281 / 303
25、青の巫子の目覚め
第279話 お帰りなさい
しおりを挟む
すねるイネスの隣で、リリスがお茶を一口飲む。
リリスにとって、彼がいてくれることだけで心強いのに、彼にとってはそれだけでは不満なのだろう。
「ずっとお会いしたかったのに、癒やしの術の効果なんて、些細なことではありませんか。
イネス様の癒やしはとても心が落ち着きます。」
そう思うのだが、イネスにとってはリリスが遠くなったようで辛い。
それは彼にとって大きな問題で、ヴァシュラムの言った「魂の双子」という言葉が、一人じゃ無いような気がしてずっと嬉しくもあったのだ。
「もう!どうせ俺なんか!地の巫子だし!全然違う巫子だし!
どうせお前の半身にはなれないんだ!」
じたじた地団駄ふんで、椅子にコロンと横になる。
クスンと鼻をすすって、涙がつうっと横に流れた。
「チチチ、いじけちゃった!」
リリスがペロリと舌を出して、指をさしだしヨーコ鳥をとめる。
頭をそっと撫でながら、彼女に語りかけた。
「フフフ、リリスの兄様は本当に頼りになるので、たまには泣き虫でも良いのです。
巫子としての半身は青の巫子ですが、私の大切な兄様はこの世でただお一人なのですから。」
ガバッとイネスが飛び起きた。
うるうるした目でリリスを見て、ぎゅうっと彼を抱きしめる。
「リリ~、お前はぁ~、ほんと、もう! くそう! くそう!
なんてずるい奴なんだ。もう! 俺はお前の兄だから泣かないぞ! くそう! 」
ギュッと抱きしめられて、大きく息をついて抱き返す。
イネスはいつもいい香りがする。
それがどこか懐かしいような気持ちがするのは、代々地の神殿とはもっとも親しく、持ちつ持たれつの関係だった火の神殿の巫子たちの記憶のせいだろうか。
やっと、イネスを兄と呼べたことにホッとする。
自分はもう、下働きの使用人ではない。
自分はもう……
「巫子殿! ビックリする奴がきたぞ!! 」
薪割りしていたブルースが、斧を持ったまま息を切らして部屋に飛び込んできた。
嬉しそうに斧を振り上げるその姿があまりにも物騒で、二人が思わず抱き合ったまま立ち上がった。
すかさずサファイアが二人の前に出る。
「あっ! すまん、慌てたもので斧まで持ってきてしまった。」
ブルースが慌てて斧を部屋の端っこに立てかけて置いた。
「相変わらずおっちょこちょいですねえ、ブルース殿は。
巫子様、お久しゅうございます。私のこと、覚えておいででしょうか? 」
ミランがそう言って、二人に向かって頭を下げた。
きょとんとするイネスから離れ、リリスが小さく悲鳴のような声を上げて彼に駆け寄る。
そして、彼の手をギュッと握り、声も出ない様子で彼に抱きついた。
「うう…… これは、これは夢でしょうか? 」
涙が、次々とこぼれる。
本城でリリスはさらわれた後、ミランがケガをして城に残ったことを聞いて、自分のためにケガをしてしまったことを、心の底でひどく悔いていた。
もしや、何か障害が残るのではないか、騎士をそれで廃業してしまった人を知っているだけに、それが心配で、心配で、彼の運命まで変えてしまったのではと、ずっと心配だった。
「ご立派になられましたね。」
ミランが彼の足下に膝を付き、胸に手を当て頭を下げる。
「巫子様、このミラン、長く離れていたことをお詫び申し上げます。
ケガは城の医師と魔導師殿のおかげですっかり治りました。
運良く私は元のように腕も動きますし、身体も以前と変わりません。
またおそばで守りにつくことをお許しください。」
リリスが離れて涙をふき、頭を上げた彼の顔を見る。
「また、ケガをするかもしれません。」
「承知の上でございます。」
「私は、危険なことにも首を突っ込むたちです。」
「存じております。何なりと、お申し付けください。
私はいつでもあなたの盾となり、剣となりましょう。
ですが、あなたはもう巫子です、代われる者ののいない事を心に留め置き下さい。」
リリスがうふふと笑って涙をふく。
自分に命を預けてくれる。その重さを感じて、一つ大きく深呼吸した。
「騎士様、ミラン・リール様、お帰りなさいませ。
どうぞ、こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。」
「ありがたき幸せ。ミラン・リール、ただいま戻りました。」
互いにお辞儀した後、ミランが周りを見回す。
「風様の… お母様のお姿が無いようですが。」
「母様は、シールーン様から何か頼まれたそうで、お出かけになられました。
フレア様を探しに行くと仰ったのですが、私は探さずともいいような気がして……
指輪があると、もっとはっきり存在がわかると思うのですが、まだボンヤリしています。
うーん、もしかしたら、フレア様ご自身が、ご自分の気配をお隠しになっているのかもしれません。」
「なるほど、皆様動いていらっしゃるのですね。それで、一つお話が。」
早速話を持ち込んだ。
セリアスのことだ。
「リリス様に、巫子様にお話があるのです。
一人の騎士がたいそう困っているのですが、それがどうも何か引っかかって…… 」
「なんでしょう? ちょうど地の巫子様もいらしています。
あちらで一緒にうかがいましょう。」
ガタン
「あ、ホム…… きゃっ!」
二人がイネスの前に行こうとしたとき、ホムラがいきなりドアから飛び込んでくる。
リリスとミランの間に滑り込むと、リリスを片手に抱いて飛び退き、腰の短剣に手を回した。
「その方、何者か? 」
「え? えーと、こちらは…… 」
ミランが立ち上がろうとすると、身体が動かない。
気がつくと左右に白装束の男が立ち、顔の前垂れの奥からギロリとにらみ付けた。
リリスにとって、彼がいてくれることだけで心強いのに、彼にとってはそれだけでは不満なのだろう。
「ずっとお会いしたかったのに、癒やしの術の効果なんて、些細なことではありませんか。
イネス様の癒やしはとても心が落ち着きます。」
そう思うのだが、イネスにとってはリリスが遠くなったようで辛い。
それは彼にとって大きな問題で、ヴァシュラムの言った「魂の双子」という言葉が、一人じゃ無いような気がしてずっと嬉しくもあったのだ。
「もう!どうせ俺なんか!地の巫子だし!全然違う巫子だし!
どうせお前の半身にはなれないんだ!」
じたじた地団駄ふんで、椅子にコロンと横になる。
クスンと鼻をすすって、涙がつうっと横に流れた。
「チチチ、いじけちゃった!」
リリスがペロリと舌を出して、指をさしだしヨーコ鳥をとめる。
頭をそっと撫でながら、彼女に語りかけた。
「フフフ、リリスの兄様は本当に頼りになるので、たまには泣き虫でも良いのです。
巫子としての半身は青の巫子ですが、私の大切な兄様はこの世でただお一人なのですから。」
ガバッとイネスが飛び起きた。
うるうるした目でリリスを見て、ぎゅうっと彼を抱きしめる。
「リリ~、お前はぁ~、ほんと、もう! くそう! くそう!
なんてずるい奴なんだ。もう! 俺はお前の兄だから泣かないぞ! くそう! 」
ギュッと抱きしめられて、大きく息をついて抱き返す。
イネスはいつもいい香りがする。
それがどこか懐かしいような気持ちがするのは、代々地の神殿とはもっとも親しく、持ちつ持たれつの関係だった火の神殿の巫子たちの記憶のせいだろうか。
やっと、イネスを兄と呼べたことにホッとする。
自分はもう、下働きの使用人ではない。
自分はもう……
「巫子殿! ビックリする奴がきたぞ!! 」
薪割りしていたブルースが、斧を持ったまま息を切らして部屋に飛び込んできた。
嬉しそうに斧を振り上げるその姿があまりにも物騒で、二人が思わず抱き合ったまま立ち上がった。
すかさずサファイアが二人の前に出る。
「あっ! すまん、慌てたもので斧まで持ってきてしまった。」
ブルースが慌てて斧を部屋の端っこに立てかけて置いた。
「相変わらずおっちょこちょいですねえ、ブルース殿は。
巫子様、お久しゅうございます。私のこと、覚えておいででしょうか? 」
ミランがそう言って、二人に向かって頭を下げた。
きょとんとするイネスから離れ、リリスが小さく悲鳴のような声を上げて彼に駆け寄る。
そして、彼の手をギュッと握り、声も出ない様子で彼に抱きついた。
「うう…… これは、これは夢でしょうか? 」
涙が、次々とこぼれる。
本城でリリスはさらわれた後、ミランがケガをして城に残ったことを聞いて、自分のためにケガをしてしまったことを、心の底でひどく悔いていた。
もしや、何か障害が残るのではないか、騎士をそれで廃業してしまった人を知っているだけに、それが心配で、心配で、彼の運命まで変えてしまったのではと、ずっと心配だった。
「ご立派になられましたね。」
ミランが彼の足下に膝を付き、胸に手を当て頭を下げる。
「巫子様、このミラン、長く離れていたことをお詫び申し上げます。
ケガは城の医師と魔導師殿のおかげですっかり治りました。
運良く私は元のように腕も動きますし、身体も以前と変わりません。
またおそばで守りにつくことをお許しください。」
リリスが離れて涙をふき、頭を上げた彼の顔を見る。
「また、ケガをするかもしれません。」
「承知の上でございます。」
「私は、危険なことにも首を突っ込むたちです。」
「存じております。何なりと、お申し付けください。
私はいつでもあなたの盾となり、剣となりましょう。
ですが、あなたはもう巫子です、代われる者ののいない事を心に留め置き下さい。」
リリスがうふふと笑って涙をふく。
自分に命を預けてくれる。その重さを感じて、一つ大きく深呼吸した。
「騎士様、ミラン・リール様、お帰りなさいませ。
どうぞ、こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。」
「ありがたき幸せ。ミラン・リール、ただいま戻りました。」
互いにお辞儀した後、ミランが周りを見回す。
「風様の… お母様のお姿が無いようですが。」
「母様は、シールーン様から何か頼まれたそうで、お出かけになられました。
フレア様を探しに行くと仰ったのですが、私は探さずともいいような気がして……
指輪があると、もっとはっきり存在がわかると思うのですが、まだボンヤリしています。
うーん、もしかしたら、フレア様ご自身が、ご自分の気配をお隠しになっているのかもしれません。」
「なるほど、皆様動いていらっしゃるのですね。それで、一つお話が。」
早速話を持ち込んだ。
セリアスのことだ。
「リリス様に、巫子様にお話があるのです。
一人の騎士がたいそう困っているのですが、それがどうも何か引っかかって…… 」
「なんでしょう? ちょうど地の巫子様もいらしています。
あちらで一緒にうかがいましょう。」
ガタン
「あ、ホム…… きゃっ!」
二人がイネスの前に行こうとしたとき、ホムラがいきなりドアから飛び込んでくる。
リリスとミランの間に滑り込むと、リリスを片手に抱いて飛び退き、腰の短剣に手を回した。
「その方、何者か? 」
「え? えーと、こちらは…… 」
ミランが立ち上がろうとすると、身体が動かない。
気がつくと左右に白装束の男が立ち、顔の前垂れの奥からギロリとにらみ付けた。
0
あなたにおすすめの小説
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜
影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。
けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。
そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。
ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。
※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。
〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。
江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。
幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。
しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。
それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。
母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。
そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。
そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる