赤い髪のリリス 戦いの風

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23、魔導師たちの密かな攻防

第237話 アデル、魔導師の塔へ

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本城も空の色が暗く変わり、ろうそくの灯りがともる頃、見回りや控えの兵たちが入れ替わる。
ようやく一日を終え、ホッとして談笑しながら廊下を歩いてくる兵が、白装束のアデルの姿を見ると脇に避け頭を下げた。

少年巫子は、愛想良くお疲れ様と微笑み、手を上げて通り過ぎる。
気持ちもほぐれるようなその微笑みに、嬉しそうにありがたいと思わず後ろ姿に手を合わせた。
暗い中、下女が忙しく廊下の燭台に火をともしている。

穏やかな灯りに吐息をもらし、暗くなった空を見上げる。
いつもの、何も変わりの無い一日が、終わろうとしていた。

そう言えば、ルークには話があると言われていたなと思う。
あの時は、うっかり口が滑ってしまった……
クスリと笑う。

「この国……これが最後のチャンスだと、人間どもはわかっているのかねぇ……」

口の中でつぶやき、今はその時を待つのだと思っている。
待つのも退屈だけれども……

「アデル様!食堂にお食事のご用意が出来ているそうです。
どうしましょう、お部屋にお持ち致しましょうか?!」

自室に戻ろうかとした時、身の回りの世話をする青年マリクが廊下を急いできて頭を下げた。

「いや、食堂でいいよ。じゃあ、食事を先に済ませて……」

そう言いかけた時、アデルがふと目を見開き不思議な笑みを浮かべ、視線を泳がせた。

「いや……いや、ちょっと用が出来た。
あとで食べるから部屋に運んでおいてくれるかい?
キリエたちは先に食事に行って、僕はルークの部屋に行くよ。」

「ご冗談を、もちろんお供しますぞ。」

「ルークと内密の話をする約束してるんだよ。だから……」

「構いませんぞ、我らはドアの前にて控えますゆえに。」

なんとも頑固な年寄り騎士だ、アデルがウンザリした顔になる。

「えー、付いてこなくていいのに~。
うーん、やだなあ、僕はちょっとマズいんだけどなあ……」

アデルのつぶやきを聞いて、オパールが足を止める。
あとを付いてくるキリエたちにくるりと振り向き、二人を遮った。
うやうやしくキリエともう一人一行の案内役である城の騎士に頭を下げ、スッと人払いのように大きく手を回す。

「どうぞお休みを!アデル様には、このオパールが!付いております。
どうぞ先にお休みを!」

オパールの芝居じみた仰仰しい仕草は、有無を言わせないものがある。

「むう……」

眉をひそめて憮然とするキリエが、大きくため息をつき顎のヒゲをなでた。

「致し方ない。では……いつでも、いつ何時でもお呼び下さい。馳せ参じましょうぞ。」

「わかったー」

アデルが見もせず後ろ手にぴらぴらと手を振る。
恐らく火を噴きそうに憤慨しているであろうキリエの顔は、見ないことにした。



魔導師の塔は、今は仮の場所で城の一角を使っている。
各階にある端の階段を一つ塔専用にとって廊下に仕切りのドアがあるので、他の城の人々は各階の行き来は他二つの階段で行っていた。
不便だが、やはり魔導師はこの国では別格なのだ。
元々魔導師の塔は東のはずれにあったのだが、今は西の一角なので引っ越しは崩れた塔から救出した大量の書物を運ぶので大変な物だった。
先代の長ならば、魔導師に日の出を見せないのはと恐らく揉めたことだろう。
今の長であるルークは何処でも良いとあっさりした物で、西日を嫌う水の魔導師のシャラナはため息をついて西の窓を板で閉じてしまった。

コンコンコン

アデルが魔導師の仮塔のドアを叩く。
魔導師たちには、世話役の見習い少年がそれぞれ一人付いている。
なのに出てこない。

コンコンコン

叩いても誰も出てこないので開けようとするが、かんぬきがかかっているらしいのかびくともしない。
オパールがドアに向けて手をかざし、すうっと横に動かす。
それに合わせてコトコトコトと軽い音がして、難なくドアが開いた。
ススッと前に出ると、オパールがドアを開けて、どうぞと手で招きスマートに頭を下げる。

「やな奴、だから部屋にかんぬき刺しても意味ないんだ。」

アデルが口を尖らせながら、中に進んだ。
廊下に進むと、パチッと何かがはじける。
恐らくこれで、侵入したことは気づかれただろう。

階段の前に立つと、上を仰ぐ。

廊下、階段、あらゆる所にはまだ整理されていない本がある。
じっと見て、横の部屋のドアを無遠慮に開ける。
ここにも本が至る所に積まれ、薬草らしい物がビンに詰められずらりと並ぶ。

なんとなく女の部屋かとわかるのは、地味なドレスが一枚椅子にかけてある。
一方の窓には板が張られ、水鏡か水を満たした大きな水盤が部屋の暗い場所に置いてあった。
ぐるりと見渡し、部屋を出る。
気づいたはずなのに、誰も出てこない。

オパールは黙ってアデルについて行く。
階段の横から裏に回ると、そこにドアがある。

またかんぬきが閉じているので、オパールがそれを手をかざして開くと、更に下へ行く狭い隠し階段を見つけた。
音を立てないように下り、通路の幅に背の低い小さなドアの前に立つ。
中から音はしない
ノックもしない
じっと立って目を閉じた。

オパールが何かを感じ、アデルの背に頭を下げ膝をつく。
アデルの身体が二重に見える。
その一つ、半透明のアデルが身体を抜け出し、ドアを通り抜けた。
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