赤い髪のリリス 戦いの風

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17、地底のイスカ村

第191話 赤い髪の血統

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「世継ぎだと?!まさか、そんなはずが……」

「まさか……本当なのか?
まさか、そんなことあり得ない!
え?本当のことなのか?おい、貴様グレン殿と言ったな。
貴様にも分かっているだろう!これははっきりさせねばならん、はっきり言え!」

冷静だったガーラントがグレンに掴みかかる。
その手をふりほどき、グレンはスッと後ろに引いた。

「本当だ。
だからこそ、リリサレーン様が一身に罪を背負われたとき、精霊王の方々は怒り狂ったのだ。
もちろん王も巫子に落ち度がないことを知っていた。しかも、あの方は王の娘だった。
兄が妹を、そして父が娘を切り捨てたのだ。
許されるはずもない。
しかも王は、復興に置いて臣民の理解が得られないとして、火の神殿の閉鎖と精霊の一時封印を要求してきた。」

「馬鹿な!それは冤罪ではないか!」

「だから!
だからその時、交換条件として王はランドレール王子の王位継承権剥奪と地下牢への終身幽閉。そして……
そして精霊王の方々に、ある約束を結んだのです。」

「約束?それは?」

「世継ぎは、精霊王の許しを得ると。」

ブルースが膝を叩いた。

「ラーナブラッドの誓いか!
だがあれは、ドラゴンの忠誠を計る物だと、今はそうなのだ。まさか、それも?違うのか?」

「ラーナ……?そのような言葉、存じませぬ。
フレアゴート様は配下を失い、巫子をも失っては自分も死んだと同じと、力の源である額の目を王に渡されました。
世継ぎが13の歳に色を失い、その世継ぎの王子を精霊が認めたとき目の玉は再生すると。
そうフレア様が定め……
今もつつがなく続いている物と思っていましたが、約束は守られていないのですか?」

ガーラントとブルースが、苦い顔で顔を合わせる。
長い時間の間に約束の意味はいびつに変わり、何もかもが人間に都合のいいように変わっている気がする。
少し考え、ブルースが言葉を選んだ。

「少し……意味が違っている。
今は、王の下に精霊王がおられる。
その目玉は今ではラーナブラッドという王家の王位継承の印の宝石と言われているが、それは新しい王となる王子への精霊王達の忠誠の誓いの証。
精霊王は、王に仕えるのだ。
だが、王子が精霊王の元を巡るのは、それだけは変わらない。」

グレンが眉をひそめ、ホムラと顔を合わせる。
ホムラが、少し考えて胸に引っかかることを聞いてきた。

「先ほど……その……リリス殿が王の長子だが赤い髪がなんとかと言われておったな。
どう言う事か?」

ブルースが、一方の眉を上げてガーラントを見る。
どうも、この剃髪のホムラは激情型で苦手だ。
しかし、どう説明していいものか言葉を探していると、リリスがそっと顔を覗き込むようにしてホムラに微笑んだ。

「だって、それは仕方ないと思うんです。
魔女と同じ髪の色なれば、それはあまりに印象的で厄災が思い出されて、とても不吉な物なのです。
誰もが皆、物わかりが良いわけではありません。
私もこの髪と目の色ではたいそう嫌われましたが、どんなに良い方でもこの色にとらわれず仲良くなることには時間が必要でした。
そして……これが火の巫子独特の物なれば、それは王家にしてみれば決して生まれては……存在してはならないのです。」

「生まれては……ならないとは……」

ホムラの顔がゆがみ、目を見開いてリリスを見つめる。
地に落ちるどころか、権威など元より無く抹消されてきた火の巫子。それを知ることに、彼らがどれほど傷つくだろうかと思う。
自分でも、自分の存在を否定しなければならない言葉だ。
でもリリスはまるで自分に言い聞かせるように、そしてそれは自分のことだからこそ、自ら彼らに言わなければならないことだと思った。

「火の巫子は、王家によく生まれると聞きました。この赤い髪はその証なのでしょう。
でも、魔女の血統が王家に生まれるなど、あり得ないことです。
それは許されません。
王家の、土台を揺るがすことです。
だから……だから、赤い髪の子供は王家から消されたのです。
私は、そう悟りました。

王家以外から生まれた子は生き延びた子もいたことでしょう。
でも、巫子として自分の存在に気がついた子は、密かに命を落とす結果になったと聞いております。
フレアゴート様は、それをずっと見てこられたのです。
あの御方の失望感は、それは底知れぬ物だと思います。
私は運良く生き延びておりますが、だからこそ……この命あるからこそ、あの方のためにも巫子となりたい。
火の神殿を再興したいのです。」

「あなたは……あなたは……一体……どう……」

「私は生まれてすぐに殺されるところを、王のお慈悲で捨て子として風のセフィーリア様の下働きとして育てられました。
セフィーリア様は使用人でしか無い私に、大きくなったあと自立に困らぬようにと魔導を教えて下さいました。
本当に、良い方々と巡り会うことが出来て、これ以上の幸運は……」

「あなたは!あなたはそれでよろしいのか?!」

ホムラがあまりにも物わかりが良すぎるリリスの言葉を遮り、声を震わせ問いかける。

いいのか悪いのかなんてわからない。
ずっと、これは自分に言い聞かせてきた言葉だ。
私は幸運だったと。
そうやって思い込まねば、幸運なんて感じるわけが無い。
私は親に捨てられたのだ、それで幸運なわけが無いじゃないか。当たり前だ。
私は物わかりのいい子供じゃない、普通の、親が恋しい子供だった。

だからこそ、これだけは感じる。

あるべき物の無いこの国は、それだけですでに歪んでいる。
このアトラーナは、人間だけの国では無い。
それを一番知っているのは王族であるはずなのに、どうしてそれから目をそらすのだろう。

リリスは視線を落として目を閉じ、無言で天を仰ぐ。
そして目を見開くと、立ち上がった。

「良いわけがありません。
私は……生きてここにある!
私の存在を……私の命を狙う者達に見せつけましょう。そして、火に頼る人間達に!
火の巫子はまだこの世にあり、そしてここに生きている!
そして精霊王フレアゴートがいるからこそ、世から火が消えることもないのです。
このままで良いわけがありません。
一緒に我らの居場所を取り戻しましょう!」

「おお……」

ホムラの顔が見る間に泣き崩れ、どうしようもなく手を握りしめる。
そして彼はまた顔の前に布を垂らし、声を殺して泣いた。
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