赤い髪のリリス 戦いの風

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24、黒い悪霊からの逃亡

第266話 王子の嘲笑

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日も落ちて、酒場の明かりが灯る頃、城下の町の外れで頭からすっぽりとフードを被ったマント姿の小柄な影が、小屋の横の傍らで隠れるように座っていた。
小屋は近くの家の物置きらしく、2軒並んで裏には草丈の長い草が生えた土手が広がり人の気配は無い。
その先には小川が流れ、日が落ちると精霊のものなのか、飛び交う光りが、見える者には見えるとうわさもある。

遠くから、酒場の笑い声が小さく響く。
日も暮れると、出て歩くのは酔った男たちと見回りの兵くらいだ。
子供がうろうろするのはあり得ない。
あり得るとすれば、それは親無しの浮浪児か物乞い。もしくは花売りと呼ばれる身を売って日銭を稼ぐものだ。
だが、その少年は、マントの下の身なりも良く、何かと会話しながら目的がある様子だった。


少年が、マントの中のたすき掛けのカバンから、かけらを大切に取り出す。
すでに町を囲んでいくつだろうか、微塵に壊れたかけらを一つ一つ町を囲うように埋めてきた。

少年は、キアナルーサの元小姓。
小柄だが18になったばかりだ。
小姓には、彼のように身体が小さく女性にも見える少年が選ばれる。

そしてこの少年は、キアナルーサを乗っ取っているランドレールに呪われ、城から放り出された少年だった。
彼自身、かけらを設置することにになんの目的があるのかは知らない。
ただ、割れた花瓶のかけらに王子が自分の血をこぼし、町を囲うように設置せよと命を受けていた。

キョロキョロ辺りを見回し、石積みの間に無理矢理挟もうとしてビクッと手を止める。

「はい,…承知致しました。土に埋め込みます。」

人の踏まないところを選び、ランドレールの血のシミが入った面を上に土に押し込む。
そして、見えないように草で隠した。


「おい、そこで何してる」


壮年の男の声に、ハッとして振り向く。
ランプ片手に酔った男は、怪訝な顔をして足下がふらついている。

「旦那様何か?」

少し離れて、使用人のような声が小さく聞こえた。

「よい、お前は先に帰れ。いちいちうるさい奴だ!」

「旦那様、また女ですか。また奥様に叱られますよ?」

「うるさい!帰れ!余計なことを喋るなよ!」

男は腹立たしくそう言うと、こちらへ近づいてくる。

少年は、無言でその場を走り去ろうとして、うっと胸を掴んだ。
頭に響く言葉は、嘲笑に満ちて命令してくる。

「い、いやです…どうか……」

苦悶の声を上げ、耳を塞いで苦しそうに小さく小刻みに息を激しくつきながら、必死で頭を振った。
身体が、思うようにならない。まるで、身体に糸でも付いているようだ。
男のかざすランプの明かりに見ると、自分の吐息に黒いもやが混じり、慌てて口を塞ぐ。

「うう、いやです、お許しを。あの方以外はいやなのです。
私は、決して花売りなどでは……ウッ……」

黒いモヤの出る口を塞ぎ、嫌だと涙をうるませつつ、その場に立ち止まり男の方を向いた。

「おい、浮浪の者か?それとも花売りか?おい!返事をしろ!」

少年が、駆け寄って彼に飛びついた。
男の首に両腕を回し、片足を男に巻き付ける。

「しッ、どうかお静かに」

「な、なんだ?お前…、男の…花売りか?俺は女の方が……」

涙にうるんだ上目遣いの妖艶な微笑みに、思わず男が素っ頓狂な顔をして、少年を恐る恐る片手で抱き、辺りを見回す。
誰もいないのを見計らい、男は少年を抱いて酒臭い息を吐きながら、そのまま小屋の壁に身体を任せた。
グイと足の間に膝を入れ、股間を押し付ける。
顎を持ち上げ、なめるように顔を見ると口づけしてきた。
気持ちの悪い、ざらりとした舌が口の中をくまなくねぶり吐き気がする。

「男もたまにはいいか。」

ベロリと舌なめずりする男は異様に興奮して、そのまま周囲を見回し足を進めてゆく。
土手を降りると長い丈の草に隠れるように少年を押し倒した。
ランプを掲げ、少年のマントをしとねにこちらを向かせる。
白い顔に整った目鼻立ちが、明らかな貴族のような気高さを感じて、男の被虐心をそそった。

「これは良いぞ、上物だ。」

「あ、はあ、はあはあ…旦那様、どうか…どうか、お慈悲を……」

喉から絞り出すような、小さな声しか出ない。
恐ろしさに奥歯がカチカチ鳴り出す。

少年は美しく、月明かりの下で見るそれは中性的な美しさに神々しいまでに輝いている。
少年の目が大きく見開き、男の影が魔物のように視界を塞ぐ。


いや、 いや、 いや!!

誰か! だれか! 助けてええええ!!


王子の狂気に駆られた嘲笑が、耳に響いている。

こんな、恐ろしい事がこの世にあるのだろうか

こんな……こんな……

男の手が、荒々しく少年を蹂躙してゆく。
服を剥ぎ取られ、ざらりとした舌で首筋をねぶられ小さく悲鳴を飲み込んだ。

男の高ぶった吐息が、密やかに興奮した声が、誰もいない草むらに続く。
声にならない悲鳴にさらさらと、静かに流れる小川の水音だけがあたりに響き、空には美しく星が瞬きはじめた。
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