赤い髪のリリス 戦いの風

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25、青の巫子の目覚め

第268話 時が止まったメイス

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イネスが旅立ったのち、レナントの城に残っていたイネスの従者カナンは、眠り続けるメイスの世話にずっと携わっていた。
メイスはルシリアに胸を刺されてから、まるで時間が止まっているように、飲み食いも何も、身動き一つしない。

メイスの胸に刺された短剣は、時間がたつごとに火の色に輝いて、今では夜は神々しいほどだ。
カナンはそれに触れないように、身体をふいて世話をしていた。
刺さっているのに血も出ないこれは、フレアゴートがレナントのルシリア姫に託した物だ。
これを胸に刺すことで、メイスはどうやら異世界で巫子の修行をしているらしい。
背中を拭くのに身を起こしても、剣はびくともしない。
不思議な剣だけれど、見ていると本当に生き返るのか心配なときもある。

カナンが昼食を食べ終わり、食べも飲みもしないで本当に大丈夫かなと、メイスの唇にそっと水で濡らした布を当てる。その時、ドアの外で話し声が聞こえた。

コンコン

ドアが鳴ってカナンが出ると、そこに魔導師のグロスとレナファンが立っていた。

「よろしいかな?」

「はい、まだ、変わりないのですが。」

二人が入って、眠るメイスをのぞき込む。
レナファンが、メイスの額を撫でた。

「予見に、この子が目覚めると出たのだけれど、どうかしら。」

「本当ですか?!では、そろそろ目を開けてくれましょうか。
あ、そうだ。
この火の神から預かった腕輪、メイスには少し小さいのであつらえ直した方がいいでしょうか?」

メイスの傍らに置いている白い布の包みを開いてみせる。
それは、剣と一緒にルシリア姫が預かってきた青い宝石の付いた銀の腕輪だ。
ただ、何故かとても小さくて誰の手にも合いそうに無いほどで、どうしようもなく包んで傍らに置いていた。

「これは…
いいえ、これは精霊が作った物だから人の力でどうこう出来るものでは無いわ。
大丈夫。それより、旅に出る準備をなさい。
この子は目が覚めると、あの子の元へ旅立つわ。
もう一人の火の巫子、リリス殿の元へ。」

コンコンコンコン!

忙しくドアを叩かれ、驚いて3人が顔を上げる。
ドアの外では、見張りの兵がまた困ったように声を上げている。

「姫様!姫様、またこのような所へ!」

姫様という事は、レナント領主ガルシアの妹姫だ。

ルシリア姫は、とにかく頻繁に様子を見に来るので、兄の城主ガルシアが何度かいさめに来た。
そのたびに兄妹喧嘩が始まり、周りはまたかの様相になる。
レナント名物と、沸き立つ兵もいるくらいだ。
彼女は兄と同じで身分の壁など微塵も気にしない。
いつも乗馬服を着て、ドレスを着ない姫だった。

「うるさいわねー、だって見たいじゃない?あの子が起きるとこ!
ねえねえ、グロスたち来てるんでしょ?開けなさいよ。」

コンコンコンコンコンコンコンコン!

もの凄い勢いでノックしてくる。
有無を言わさぬその好奇心に、気圧されてカナンがそうっとドアを開ける。
と、ガッとドアに足先を突っ込み、いつものように上品に微笑んだ。

「ごきげんよう、カナン。
まあ!うふふ、今日もすっごく可愛いわ。ね、中入っていい?入っていいわよね、入るわよ。」

「え、あの、はあ、その………」

返事をする間もなく、ぐいっと身体を押し込んでくる。
魔導師二人は、慣れた物で驚きもせず頭を下げた。

「ごきげんよう、グロス、レナファン。今日は天気もいいわね。」

そう言われても、外は雨だ。

「姫様もお変わりなく、今日も相変わらずお美しい。」

「ま、レナファンお上手ね。あなたも美しくてよ。
それでどうなの?グロス。変化はありまして?
私、毎日見に来てるけど、目覚めの時を見逃したら悔しいわ。
きっとステキな目覚めになるはずなのよ。そうよ、きっとそうだわ。」

一体何を夢見ているのかさっぱりな姫様が、生き生きとした目でグロスに迫る。
グロスは落ち着いて頭を下げ、静かに返した。

「姫様、目覚めは目覚め、たいしたものではございませぬ。」

「あら、夢が無いわ、グロス。だから魔導師は素っ気ないって言われるのよ。
私、短剣刺した張本人でしょ?ちゃんと無事に帰るのか心配なの。
ぜんっぜん、興味本位とか、好奇心とか、そんなんじゃ無いのよ?
そう!とっても心配で!心配で!」

手を合わせて、クルリと回る。
グロスが横を向いて、大きくため息をついた。

「わかっておりますとも、慈愛に満ちた姫様のことですから。」

「でしょ!で、ね、どうなの?レナファン。あなたがいるって事は、予見したのね!」

ウキウキ、目を輝かせてレナファンの手を握る。
彼女が困り顔で途方に暮れて、天を仰いだその時だった。

「邪魔するぞ。」

部屋に、突然ガルシアがやって来た。
姫の顔が微妙にゆがみ、顔をそらしてチッと舌打つのが聞こえる。

「このじゃじゃ馬が、また来ておるか。」

「あら、お兄様ごきげんよう。」

彼の部屋からは結構な距離があるのだが、息が少し弾んでいるところを見ると、誰かが知らせに走ったのだろう。
最近は放っておけと言うのが常だったのだが、ここに来る前レナファンから報告を受けていたので、彼自身もなんとなく興味があってやって来た。
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