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16、トラン動乱
第168話 トラン王謁見
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セレスたち一行は、慎重に慎重を重ね、午後になってようやく城に着いた。
城にはすでに兵の知らせが走り、知らせが行き渡っていたために、セレスもエルガルドと共に謁見を許されている。
城内は思いがけなく同行してきたセレスの姿に、喜び歓迎する者も多く、一気に沸き立ち騒がしい。
セレスが人々に微笑みながら、城内を見回す。
兵の後ろにちらほらと、白いローブをすっぽりとかぶり杖を持つ、顔も見えない魔導師らしき人影が見える。
それがまるで兵達の動向を監視しているようで不気味だ。
あれがあの夜レナントの城で見た、顔の無い魔導師という物の仲間か。
リリスが2人、私が2人倒したが……あと何人いるのやら……
セレスがチラリと横目で見る。
彼の視線を恐れるように、左前にいた顔の無い魔導師がスッと下がっていった。
「騎士エルガルド殿、ご帰還成されました!
地の巫子セレス様おいででございます!」
謁見の間を見回すと、粛々と一礼する貴族や騎士が下座に追いやられ、白いローブの魔導師達が異様な様子で玉座近くに並んでいる。
セレスがそれを冷たく一別し、エルガルドと並んで玉座を見上げた。
トラン王は王冠もぼさぼさの白い髪に埋もれ、一気に老いた様子で玉座に座る事も辛いのか息も荒く、背もたれにだらりともたれている。
その玉座の横には、純白の長衣に細かな刺繍の入ったローブを羽織る小柄の仮面を付けた魔導師が侍り、王子が一歩置いて横に立っていた。
その魔導師達の権威の有り様は、セレス達アトラーナの者にはどう見ても異様にうつり寒気がする。
そうして一同が息を飲んでいると、王子がセレスの姿に明るい顔を見せ、まずはエルガルドに声をかけた。
「エルガルドよご苦労だった、無事で何よりだ。
アトラーナ王に会う事叶わなかったと聞いたが?」
「は、このエルガルド、王と王子のため、このトランのために大役を授かり恐悦至極に存じます。
誠意を持って勤めましたが、心急くばかりでお待たせする事になり、大変申し訳ございません。
結局アトラーナ王はご体調ままならず、お会いする事叶いませんでした。
しかしガルシア殿に王の手紙はしかとアトラーナ王にお渡し頂き、こちらにこうして返事をいただく事叶いました。」
エルガルドが、懐からアトラーナ王家の紋章で封をした手紙を取り出す。
だが、薬と言えば薬草しかないこの世界では、病は軽い物でも死にも直結するとして忌み嫌われる。
「ご体調が……それはいけません。」
仮面の魔導師がかたわらの白いローブの魔導師たちに指示すると、その中の1人が歩み出てエルガルドから手紙を受け取り、呪を唱え始める。
だが、その行為にセレスは厳しい顔を見せ、白いローブの魔導師を一喝した。
「控えよ!それは我らが持参した物。
この地の巫子セレスが同行した物に邪な気が宿ると申すか。」
「セ、セレス殿、御前でございます。お控えを!」
驚いてエルガルドが彼にささやく。
だが、セレスの射るような目に白いローブをすっぽりとかぶった魔導師は身震いして、慌てて王子の側近にその手紙を渡した。
仮面の魔導師はため息をつき、おびえる部下に杖を向ける。
「下がれ。」
部下の魔導師は一礼して音もなく下がって部屋を出て行き、他の白いローブの魔導師達もただ頭を下げて、セレスからおびえるように目をそらした。
「エルガルドよ、よい。こちらが無礼だった。」
王子が気を取り直して手紙を開き、王にヒソヒソと読んで聞かせる。
横から仮面の魔導師が、なにやら小さく王にささやいた。
王はゼイゼイ息も荒くうなずき、震える手を上げる。
「大儀であった。休むがよい。」
しわがれた声で、それだけをゆっくりと述べる。
中はこれまで通り、より良く友好的で共に発展したいとの内容のはずだ。
王女の輿入れを楽しみにしていると一筆加えるようガルシアから伝えてある。
しかし、それでは納得出来ないのか王の表情は苦い様子で、横から頻繁に仮面の魔導師は王にささやきかける。
落ちくぼんだ王の瞳がふと、セレスに向いた。
穏やかに微笑みかけるセレスから、どこか気まずいのかふと目をそらす。
王子はそれに気がつかないのか、明るい表情でセレスに手を伸ばした。
しかし何気なく伸ばすその手が、なぜかセレスには、まるで助け手を欲する迷い人の手のように感じる。
王子の声は、不気味な王宮で妙に明るくよそよそしく響いた。
「おお、セレスよ、久しく顔を見なかったが息災であったか?
相変わらず美しい。
もっと近うよって、父上に顔を見せてくれ。」
「お久しぶりにございます。
お二方ともご機嫌麗しく、トランのますますの繁栄、地の神殿としましても大変喜ばしゅうございます。」
「堅苦しい挨拶などよい、貴方が来てくれるとは思わなかった。
思いがけなく嬉しい事よ。
地の神殿には一度参ろうと思っていたが、この事態でなかなか行けずじまいだ。
我が后もそなたに会いたいと常々話している。
どうか、彼女にも会って話しをしていって欲しい。きっと元気になろう。」
「これは、私ごときをお気にかけて下さり、恐悦至極に存じます。
妃殿下のご体調も気になるところなのでございますが……申し訳ありません。
本日、私がこの城に参りましたのは、そちらの魔導師殿の事でございます。」
「リューズの?いかがした?」
その言葉に、エルガルドやアトラーナの騎士たちが驚いて顔を上げる。
怪訝な表情の王子をよそに、セレスがゆっくりと視線を仮面の魔導師に向けた。
「王子メディアス様、ヴァシュラム様がトランにお授けになられたご神木をどうなさいました?」
その言葉に、ギクリと王子がリューズを見る。
「あ……あれは……
あれは、魔導師の杖にしたいというので切ってしまったのだ。
いや、地の神殿には知らせを走らせるべきだった。すまない。」
「いえ、それだけではございません。
その魔導師は地の掟を破り、魔導を使って一般の者に危害を加えた嫌疑がございます。
どうか、地の神殿にお引き渡しを願います。」
セレスと目が合い、仮面の魔導師リューズの手が震えた。
セレスと直に対面するのは初めてだ。
メイスや水鏡を通して数度接したことはあるが、ここまで何か大きな物に押しつぶされるような、何か空気さえ変える圧力を感じるとは思わなかった。
相手は自分と変わらない、華奢で女のような容姿の……いや、容姿など関係無い。
こいつは化け物だ。
巫子なんて、神々しい物じゃない。
恐ろしい、こんな、こんな物、早く追い出さなくては!
杖を握りしめ、王の耳にひっそりとささやく。
「早くあの巫子を帰すのです!あの巫子は災いの風をはらんでいます。」
その言葉に、王がカッと目を開き身を起こす。
そしてセレスに向かって手で払った。
「もうよい、下がれ。」
息を切らしてセレスに告げる。
「セレス殿、その話は……!」
身震いするエルガルドが思わずセレスから一歩下がり、皆の視線が一人すっと立つセレスの小柄な姿に息を飲み集中する。
セレスに引く様子はない。
背後に控えるアトラーナの騎士たちが、ただならぬ気配に前に出てセレスを守ろうとして、身体がピクリとも動かない事に気がついた。
城にはすでに兵の知らせが走り、知らせが行き渡っていたために、セレスもエルガルドと共に謁見を許されている。
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セレスが人々に微笑みながら、城内を見回す。
兵の後ろにちらほらと、白いローブをすっぽりとかぶり杖を持つ、顔も見えない魔導師らしき人影が見える。
それがまるで兵達の動向を監視しているようで不気味だ。
あれがあの夜レナントの城で見た、顔の無い魔導師という物の仲間か。
リリスが2人、私が2人倒したが……あと何人いるのやら……
セレスがチラリと横目で見る。
彼の視線を恐れるように、左前にいた顔の無い魔導師がスッと下がっていった。
「騎士エルガルド殿、ご帰還成されました!
地の巫子セレス様おいででございます!」
謁見の間を見回すと、粛々と一礼する貴族や騎士が下座に追いやられ、白いローブの魔導師達が異様な様子で玉座近くに並んでいる。
セレスがそれを冷たく一別し、エルガルドと並んで玉座を見上げた。
トラン王は王冠もぼさぼさの白い髪に埋もれ、一気に老いた様子で玉座に座る事も辛いのか息も荒く、背もたれにだらりともたれている。
その玉座の横には、純白の長衣に細かな刺繍の入ったローブを羽織る小柄の仮面を付けた魔導師が侍り、王子が一歩置いて横に立っていた。
その魔導師達の権威の有り様は、セレス達アトラーナの者にはどう見ても異様にうつり寒気がする。
そうして一同が息を飲んでいると、王子がセレスの姿に明るい顔を見せ、まずはエルガルドに声をかけた。
「エルガルドよご苦労だった、無事で何よりだ。
アトラーナ王に会う事叶わなかったと聞いたが?」
「は、このエルガルド、王と王子のため、このトランのために大役を授かり恐悦至極に存じます。
誠意を持って勤めましたが、心急くばかりでお待たせする事になり、大変申し訳ございません。
結局アトラーナ王はご体調ままならず、お会いする事叶いませんでした。
しかしガルシア殿に王の手紙はしかとアトラーナ王にお渡し頂き、こちらにこうして返事をいただく事叶いました。」
エルガルドが、懐からアトラーナ王家の紋章で封をした手紙を取り出す。
だが、薬と言えば薬草しかないこの世界では、病は軽い物でも死にも直結するとして忌み嫌われる。
「ご体調が……それはいけません。」
仮面の魔導師がかたわらの白いローブの魔導師たちに指示すると、その中の1人が歩み出てエルガルドから手紙を受け取り、呪を唱え始める。
だが、その行為にセレスは厳しい顔を見せ、白いローブの魔導師を一喝した。
「控えよ!それは我らが持参した物。
この地の巫子セレスが同行した物に邪な気が宿ると申すか。」
「セ、セレス殿、御前でございます。お控えを!」
驚いてエルガルドが彼にささやく。
だが、セレスの射るような目に白いローブをすっぽりとかぶった魔導師は身震いして、慌てて王子の側近にその手紙を渡した。
仮面の魔導師はため息をつき、おびえる部下に杖を向ける。
「下がれ。」
部下の魔導師は一礼して音もなく下がって部屋を出て行き、他の白いローブの魔導師達もただ頭を下げて、セレスからおびえるように目をそらした。
「エルガルドよ、よい。こちらが無礼だった。」
王子が気を取り直して手紙を開き、王にヒソヒソと読んで聞かせる。
横から仮面の魔導師が、なにやら小さく王にささやいた。
王はゼイゼイ息も荒くうなずき、震える手を上げる。
「大儀であった。休むがよい。」
しわがれた声で、それだけをゆっくりと述べる。
中はこれまで通り、より良く友好的で共に発展したいとの内容のはずだ。
王女の輿入れを楽しみにしていると一筆加えるようガルシアから伝えてある。
しかし、それでは納得出来ないのか王の表情は苦い様子で、横から頻繁に仮面の魔導師は王にささやきかける。
落ちくぼんだ王の瞳がふと、セレスに向いた。
穏やかに微笑みかけるセレスから、どこか気まずいのかふと目をそらす。
王子はそれに気がつかないのか、明るい表情でセレスに手を伸ばした。
しかし何気なく伸ばすその手が、なぜかセレスには、まるで助け手を欲する迷い人の手のように感じる。
王子の声は、不気味な王宮で妙に明るくよそよそしく響いた。
「おお、セレスよ、久しく顔を見なかったが息災であったか?
相変わらず美しい。
もっと近うよって、父上に顔を見せてくれ。」
「お久しぶりにございます。
お二方ともご機嫌麗しく、トランのますますの繁栄、地の神殿としましても大変喜ばしゅうございます。」
「堅苦しい挨拶などよい、貴方が来てくれるとは思わなかった。
思いがけなく嬉しい事よ。
地の神殿には一度参ろうと思っていたが、この事態でなかなか行けずじまいだ。
我が后もそなたに会いたいと常々話している。
どうか、彼女にも会って話しをしていって欲しい。きっと元気になろう。」
「これは、私ごときをお気にかけて下さり、恐悦至極に存じます。
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「王子メディアス様、ヴァシュラム様がトランにお授けになられたご神木をどうなさいました?」
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あれは、魔導師の杖にしたいというので切ってしまったのだ。
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「いえ、それだけではございません。
その魔導師は地の掟を破り、魔導を使って一般の者に危害を加えた嫌疑がございます。
どうか、地の神殿にお引き渡しを願います。」
セレスと目が合い、仮面の魔導師リューズの手が震えた。
セレスと直に対面するのは初めてだ。
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相手は自分と変わらない、華奢で女のような容姿の……いや、容姿など関係無い。
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恐ろしい、こんな、こんな物、早く追い出さなくては!
杖を握りしめ、王の耳にひっそりとささやく。
「早くあの巫子を帰すのです!あの巫子は災いの風をはらんでいます。」
その言葉に、王がカッと目を開き身を起こす。
そしてセレスに向かって手で払った。
「もうよい、下がれ。」
息を切らしてセレスに告げる。
「セレス殿、その話は……!」
身震いするエルガルドが思わずセレスから一歩下がり、皆の視線が一人すっと立つセレスの小柄な姿に息を飲み集中する。
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