赤い髪のリリス 戦いの風

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21、地の三番目の巫子

第219話 それは、始まりの剣

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キアナルーサ王子の顔色が変わり、その思わぬ反応をルークが見逃さなかった。

「ほこらが壊れたことと、何か関係があるのでしょうか。」

「知らん、バカなことを言うな。
あいつは兄の許嫁と逃げたらしい、兄と婚礼の決まっていた婚約者が手紙を残して消えたとか。
我が側近が恥知らずなことよ、探す気にもならぬ。」

「許嫁と?そのようなお年でしたか……」

「あいつは俺より2つ上だ、結婚してもおかしくない。
お前も勝手に探してはならぬ。これ以上俺に恥をかかせるな、わかったな。」

「は……」

まあ、キアナルーサが育ちが良くて大きいのだろう。
双子だというリリスも、並べば誰も双子と思えない体格差がある。
この世界、栄養状態がいいのは王族か貴族くらいのものだ。
ゼブリスも貴族と言っても彼の使用人と変わらなかったから、思えば気の毒な身上だ。

ん?

ふと、取り巻きの中に金髪で美しい小柄の少年を見て、どこかで見たような気がした。

「そちらの方は?」

「あれは……俺の魔導師だ。魔導師の塔には属さぬ者、お前には関係ない。」

魔導師?なぜ魔導師が結界に引っかからず入り込めたんだ?

「ですが、隣国の魔導師の件もございましたし、力を持つ者として見ますればそうはいきません。
その方、どちらで教えを請うたのか?」

金髪の少年はおびえた様子で、もっと小さな黒髪の少年の後ろに隠れる。
黒髪の少年は手を胸に当て、一礼して上目遣いでルークを見た。

「主は一部記憶が定かではありません。なにとぞ御容赦を。」

「お前は……」

「私は主が水晶から作り出した木偶でございます。
主の名はリュシー、私はフェイクと申します。主は……」

王子が不機嫌そうに手を上げ会話を遮る。

「もう良い、時間の無駄だ。答える必要は無い。
瓦礫の撤去は急ぐよう叔父上に言付けよう、お前はお前の仕事をするがいい。
だが、俺のやることに詮索は許さぬ。行くぞ。」

「は、失礼をいたしました。」

頭を下げた時、くるりと背を向ける王子の腰の剣に目が行く。
その剣は、なぜか紐で封がしてある。
詮索するなと言われた手前、聞いても答えては貰えないだろう。
だが、その剣の鞘にある意匠にドキリとして思わず呼び止めた。

「王子!」

驚いて、王子が足を止め振り返る。

「なんだ、ビックリしたぞ。」

キアナルーサの顔にハッとして息をのむ。
一息飲み込み、落ち着いて微笑んだ。

「たいそう古い剣のようでございますね。
素晴らしい職人の細工に、思わず大きな声が出てしまいました。
いずこから探し出されたのでございますか?」

王子は満足そうに腰の剣に手をやり、柄をなでてにやりと笑う。

「お前の知らぬ場所よ、いい剣だろう。
だがサビだらけなのでな、飾りだよ。
しかし中を知れては周りに格好がつかぬ、うっかり抜かぬよう紐で封じているのだ。
それだけだ。いくぞ。」

「王子、剣を拝見でき……」

「王子!」

しつこい魔導師の長に、取り巻きの一人が話を変えようとサッと間に入ってきた。

「王子、キアナルーサ様、今日は兵を戦わせて肩書きを決めましょう。」

「そうだな、優劣をつけると兵は上に上がろうと張り切るだろう。」

「おお、今日は楽しめますね。」

ルークが一礼すると、ぞろぞろ一行はまた王子の機嫌を取りながらついて歩いて行く。

だが、ルークは大きく目を見開き、その胸の内はただならぬ不安に満ちあふれていた。
剣の柄にある意匠、美しく血のように赤く輝くルビーを目にはめた派手な大鷲のデザインは、古の、あの王子が好んで使っていたものだ。
確か、あの剣の柄の頭には、大きな赤い石が飾りに付いていたはずだが……

しかも、あの剣には誰かが封印の術を使っている。
抜かないようにでは無く、抜けないのだ。
誤魔化すために違いない。
あの、荒らされたほこらの中から取りだしたのはまさか……

何かが封印されているから、その封印強化のために毎日朝夕、城の魔導師が引き継いで呪を上げ、月に一度、地の神殿から神官が来てほこらに聖水を捧げ守り続けていた。
ほこらはこの城に3つある。
他の2つは過去の王や城に貢献した勇者を祭った物だと聞いている。
だが、ここだけは何を祭られているのか伝わっていない。

彼は爪をかみ、せわしく視線を走らせ考えを巡らせていた。
苦々しい顔で瓦礫の石を一つ取って投げつける。

理由やウソはどうでもいい。
だが、剣はすでにそこにある。
なぜ伝わっていないのかは、薄々自分にはわかる。

あの剣こそすべての元凶だった。

呪われた剣は人を変え、国に凶事をもたらす。
そう、あの方は何度も何度もおっしゃっていたのだ。
あれが、あんな所に封じられていたとは……
もっと城から離れた場所で、忘れ去られるには不安だったのだろう。

あの剣が、すべての始まりだったことを、自分は知っている。
今度こそ、あの剣を浄化し、破壊しなければ。

大きく息を吸って瓦礫の中から出てきた青いトカゲに目をやる。
そのトカゲは口からぽろりと一つの大きな真珠を吐き出し、元の髪となって消えた。
レスラカーンの杖に仕込んであった、母親の形見の真珠。
杖が取り出せないなら、これを取ってきて欲しいとレスラカーンの側近ライアから頼まれたのだ。

カサリと横から黒猫が姿を現した。
首を伸ばして辺りをうかがい、つぶらな瞳でじっとルークを見上げる。

「見つにゃった?」

猫が囁くように人語を話す。
ルークは大きく深呼吸して心を落ち着け、それを驚きもせずちらりと見て、顎に手をやり考えた。
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