赤い髪のリリス 戦いの風

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25、青の巫子の目覚め

第280話 上に立つ者の心得

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グレンとゴウカが、ミランの両脇に立ってにらみをきかせる。

「ひいぃ、なんですかこちらの方々はっ?!」

ドッと冷や汗で、なんだかもの凄いプレッシャーを感じる。
リリスがため息をついて、ぶんぶん首を振った。

「お待ちを!待ってください、ご紹介を!
ミラン様、こちらは災厄の時代から眠りにつかれていた火の神官の方々です。
ホムラ様、グレン様、ゴウカ様、こちらはレナントからずっとお供くださったミラン・リール様です。
ケガをされて、城で養生されていました。だから、怪しい方ではありません。」

とは言っても簡単に引き下がらない。

「赤様はお下がり下さい。」

ホムラがリリスを降ろして前に立つと、ミランに向いて前垂れを上げ、獣の顔で歯をむいた。
相手がミスリルと知って、ミランが真顔になる。
それでも、彼に味方が増えていることは嬉しかった。

「その方、城からの間者ではなかろうな?」

ホムラが腰から短剣を抜き、ミランに向ける。
ミランは両手を広げて手を上げた。

「剣に誓って、私はリリス殿の騎士である事を曲げておりません。
貴族の方にも何人かお会いしましたが、ご依頼などレナントの騎士道に反するとすべて断りました。」

「依頼とは?」

「リリス殿の暗殺、協力者や動向の密告です。
そんな物するくらいなら、私は剣を捨てて町で果物でも売っていた方がマシです。
私は、リリス殿をお守りするために旅に同行致しました。
どうか神官の方々、今後の同行をお許し頂きたく存じます。」

神官たちが、目配せする。
ゴウカがうなずいて前に出ると、ミランに向けて手を伸ばす。その手の表面から、煙のように灰が巻き上がった。

「なりません!ゴウカ様!」

リリスの叱責に、ゴウカの手が止まる。思わず手を引き、リリスに向けて頭を下げた。

「し、しかし、我らはまだ信用できぬのです。彼に監視を付けることをお許し下さい。」

「いいえ、仲間に監視はいりません、信用するのです。彼がそれでも裏切るというのなら、それは私に責があります。」

「そう仰いましても、我らは……!」

「わかっています、それはすべて私を守る為であると。
でも、私は…これまで、甘いと言われても人を信じて進みました。
人と人が互いに信じ合うことは大切なのです、たとえ一瞬でも疑うことは、その関係に溝を作ります。
信じるに値する人を見極めるのです、人の心変わりは必ずわかります。」

グッとゴウカがうろたえて手を引く。
人を見ることまで踏み込んだことはない。
ミスリルである自分は、人から一歩間を置くことばかりを気を配っている。

どうしたものかと、神官たちが判断に揺れる。
イネスがその様子にククッと笑った。

「ククッ、リリは厳しいね。自分にもっとも厳しい者が、周りを見れば皆甘く見える。
リリを守りたい者にとって、リリの要求をすべて呑むのは難しい。
神官たちよ、それはきちんと線を引いた方が良い。」

長椅子に座ったままで、横で聞いていたイネスがクスクス笑ってそう言った。
リリスが、クルリと振り向いて、口を尖らせる。

「だって、イネス様、監視付けられるなんて、嫌じゃないですか?」

「監視は時に必要だ。それで溝が出来るようなヤワな関係なら、いずれ壊れるという事さ。
神官たちは、これから二手に分かれる微妙なタイミングだ。
彼らの不安に、心を配ることを忘れているのはリリの方だよ。
それにね。
彼らミスリルの力を過信してはならない。彼らもまた、人であるのだ。
かつての主を守り切れずに亡くした上で、リリの前に立っていることを忘れてはならないと思う。
もう2度と悲劇を繰り返したくないと、彼らは彼らで万全を尽くしたいのだ。
リリは人の上に立つって言う事、勉強した方がいいと思うな。
あー、そうそう、
リリはその石みたいな頭をこの酸っぱい葡萄でも食べて柔らかくするんだね。うー酸っぱい!」

ガーーーン!!

リリスが、イネスに説教されて真っ白になった。
そう言えば、彼らに対して心を配ることを忘れていたような気がする。
神官たちがあまりにも凄い力を持っているので、これくらいは出来るはずだという基準をどんどん上げていったような、そんな自分勝手な判断を押しつけているのは自分の方なのか。

はあ~~~~

大きなため息をついて、リリスがクルリと振り向きゴウカにぺこりと謝った。

「確かに、私の思う理想を押しつけたのは私の方です。申し訳ありませんでした。」

「えっ!ええっ!!あわ、わた……しは、あの、えと……」

なんと返せばいいのかわからない。
謝られるなんて、初めて体験する事に、今度はゴウカが真っ白になって立ち尽くす。
リリスは次にミランに向けて頭を下げ、彼もポカンとしてそれを見ていた。

「申し訳ありませんミラン様、彼らと分かり合う時間が少ない今、彼らの不安の払拭のために……」

「巫子殿」

「え?は?はい」

「あなた様は相変わらずでございますね。
あなた様は我らの頭となる方です、そのように軽々しく頭を下げてはなりません。
それは結果的に、あなたに付く我らに恥をかかせることになってしまいますよ?
もうそろそろ、下の者を呼び捨てにしていい頃だと思います。」

「え?ええ、でも……」

「あと、私へのお気遣いは無用です、どうぞ監視でもなんでも付けて下さい。
私に後ろ暗いことはまったくございませんので、無問題でございます。
さあ、ご命令下さい、ミラン、お前に監視を付ける!と。」

ええええええ!!それは、それは、なんと言う難題。

うう、うううう、リリスが、唇を噛んで振り返りイネスを見る。
イネスは、ニイッと笑って葡萄をつまみ上げ、顔の横でゆらゆらさせる。
つまり、頭を柔らかくしろと言う事だろう。
バッとミランをにらみ付け、心の中の葛藤と戦いながら、ヨシと気合いで叫んだ。

「ミ、……ミ、……ミラン!!………様………」

「様は無しで。」

「ミ、ミ、ミ、ミ、ミラン!!……………さ……ま………」

「ミラン!!とお呼び下さい!」

は、はあ、はあ、はあ、はあっ、はあっ!言うんだ、言うんだ!言い捨てるんだ!!

はあっ!はあっ!はあっ!はあっ!あああああああああ

「む、…………無理………… 」

ガクッと、その場に崩れ落ちた。
ええええ!!ミランがビックリして数歩退く。

「凄い刷り込みですね、城の悪意をまともに刷り込まれているではないですか~ 」

リリスが、ううっと手を握りしめて悔しそうに呟いた。

「だって、だって、生まれてからずっとなのです。
様付けないと、ムチでバシバシ…… いや、忘れて下さい……

…… お願いです、様までお名前のうちに入れてください。」

「え、それはちょっと、いかがなものでしょうか。
でも、あなた様にはもう少しお時間が必要なようですね。
でも、出来ますれば城にまた上がられる前に、様をお捨て下されば幸いでございます。」

ミランがチラリとガーラントを見る。
ガーラントが、苦笑いでうなずいた。
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