赤い髪のリリス 戦いの風

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24、黒い悪霊からの逃亡

第267話 救いを求める声

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「はあ、はあ、はあ、」

暗闇に、男の息づかいが響く。
少年はとうに意識を失い、だらりと手足を投げ出している。

「チッ、面白くねえ。」

舌打ち、何度も頬を叩く。
叩きすぎて、顔を赤く腫らし鼻血が出ている。だが、男は容赦がなかった。

「うう……」

うめいて身じろぎする様にニヤリと笑う。
だが、男は心の高ぶりに反して身体が急速に衰えていくのを感じていた。

「な、なんだ?身体がだるい。
ウウ、くそっ、こんな、精をやるにはまだまだこんなもんじゃねえ。
まだ、やり足りねえのに。おかしい…なんでだ?」

息をつき、両手を見て驚愕した。

「ひっ!な、なんだこりゃあ!」

それは、見慣れた自分の手では無い。
ガサガサで筋だらけの老人のように肉が落ち、まるですべての水分が蒸発したように生気を失っている。
やがて男の腹の下の少年が、聞いたことも無い暗い声で笑い出した。

「くっくっく、さあ、もっともっとだ、まだ足らぬ。貴様の精をよこせ。
この不埒者の身体で楽しませたのだ、この愚弄。
なんという下劣きわまりない交わりよ、だが気に入ったぞ。
貴様の命をすべて献上せよ。」

「ひっ!」

男が驚いて飛び退き、立ち上がろうとしてひっくり返った。
はずみでランプを蹴って、暗闇の中、這ってその場を逃げようともがく。
少年は意識を失ったまま汚れた姿で四つん這いになり、そして這うように追いかけてくる。

「助けて、助けてくれ……」

ガッと、少年の手が男の足を捕らえる。
身体を掴んで這い上がってくると男に覆い被さった。

「た、助けて……」

「助けよとは異な事を。
貴様はこの不埒者の救いを求める言葉をすべて塞いだではないか。
その口で、今度は助けよと申すか。
ククク…なんと滑稽な事よ。身の程知らずが、下郎、我がかてになるがよい。」

「ひ、ひい!…助け…たすけうぐっ!」

少年は目を閉じたまま、ニイッと笑って男の髪を掴み、その悲鳴を上げる口を噛みつくように塞ぐ。

「うごおおお……が……ああ…………」

男は目が落ちくぼみ、シュウシュウと音を立てて身体が蒸発していく。
それはどんどん身体から精気を奪い、水分を奪い、骨皮になった。
男の身体がカラカラと骨を鳴らして力を失い、バサリと崩れてバサバサと風に散って行く。
生の輝きが黒いもやに飲み込まれ、そして少年の口の中に消えて行った。

「良い、良いな。このくらいの男は若い男よりも邪な気に満ちて生気があふれている。
フフフ、いいぞ、これは良い。

だが……その分、やり方が至極悪趣味だ。
まあいい、こやつも花売りに向いている。自らそうしてきた報いと知れ。
さあ……
次のかけらを配置せよ、早う、疾く、疾く、早うせよ。
町の奴らの精気を根こそぎ奪う、陣を早う敷かねば我は力が足りぬ。
なに、臣民しんみんなどまた増える。
我が糧になる栄誉を与えようと言うだけだ。
今こそ玉座を我が物にするために、好機なのだ。さっさと動け。良いな。」

そう告げたと思うと、少年は突き放されたように頭からドサリと倒れてしまった。
両足の内には血を流し、苦悶に満ちた顔で薄く目を開ける。

「 ……うぅ…… 」

草を掴み、身体を震わせる。
次第に意識を取り戻したものの、身体は鉛のようで動かない。

ああ……痛い……痛い……だれか、助けて………

「うっ、うっ……い…いた…い……うう、おえっ、げえ、うっ、うっ!」

吐きながら、全身の痛みをこらえて、這うようにマントを探して抱きしめた。
鉛のような身体で這い回り、ズルズルと着ていた服をかき集める。

「なんで…… なんで…… 」

死ななかったんだろう。 なんで、生きてるんだろう。

息を止め、痛みをこらえてふらふらと立ち上がる。そして近くの小川の方へと歩み始めた。
足を止め、服とカバンを抱きしめ、ガタガタ震える。
涙をぽろぽろと流しながら、助けを乞いたい人の優しい顔だけが浮かんでは消える。
届かない思いが絶望のように覆って、思い人の微笑みが遠かった。


「セ……アス様、 セリアス様………助けて、助けて……」


花売りなどでは、決してない、無かったのです………王子………

あの方は、ただ、金で自分を買っていたのでは無いのです。

私は、騎士になるのが、小さい頃からの夢で……
でも、私の…小姓の仕事では、騎士など、遠い……
なかなか剣の教えを請う暇のない自分に、ただ羨望の眼差しを送るしかなかった自分に……

気軽に声をかけ、剣を教えてくれた。セリアス様は、憧れの、騎士だったのです。

実家の領地の不作で、苦しい窮状を妹から手紙で受け取ったことを相談したら、快く援助して下さった。
それでも、何かを返したい自分には、この、身体しか無い。
だから、このような事をしなくても良いのだと、 言って下さるあの方に
優しく、穏やかに、 大切に愛して下さるあの方に
身を任せただけだったのに。


息をのんで、歩みを進める。
風が吹き、マントがはためいて、ほどけて飛んでいった。

よごれてしまった
わたしは、よごれてしまった


震える思いを抱えてゆっくりと進む。
なぜか、小川にふわりと輝きが見えた。

沢山の、小さな輝きが飛び交って見える。
それは、精霊の輝きなのだろうか。


ああ、申し訳ありません、セリアス様。
私は、もう、騎士になど、そんな夢など……


ああ…………

助けて……誰か………


「だ……れか、 殺し て、 誰か……

ああ、………セリアス様 もう、私は…… 私は、もう……
どうか、あなたの手で、 殺して

いいえ、私は、もう、あなた様には…… もうお目にかかること など………」

ボロボロと、涙が止めどなくこぼれ落ちる。
ようやく這うように近くの小川まで歩んでくると、持っていたものを川べりにドサドサと落として水に入って行く。
冷たい水の感触が、すべての体温を奪っていく気がして、ガクリと膝を折った。

「 水の  精霊……  私を……… 」

バシャリ

少年は、気を失って水の中に倒れ,そのままゆったりした流れに流されていった。
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