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16、トラン動乱
第167話 リューズの記憶
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城では、セレスも共に来たという知らせに、明るい顔で王子が父の顔を見た。
「父上、セレス殿とお会いになるのはお久しぶりですね。
私も后にさっそく知らせをやりましょう。
元気になるよう、彼女に地の祝福を頂かなくては。」
父王も、セレスは気に入りの一人だ。
巫子としても一番高位な彼は、国を隔てて交流のあるトラン王族とも顔を合わせる機会も多い。
だが、最近のアトラーナとの不和に、めっきり地の神殿との交流は機会を減らしていた。
だが喜ぶ王子に、王の横に侍るリューズが横から首を振る。
「なりません、夢見の占いはひどく不吉な物でした。
あの巫子は、陛下の大切なこのトランに災厄をもたらします。
それを避けるためにも、なるべく早くこのトランから追い出すのです。」
「馬鹿な、セレスは地の一番巫子だぞ。
そのような事があるわけがない。」
素直にうなづく王と違い、王子は眉をひそめてリューズに意見する。
リューズが顔を上げ、ブツブツ呪を唱えて杖で床を鳴らした。
コーー………ン
王子が一瞬目を見開き、そして表情から力を失ってぼんやりと頷く。
そしてゆっくりとうなずいた。
「いや、そうだな。
セレスも巫子と言え人間だ。
もしかしてと言う事もある、ここはリューズの言う通りにしよう。お前の言う事に間違いはない。」
リューズの顔の半分を仮面に覆われたその表情は読み取りにくいが、ひどく悲しそうに微笑み立ち上がる。
「そうなさいますように。
このリューズは陛下のため、王子のため、このトランのためにここにおります。
しばし失礼を。部屋で準備をしてすぐに参ります。」
頭を下げて部屋を出る。
廊下を自室に向かいながら、人の気配が消えたところで後ろを歩く、白いローブをすっぽりかぶっている顔の無い魔導師にささやいた。
「王子を監視せよ。」
「承知イタシマシタ。」
魔導師は音もなく消える。
リューズは首に手をやり、忌々しく舌打ちした。
王子にかけた術が切れかかっている。
ヴァシュラムに、百合の紋章を身体に刻まれてから力が弱まっているからだ。
どうすればこれが消せるのか。
いかなる破術を試しても薄まるどころか濃くなって行く。
今、地の巫子で力が一番強いと言われる、一番巫子のセレスに来られるのはまずい。
何とか早々に追い返さねば、取り返しのつかないことになる。
やっとここまで思い通りにやってきたのだ。
もう少しだ、もう少しで戦(いくさ)になる。
仮面を撫で、アトラーナへの復讐をつぶやく。
それを考えることだけが、考えている間だけが、自分の存在意義を感じる。
「マリナを殺したアトラーナを滅ぼす……
アトラーナを滅ぼして、滅ぼして……滅ぼして…………かたきを取る……
かたきを……
でも……
マリナとは………… 誰だ?」
彼の脳裏には、優しい微笑みをたたえる美しい女性が、兵に襲われ殺される場面が繰り返される。
彼の記憶の中で、そのシーンが強烈に残って他を押しつぶしている。
だが、自分はその女性が誰なのかをよく覚えていない。
わかるのは、その女性がマリナと言う名前で大好きだったこと。
相手がアトラーナの兵だと言う事。
もしかしたら、あの女性は母かもしれない。
とても、とても好きだった。
とても愛していた。
それだけはわかる。
そして、もう一つ記憶にあるのは、燃え上がるアトラーナの景色。
どこまでも、どこまで飛んでも地は燃え上がり、人々は逃げ回り息絶えていた。
何百年も前、アトラーナを滅ぼそうとしたのは自分だ。
大切なマリナを目の前で殺された激情に駆られ、火の巫子リリサレーンと一つになりアトラーナを滅ぼした………と、そう思い込んで眠っていた。
だが、
目覚めてみればどうだ。
アトラーナは存在し、あの王家も何事もなかったように繁栄して次代をまた子に継ごうとしている。
許せない。
なぜあの王家がそのまま存続しているのだ。
なぜ、人々は笑ってあの王家を称えるのだ。
マリナを殺したアトラーナが許せない。
ただ、ただあの国を、あの王家を滅ぼしたい。
アトラーナを滅ぼせば、何かわかるような気がしてならない。
自分は何なのか、誰なのか。
あの女性が誰なのか。
「マリナ……会いたい。会いたい。
寒いんだ、とても寒い。」
自分を誰が包み込んでいたのか、記憶の奥底にもう一つの手が見える。
優しく自分を抱きかかえるその手。
それを待っていた気がするのに、誰の手なのか記憶が定かではない。
心が二つあるような、その心の半分にポッカリと穴が空いたような、喪失感がずっと埋まらない。
自分の部屋に入ると、レナントから連れてこられたメイスの姿の人形が、彼を待ち受けたように抱きついてきた。
メイスそっくりでもメイスではないけれど、中身の無いそれでも今は十分だ。
リューズがそれを愛おしそうに抱きしめると、メイスの複製の人形は意味もなくはしゃいでもたれ掛かり、リューズの腕の中にすっぽりと収まる。
満たされなくともそれでいい。
このぬくもりが愛おしい。
セレスが到着するまでの時間を、二人はただ無言でじっと抱き合って過ごした。
「父上、セレス殿とお会いになるのはお久しぶりですね。
私も后にさっそく知らせをやりましょう。
元気になるよう、彼女に地の祝福を頂かなくては。」
父王も、セレスは気に入りの一人だ。
巫子としても一番高位な彼は、国を隔てて交流のあるトラン王族とも顔を合わせる機会も多い。
だが、最近のアトラーナとの不和に、めっきり地の神殿との交流は機会を減らしていた。
だが喜ぶ王子に、王の横に侍るリューズが横から首を振る。
「なりません、夢見の占いはひどく不吉な物でした。
あの巫子は、陛下の大切なこのトランに災厄をもたらします。
それを避けるためにも、なるべく早くこのトランから追い出すのです。」
「馬鹿な、セレスは地の一番巫子だぞ。
そのような事があるわけがない。」
素直にうなづく王と違い、王子は眉をひそめてリューズに意見する。
リューズが顔を上げ、ブツブツ呪を唱えて杖で床を鳴らした。
コーー………ン
王子が一瞬目を見開き、そして表情から力を失ってぼんやりと頷く。
そしてゆっくりとうなずいた。
「いや、そうだな。
セレスも巫子と言え人間だ。
もしかしてと言う事もある、ここはリューズの言う通りにしよう。お前の言う事に間違いはない。」
リューズの顔の半分を仮面に覆われたその表情は読み取りにくいが、ひどく悲しそうに微笑み立ち上がる。
「そうなさいますように。
このリューズは陛下のため、王子のため、このトランのためにここにおります。
しばし失礼を。部屋で準備をしてすぐに参ります。」
頭を下げて部屋を出る。
廊下を自室に向かいながら、人の気配が消えたところで後ろを歩く、白いローブをすっぽりかぶっている顔の無い魔導師にささやいた。
「王子を監視せよ。」
「承知イタシマシタ。」
魔導師は音もなく消える。
リューズは首に手をやり、忌々しく舌打ちした。
王子にかけた術が切れかかっている。
ヴァシュラムに、百合の紋章を身体に刻まれてから力が弱まっているからだ。
どうすればこれが消せるのか。
いかなる破術を試しても薄まるどころか濃くなって行く。
今、地の巫子で力が一番強いと言われる、一番巫子のセレスに来られるのはまずい。
何とか早々に追い返さねば、取り返しのつかないことになる。
やっとここまで思い通りにやってきたのだ。
もう少しだ、もう少しで戦(いくさ)になる。
仮面を撫で、アトラーナへの復讐をつぶやく。
それを考えることだけが、考えている間だけが、自分の存在意義を感じる。
「マリナを殺したアトラーナを滅ぼす……
アトラーナを滅ぼして、滅ぼして……滅ぼして…………かたきを取る……
かたきを……
でも……
マリナとは………… 誰だ?」
彼の脳裏には、優しい微笑みをたたえる美しい女性が、兵に襲われ殺される場面が繰り返される。
彼の記憶の中で、そのシーンが強烈に残って他を押しつぶしている。
だが、自分はその女性が誰なのかをよく覚えていない。
わかるのは、その女性がマリナと言う名前で大好きだったこと。
相手がアトラーナの兵だと言う事。
もしかしたら、あの女性は母かもしれない。
とても、とても好きだった。
とても愛していた。
それだけはわかる。
そして、もう一つ記憶にあるのは、燃え上がるアトラーナの景色。
どこまでも、どこまで飛んでも地は燃え上がり、人々は逃げ回り息絶えていた。
何百年も前、アトラーナを滅ぼそうとしたのは自分だ。
大切なマリナを目の前で殺された激情に駆られ、火の巫子リリサレーンと一つになりアトラーナを滅ぼした………と、そう思い込んで眠っていた。
だが、
目覚めてみればどうだ。
アトラーナは存在し、あの王家も何事もなかったように繁栄して次代をまた子に継ごうとしている。
許せない。
なぜあの王家がそのまま存続しているのだ。
なぜ、人々は笑ってあの王家を称えるのだ。
マリナを殺したアトラーナが許せない。
ただ、ただあの国を、あの王家を滅ぼしたい。
アトラーナを滅ぼせば、何かわかるような気がしてならない。
自分は何なのか、誰なのか。
あの女性が誰なのか。
「マリナ……会いたい。会いたい。
寒いんだ、とても寒い。」
自分を誰が包み込んでいたのか、記憶の奥底にもう一つの手が見える。
優しく自分を抱きかかえるその手。
それを待っていた気がするのに、誰の手なのか記憶が定かではない。
心が二つあるような、その心の半分にポッカリと穴が空いたような、喪失感がずっと埋まらない。
自分の部屋に入ると、レナントから連れてこられたメイスの姿の人形が、彼を待ち受けたように抱きついてきた。
メイスそっくりでもメイスではないけれど、中身の無いそれでも今は十分だ。
リューズがそれを愛おしそうに抱きしめると、メイスの複製の人形は意味もなくはしゃいでもたれ掛かり、リューズの腕の中にすっぽりと収まる。
満たされなくともそれでいい。
このぬくもりが愛おしい。
セレスが到着するまでの時間を、二人はただ無言でじっと抱き合って過ごした。
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