赤い髪のリリス 戦いの風

LLX

文字の大きさ
163 / 303
15、謁見

第161話 守りのない巫子

しおりを挟む
風が音を立てて吹き、町の家々の窓をガタガタとゆらす。
すでに酒場も店を閉め、人々が寝静まり、静かな中を時折見回りの兵が、ランプを手に夜回りをしている。
一つあくびをして、道ばたで酔って眠りこけた親父を見つけ声をかけた時、何かがブオンと風を切って通り過ぎた。

「な、なんだ?」

素っ頓狂な声を上げ、ランプをかざして辺りを見回す。
しかし手のランプに血が付いているのに気がつき、顔を近づけようとした瞬間、なにかがランプを貫き思わず地に落とした。

「あっ、ランプが!い、一体何だってんだ!」

壊れたランプからは油が漏れて、ゆるゆると燃える。
その側で、一束の金の髪がチリチリと焼けて消えた。
兵は見えない何かに恐怖を覚え、酔っぱらいを叩き起こして慌ててその場から逃げていく。

その様子を見下ろしながら、先の影を追う一つの影が家の屋根から屋根に飛び移った。
彼はレスラカーンの命で兄のキリルに頼まれ、リリスを守りに来たミスリルだ。
名をエリンと言った。
キリルとしてはレスラカーンに仕えさせたいと思っていたが、彼の獣の目と顔から耳を覆う獣の毛、その獣人の名残を残す容姿にサラカーンがそれを許さず、結局未だ兄の下で働いている。
仮面で顔を隠しながら、彼としてはその方が気がラクだと兄には言いつつも、この顔では主を得ることは諦めざるを得ないだろうと思い始めていた。


町中を駆け抜け、リリスを担いだままのはぐれミスリルの2人は、すでに追っ手に気がついている。

「ゼル、森で振り切るぞ!」

「兄者、腕を片方切られた!切られた!」

「血を流すな、あとを追われる。」

「わかってる、俺の血は毒だ。わかってる、血は毒だ!」

「巫子を落とすな!二度と無い得物だ。
守りのない巫子なんて火の巫子くらいだからな。こいつは食っても売っても精霊の守護がない。」

「兄者、兄者、でも……火の巫子は、火の巫子は、かか様に、かか様に……」

「ゼル!俺たちを火の精霊が助けてくれたことがあったか?火は力を無くし、火の精霊なんて見たこともない。そんなありもしない物を束ねる巫子なんて、今の俺たちに必要無い者だ。
いいか?今必要なのは金だ。お前は俺の言うと通りにすればいい。いいな!」

「わかってる兄者、これは金になる。わかってる、金になる!
兄者、金に換えてこの国出よう。出よう。」

「そうだな、まずは追っ手を切り抜けないとな。これが最後の仕事だ、気を抜くな。」

「うん、隣の国に行って畑を耕して暮らそう。普通に暮らそう。」

森に飛び込み、身を潜めて気配を探る。
あたりはしんと静まり、風一つ吹いていない。
葉っぱ一枚動いた気配もなく、兄弟はそれでも気配を消して森を奥へと進んだ。

追ってこないのか?
いや、そんなはずはない。
これは本物の巫子だ。まとっている気の色が違う。赤い、赤い火の色だ。
それは、懐かしささえ感じるほどの、暖かな色だ。

「う……うう……」

肩に背負ったリリスが、ようやくうめいて目を開ける。
目を開けてもそこは真っ暗で、頬に当たるヒヤリとした空気と、撫でるように触れた枝葉の感触で、ここが森の中だとわかった。

毒の血が少し口に入ったのかノドが焼けるように痛く、呪を唱えようにも声が出ない。
手足の先がしびれて抗うことも出来ず、薄く開けた目を左右させて状況をなんとか掴もうとした。

ミスリルの男は無言だが、時折息が乱れるのを聞くと、普通の人間には聞こえないほどの声でもう1人と会話しているのかと思う。
彼らは普通の人間を超越している。
果たしてどこに連れて行かれるのかと考えた時、あの先日の半獣のミスリル姉弟を思い出した。

“巫子を食べると精霊になれる”

ハッと息を飲み、ゾッと背に冷たい物が走った。
自分でなんとかしないと、こんな事で死にたくない。
自分はやる事が沢山ある。
誰か追ってくる気配はない、彼ら相手では誰も助けに来る事はできないだろう。

身体をなんとか動かしてみる。
男が気がつき、グッと腕に力を入れてきた。
そして、もう1人の男が、赤い髪を掴んで顔を上げさせる。

「動くな、何も喋るな」

暗闇に、双眸がギラリと光り息を飲んだ。


駄目だ、駄目だ、恐い。
母様!母様!ザレル!助けて!誰か助けて!


むなしく心の中で叫ぶと、涙がボロボロと流れイネスの顔とつぶやく声が浮かぶ。


“まったく、リリは泣き虫だなあ、もう泣くな”


ああ、イネス様!
もう、もう、リリスは会えないかもしれません……

もっと、もっと話をしたかったのに。
普通の人間の誰が彼らに敵うだろう。
フレアゴートも自分を救いに来るとは思えない。
リリスがギュッと目を閉じた時、何かが飛んできて、担いでいる弟が大きく後ろに飛んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...