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16、トラン動乱
第166話 隣国トランの人々
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国境を越えて数日、旅を続けてアトラーナの隣国トランへ入っていたセレス達は、城下町の関の手前で足止めを食っていた。
先に知らせに走ったトランの兵が帰ってこない。
トランの騎士エルガルドが、おかしいと言って縁故の者に使いをやった。
彼はレナントで殺されかけてから、自身の国というのに随分慎重になっている。
「あの王付きの魔導師が、また暗躍しているのかもしれません。
王に近い親族に話を聞いて、それから城に入りましょう。
関には兵が増やされていますが、人の往来も数人あり、変わりはないようです。」
見通しの良い、森の木立が途切れた場所から望めば、白亜で目立つ城は遠くに見えている。
トランの白鳥と言われた、特に白さを際立たせて作られた美しい城は、周囲に広がる森の緑の海に浮かぶ鳥のようだ。
遙か昔はアトラーナと同じ国であったこの城は、本城と対で立てられた。
その後、この城に居していた領主が、独立戦争を経てトランという国を建国したものだ。
トランはその後近隣小国を侵略吸収して国を大きくしたが、アトラーナとの間に出来た確執から争いの絶えない関係となってしまった。
城下には比較的大きな町があり、奥に広がる湖の畔には、町がいくつも点在して普段は人の通りも多く賑わっている。
だが、隣町への道と交わる所まで出ても馬車も通らず人が少ない。
森の中で休憩を取り騎士や兵が話しあっている場に、やがてエルガルドの叔父が部下と共に現れ彼の無事を喜んだ。
「おお!これは地の巫子様もご同行なさっておられるのか。ありがたいことだ。
エルガルド、お前たちが行ったしばらくあと、隣国との通行制限のお触れが出たんだ。
今は通行証がなかなか出ない為に、食料以外は物の流通が止まっている状態だ。
城下は特に、この先の西側の関を通り抜けるのがなかなか厳しい。
アトラーナには、化け物じみた精霊の交わり者も多いからな。
王は間者にひどく神経質になっておられる。
若い騎士は、みんなアトラーナとの戦争も近いと噂しているよ。」
「なるほど、それで通行人が少ないのか。
で、城に変わりはないのですか?」
叔父は渋い顔で返答に困っている。
しかし、皆の促すような表情に押され、とうとう口を開いた。
「実は、王女があの魔導師を排除しようと画策されて、東の塔に幽閉されている。
その計画を魔導師が事前に予見で察知して潰したことで、返って王の寵愛を厚くしてしまったようだ。
あの方の言葉が重みを増して、権力がますます強くなっている。
城内で、うかつにそれを非難しようものなら失脚も珍しくない。
お前も城に入るなら、重々注意せよ。」
「王女が?!やはり……早まれたことを……」
王女からガルシアへ手紙を託された騎士も、自分を待てなかった彼女に悔しさで唇を噛む。
返事が来るまで、くれぐれも早まった事をしないようにと釘を刺してきたのは無駄だったのか。
しかしガルシアからの手紙も、中身は良い返事ではない。
それを憂慮していた彼女は、どうしても動かずにいられなかったのだろう。
「とにかく、これで事情はわかった。
王はアトラーナ王のお返事をお待ちであろうから、魔導師殿の疑惑はさておきご報告だけに留まろう。
アトラーナの方々もそれでよろしいだろうか。
ひとまずはトラン王へのご挨拶だけに留めていただきたい。」
エルガルドの言葉に、目を閉じ無言のセレスを横目にアトラーナの騎士ゴートがうなずいた。
ガルシアからも、彼らを見送り無事に帰る事を優先するよう命を受けている。
元々ガルシアの命ではトランの城まで来る必要もなかったのだが、セレスが王に面会を求めると言うので兵達も護衛に同行してきた。
セレスとエルガルドが護衛に同意してくれたので、一度トランの城の様子を見て来るのも目的だ。
「承知した。我らも今回はあなた方を無事送り届けるのが優先任務。
魔導師殿の詮議はまた繊細な事項ゆえ王の勅使殿が改めてと言う事に。
セレス殿も、それでよろしいでしょうか?」
「もちろん、私が意見を述べることではないよ。私もただ王に挨拶に来ただけだ。
ここは君たちに従おう。」
セレスが、目を開き穏やかに微笑むとゆっくりうなずく。
騎士達は、ではと一礼し城へと一斉に立ち上がった。
トランの首都は近くの山に上質の白い石が取れる石切場が近いために石畳も町壁も白く、トランの白い城と相まって、それはまるで純白の町を成している。
その白く固い石畳にガラガラと音を立てて馬車が行き交い、物売りがどことなく暗い顔で並んでいる。
物流が減っているのは、店の品数が少ないことからも良くわかる。
少ないと言う事は、物の値段も跳ね上がっていることだろう。ひどく不機嫌な客にとがめられて困っている店主の様子も見受けられる。
町の人々も生活する上で不満が増しているのだろう、彼ら一行が町に入ると、白百合の紋章の上着を着た地の巫子セレスを見つけ、駆け寄り拝む人々もいた。
地の神殿はトランにも信者が多く、国境を越えて参拝する人々も多い。
セレスは第一巫子、巫子のトップだ。
祭りの時以外は滅多に目にする機会もなく、突然現れた彼に町ではちょっとした騒ぎとなった。
「どうか巫子様、王様に通行制限の解除を!」
「このままでは生活が成り立ちません、せめて荷物の自由な出入りをお許し願うようお話を!」
口々に直訴してくる。
セレスは軽く手を上げ微笑みを返しながら、王にお伝えしましょうと返してゆく。
しかし、今回それは目的ではないだけに、兵達はセレスの言葉にも心苦しさを感じながら城へと足を進めていた。
「エルガルド殿!おお、よくご無事に帰って見えられた!
これは……アトラーナの方々もご同行なされていたとは。」
城から迎えの騎士が兵を引き連れやってきて、一行を迎え入れてくれた。
しかしアトラーナから付いてきた騎士達に、訳を知らない彼らは顔を見合わせ怪訝な顔をしている。
だが、彼らも頭を下げるセレスが王に会いたいと申し出て、アトラーナの兵達はその護衛だと聞き納得していた。
先に知らせに走ったトランの兵が帰ってこない。
トランの騎士エルガルドが、おかしいと言って縁故の者に使いをやった。
彼はレナントで殺されかけてから、自身の国というのに随分慎重になっている。
「あの王付きの魔導師が、また暗躍しているのかもしれません。
王に近い親族に話を聞いて、それから城に入りましょう。
関には兵が増やされていますが、人の往来も数人あり、変わりはないようです。」
見通しの良い、森の木立が途切れた場所から望めば、白亜で目立つ城は遠くに見えている。
トランの白鳥と言われた、特に白さを際立たせて作られた美しい城は、周囲に広がる森の緑の海に浮かぶ鳥のようだ。
遙か昔はアトラーナと同じ国であったこの城は、本城と対で立てられた。
その後、この城に居していた領主が、独立戦争を経てトランという国を建国したものだ。
トランはその後近隣小国を侵略吸収して国を大きくしたが、アトラーナとの間に出来た確執から争いの絶えない関係となってしまった。
城下には比較的大きな町があり、奥に広がる湖の畔には、町がいくつも点在して普段は人の通りも多く賑わっている。
だが、隣町への道と交わる所まで出ても馬車も通らず人が少ない。
森の中で休憩を取り騎士や兵が話しあっている場に、やがてエルガルドの叔父が部下と共に現れ彼の無事を喜んだ。
「おお!これは地の巫子様もご同行なさっておられるのか。ありがたいことだ。
エルガルド、お前たちが行ったしばらくあと、隣国との通行制限のお触れが出たんだ。
今は通行証がなかなか出ない為に、食料以外は物の流通が止まっている状態だ。
城下は特に、この先の西側の関を通り抜けるのがなかなか厳しい。
アトラーナには、化け物じみた精霊の交わり者も多いからな。
王は間者にひどく神経質になっておられる。
若い騎士は、みんなアトラーナとの戦争も近いと噂しているよ。」
「なるほど、それで通行人が少ないのか。
で、城に変わりはないのですか?」
叔父は渋い顔で返答に困っている。
しかし、皆の促すような表情に押され、とうとう口を開いた。
「実は、王女があの魔導師を排除しようと画策されて、東の塔に幽閉されている。
その計画を魔導師が事前に予見で察知して潰したことで、返って王の寵愛を厚くしてしまったようだ。
あの方の言葉が重みを増して、権力がますます強くなっている。
城内で、うかつにそれを非難しようものなら失脚も珍しくない。
お前も城に入るなら、重々注意せよ。」
「王女が?!やはり……早まれたことを……」
王女からガルシアへ手紙を託された騎士も、自分を待てなかった彼女に悔しさで唇を噛む。
返事が来るまで、くれぐれも早まった事をしないようにと釘を刺してきたのは無駄だったのか。
しかしガルシアからの手紙も、中身は良い返事ではない。
それを憂慮していた彼女は、どうしても動かずにいられなかったのだろう。
「とにかく、これで事情はわかった。
王はアトラーナ王のお返事をお待ちであろうから、魔導師殿の疑惑はさておきご報告だけに留まろう。
アトラーナの方々もそれでよろしいだろうか。
ひとまずはトラン王へのご挨拶だけに留めていただきたい。」
エルガルドの言葉に、目を閉じ無言のセレスを横目にアトラーナの騎士ゴートがうなずいた。
ガルシアからも、彼らを見送り無事に帰る事を優先するよう命を受けている。
元々ガルシアの命ではトランの城まで来る必要もなかったのだが、セレスが王に面会を求めると言うので兵達も護衛に同行してきた。
セレスとエルガルドが護衛に同意してくれたので、一度トランの城の様子を見て来るのも目的だ。
「承知した。我らも今回はあなた方を無事送り届けるのが優先任務。
魔導師殿の詮議はまた繊細な事項ゆえ王の勅使殿が改めてと言う事に。
セレス殿も、それでよろしいでしょうか?」
「もちろん、私が意見を述べることではないよ。私もただ王に挨拶に来ただけだ。
ここは君たちに従おう。」
セレスが、目を開き穏やかに微笑むとゆっくりうなずく。
騎士達は、ではと一礼し城へと一斉に立ち上がった。
トランの首都は近くの山に上質の白い石が取れる石切場が近いために石畳も町壁も白く、トランの白い城と相まって、それはまるで純白の町を成している。
その白く固い石畳にガラガラと音を立てて馬車が行き交い、物売りがどことなく暗い顔で並んでいる。
物流が減っているのは、店の品数が少ないことからも良くわかる。
少ないと言う事は、物の値段も跳ね上がっていることだろう。ひどく不機嫌な客にとがめられて困っている店主の様子も見受けられる。
町の人々も生活する上で不満が増しているのだろう、彼ら一行が町に入ると、白百合の紋章の上着を着た地の巫子セレスを見つけ、駆け寄り拝む人々もいた。
地の神殿はトランにも信者が多く、国境を越えて参拝する人々も多い。
セレスは第一巫子、巫子のトップだ。
祭りの時以外は滅多に目にする機会もなく、突然現れた彼に町ではちょっとした騒ぎとなった。
「どうか巫子様、王様に通行制限の解除を!」
「このままでは生活が成り立ちません、せめて荷物の自由な出入りをお許し願うようお話を!」
口々に直訴してくる。
セレスは軽く手を上げ微笑みを返しながら、王にお伝えしましょうと返してゆく。
しかし、今回それは目的ではないだけに、兵達はセレスの言葉にも心苦しさを感じながら城へと足を進めていた。
「エルガルド殿!おお、よくご無事に帰って見えられた!
これは……アトラーナの方々もご同行なされていたとは。」
城から迎えの騎士が兵を引き連れやってきて、一行を迎え入れてくれた。
しかしアトラーナから付いてきた騎士達に、訳を知らない彼らは顔を見合わせ怪訝な顔をしている。
だが、彼らも頭を下げるセレスが王に会いたいと申し出て、アトラーナの兵達はその護衛だと聞き納得していた。
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