愚か者!水を呪いに使うたな!
おのれ、水の魔導師の名を汚しおって、シールーン様のお怒りを受けよ!」

ゼルダは叩かれた拍子にひっくり返り、兵の手を借り身を起こす。
血のにじむ唇を噛み締め、キッとシャラナを睨み付けた。

「生まれつき魔導に長けた者が何を言う。
俺は城に帰りたかっただけだ。
あんな気味の悪いガキ1人の命で帰れるなら俺はなんでもする!」

吐き捨てるようなその言葉に、シャラナはブルブルと手を震わせる。
これが先日まで水の魔導師の代表としてこの城にいた男かと、情けなさにはらわたが煮えくり返った。

「あなたは忘れたのか?
生まれつき魔導に長けた者などいない、それは素質の問題だ。
だからこそ、あなたは修行を積み、勉学に励み、権威ある魔導師の塔へたどり着いたのではないか?
それは皆同じだ!
それが、この有様はなんだ?
あなたは城に来て修行を続けたのか?
神殿に勉学のため何度足を運んだ?
一体、あなたがいつ艱難辛苦にあえぎながら修行をしたと言うのか!
安易に水を濁らせたお前が、人の命を奪ってまで城に来てなんとする!
お前の前に立ちはだかる壁を見よ!恥を知れ!」

ゼルダがグッと言葉を失った。
城に上がった時は、あれほど心が締まり、ひたすら高見を目指し、修行を続け水の精霊に慕われていた。

それが、この堕落した有様は……
水が濁るのは、自分の心が濁っている証拠だ。

「誰に頼まれた?」

ザレルが厳しく問う。
しかし、ゼルダは首を振って「わからん」とひと言答えた。

「ただ、わかるのは……わしに接触してきたのが初めて見るミスリルだった。それだけだ。」

「……貴族か……」

大きくため息をつく。
ミスリルは横の繋がりも多い。
城にいたミスリルは熟知していただろう元城付きの魔導師が、見たこともないミスリルを使った事が、返ってそう確信させる。
王が直接手を下したのではない事は、安易にミスリルを使った事からわかる。
王ならば精霊王との契約の手前、恐らく事故や自然死に見せるだろう。

「良い、明日取り調べを行う。連れて行け。」

「は」

ゼルダは兵に引かれ、苦々しい顔で部屋を出された。
シャラナがため息をつき、大穴の空いた部屋の壁に目を移す。

「やりすぎましたか。」

「いや、結界を破っていただきひとまず助かった。だが、そのあとのことは俺の力不足だ。
ミスリルが壁抜きなどと言う技を持っているとは、油断した。」

ザレルが剣をしまい、鋭い目で部屋を見回す。
深夜にもかかわらず、この騒ぎに部屋の外がざわついて人が集まってきた。
そして、暗闇の窓の外を見て忙しく考えているガーラントの肩を叩いた。

「仲間と追ってくれ。あの子を頼む。」

「しかし、どこをどう行けば良いのか……」

うなだれるガーラントに、ブルースが焦って駆け寄る。

「俺も、俺にも責任がある。どうか一緒に行かせてくれ。」

「私も……うっ、つ……」

ブルースに続き、肩を切られたミランが身を起こす。
ミランは流れる血に半身を染め、シャラナがとりあえず癒しの術を施した。

「駄目だ、ミランは傷が深い。お前は残れ。
俺とブルースでなんとかあとを追おう。」

「ああ。
ミラン……すまない。俺はお前の分も頑張るから、済まん。」

ブルースがミランに頭を下げ、上着を手に取り、着込んでガーラントと目を合わせうなずく。
どこをどう探すか、あとは運任せだ。
だが、ザレルが長いすの背もたれに留まるキュアに目を移す。
キュアは燃える身体で煌々と室内を照らし、冷めた瞳で人間達の様子を見つめている。
なぜあの子を追わないのか、この鳥もどこか迷いが見られる。
ザレルは取り巻く兵を散らし、キュアの元に歩み寄ると膝をついた。

「高貴なる火の鳥よ、どうか手をお借し願いたい。
あの子は火の巫子だと俺は信じている。
だからこそ、あの子は我が子である事以上に、この国にも必要な人間なのだ。
どうか、手を貸してくれ。お頼み申す。」

鳥に頭を下げる。
もう、この火の鳥に頼るしか今は手がない。
ガーラントや、ブルース達も背後で頭を下げた。
その時、部屋の外で大きな声が上がり兵が騒然としつつ壁際に下がる。

「お后様!危のうございます!どうか、お控え下さい!どうか部屋に!」

侍女や王の側近の声が激しく響きながら迫ってくる。

「うるさい!無礼者、下がれ!」

聞いたこともない乱暴な声を張り上げ、やがて寝間着姿で髪を振り乱し部屋に飛び込んできた王妃に、一同は驚いて頭を下げた。

「あの子は?あの子が襲われたと聞いて……!
どうなったのです、ザレル!あの子は無事ですか?!今どこに?!」

「申し訳ありません、気を失ったところをさらわれました。1人追っておりますので、今すぐに彼付きの騎士に追わせます。」

「何をしている!早う兵をかき集め追わせよ!
あの子に……あの子に何かあっては許さぬ!」

震える手で指差し、鬼気迫る王妃にザレルはひたすら頭を下げる。
しかしまさかこれほど取り乱すとは、捨てた子に未練があるのかと内心眉をひそめた。

「おお……これはあの子の……」

王妃は止める侍女の手をふりほどき、床に落ちるリリスの上着を拾い上げ、涙をこぼしてほおずりする。
やがて案の定、バタバタと足音が響き、ガウン姿のサラカーンが直々に慌てて駆けつけた。

「何をなさっている!さあ、早く部屋にお戻りを!
皆、慈悲深い王妃は、この騒ぎに驚いて取り乱されている。今宵のこと、口外は一切せぬように。
さあ、何をしている!早うせよ!」

「サラカーン!早く兵を!私のあの子を追って!
私の、私の大切な……」

「姉上!言葉を慎まれよ!」

王妃の言葉を遮り、サラカーンがグイと腕を引く。
強引に部屋を出ようとした時、急に部屋が昼間のように明るくなった。


「ククッ……ククカカカカッアハハハハ!!」


横で見ていたキュアが、笑うように鳴いて立ち上がり煌々と燃え上がりながら大きく翼を広げる。
その姿は揺らぎ、炎の向こうに何か大きな角を持った動物を映した。

「王妃ヨ!トウノ昔ニ捨テタあの子を今更何とする!
抗うすべもない乳飲み子を、お前たちは平気でうち捨て命さえ奪おうとした!

わしは許さぬ!

おぞましきこの城に、たとえ悪霊がいようと、わしはこの城の者に手を貸すことなど無いだろう。

心せよ!

リリスはわしの赤の巫子、それを審議するなど、たかが人間風情が片腹痛い。
このフレアゴートはこの地に火の神殿などもういらぬ!
人間達よ、勝手に殺し合うがいい!」

キュアは燃え上がりながら、城内すべて、いや、城下までもすべてに響き渡るような叫びに似た言葉を吐き出し、その姿をみるみる膨れあがらせた。
それは建物を壊すことなく壁を突き抜け巨大化し、その大きな爪でガーラントとブルースを掴むと、羽ばたいて城から星の瞬く大空へと舞い上がった。
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