赤い髪のリリス 戦いの風

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25、青の巫子の目覚め

第271話 青の火の巫子の誕生

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メイスが顔を上げ目を見開く。
言葉を整理して、唇を開く。

何かが起きる予感がして、皆が身を乗り出した。

「私は、自らのことを語るその前に、許しを請わねばなりません。
私は、たとえ誰に操られていようと、 罪を犯したのですから。

千回謝っても許して貰えないかもしれない。
でも、黄泉の先代マリナ様は仰いました。これから返せば良いと。
だから、逃げずに向き合うことにします。
それでも、 いいですか?」

穏やかに、ゆっくりと真摯に語って真っ直ぐに皆を見回す。
ガルシアも、そして一般の兵も、下女たちも、彼のその前では皆、等しかった。

問いかけに、顔を見合わせ一斉にガルシアを見る。
ガルシアの後ろ姿は、だが微動だにしない。
それは彼自身が許しても、実際に人的被害を受けたのは下々の者だ。
彼らが許せなければ、禍根を残すだけだからだ。
だから誰かが声を上げるのをじっと待っていた。

じっと待つメイスとガルシアに、一人がそうっと声を上げた。

「  お、おう、いいともさ……  」

小さな、小さな声。
しかし、その声がきっかけで、次いで誰かが声を上げる。

「ああ、いいぜ、友達がケガしたけど、あんたに罪は無い。」

「そうだよな。まだ、誰が悪いのかわかんねえ。」

「あんただって片腕無くしたんだ。
俺達レナントの民は、あんた一人を責めはしないぜ。
なあ、御館様。」

皆が、口々に声を上げる。
ガルシアが、フフッと笑ってあぐらをかいた膝をパンと叩いた。

「良し!みんな、いい返答だ。
火の巫子殿よ、国境の民を舐めてもらっては困る。
我らは傷ついても、納得したら許さねばならぬ場所に住んでいる。
この命は軽くない。我らは納得できなければ剣を取る。
だが、時に、この心をなだめて許さねばならぬのだ。

良い、お主の覚悟を聞いた。
罵倒されても頭を下げ続ける覚悟があると見える。
それで良い。
さあ、話せ、火の巫子よ。
レナントの民は心は広いが気は短いぞ。」

メイスが、うなずいてニッコリ微笑む。
言われて、そう言えば左手が無いことを思い出し、右手で下がる袖をさすった。

「この左手は、私の罪を背負ってくれたのかもしれない。
私は、この無くなった手を感じるたびに、自分の行いを思い出すでしょう。」

うつむいた顔を上げ、みんなを見回す。
その顔が、打って変わって明るく輝き、皆が目を見開いた。


「 わたしは! ここに!! 」


メイスが、右手をゆっくりと掲げる。


「 火の巫子が腕輪、青き火の腕輪よ! 」


傍らにあった腕輪が白い布の中でコトコト動き出し、そしてコーンと音を立てて包みから飛び出すと、宙に浮いた。


「僕は…、私は………我は! 火の巫子、 火の入れ物。

青き炎の管理者なり!

青き炎は猛る火を鎮めしずめ、心を鎮めしずめて、ごうの火を納めるもの。
汝と共にあって、それは果たされる。

火の腕輪よ、我が手に戻れ。
汝の在り方を思い出せ。

共に赤き炎を求めに行かん!」


宙でくるくる腕輪が回る。
その腕輪にポッと火が付き、そして青い炎に包まれた。

メイスの伸ばした手に近づくと、青い火は車輪のように回り出し、ポッと真ん中に穴を開けて、そこにメイスの手を通す。
火の輪はどんどん小さくなり、彼の腕に収まると青い腕輪を残して火がメイスの身体に移って行く。

見ている者達がハッと息をのみ、思わず凍り付く。

メイスの腕はボッと火に包まれて、その火は彼の腕から身体へ、そして髪の先、つま先までなめるように進むと消えていった。

「ふうう……  」

大きくメイスが息をつく。
背後の窓の向こうの雲合いから、スッと一筋日が差してきた。

彼の痛んだパサパサの金の髪が、艶めき青みがかった白金に代わり、顔を上げたその瞳の澄んだ青が炎のように輝く。

「 メイス? 」

カナンが、そうっと彼に聞く。
色の変わった髪は、窓からの光が当たると美しくブルーに輝き、まるで彼が光を発しているようだ。

メイスはうなずき、そして、あっと小さく笑って首を振った。

「私は、メイスという名から、青の巫子マリナ・ルーを受け継ぎました。
これは、代々そうなのだそうです。
男も女も、生まれがどうであっても、容姿がどうでも、青の巫子はマリナ・ルー。
それを受け入れます。
皆様、どうぞよろしくお願いします。」

メイスが、新しい青の巫子マリナ・ルーが、立ち上がってぴょこんとお辞儀する。
思わず、呆然と座って見ていた一同が、慌てて立ち上がりお辞儀して返した。


それは、この300年、誰も見ることが出来なかった火の巫子の誕生の儀式。

赤と青の火の巫子の一人、青の巫子の誕生の瞬間。

その場にいたすべての人々の心に大きな衝撃を与え、そしてそれほどの強烈な印象を与える非現実的な奇跡。
ガルシアは、なぜ生まれる赤い髪の子を殺してまでも火の神殿の再興を王家が拒み続けてきたのか、その理由をすべて理解できたような気がした。
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