赤い髪のリリス 戦いの風

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26、水の国の悪霊憑き

第291話 水の巫子イルファ

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少女の怒鳴り声が清明に水盤から響き渡り、皆が思わずのぞき込む。

「え?どなたでしょうか?うぷっ!」

イネスがリリスの口を塞いで、水盤をチラリと見る。
水盤の水鏡に、慌てて傍らの布をバタバタと頭からかぶる少女の姿が映っていた。

『 ちょっとあなた! イネスじゃなくって?! あの性格わっる~い地の巫子ね?!
くっ、何よ、よく私の前に顔を出したわね。
巫子はね、顔じゃ無いのよ! 顔じゃ!

そっちの子はなに? 』

薄物の上着をかぶって袖をアゴの下で縛り、チラリと控えめにリリスを向く。
そして水盤いっぱいに顔をのぞかせ、じいっとマジマジリリスを見つめる。
大きくため息をつくと、偉そうに腕を組んで反っくり返った。

『はぁ~あ、へー、へー、美少年は美少年のお友達なんだー。
あーーーー嫌な奴! ほんと嫌な奴! 』

いきなり怒りだす変わった女の子に、イネスが顔を背けてため息付いた。

「あー相変わらずひねた奴、顔じゃ無いって言うなら顔隠す必要ないだろう?
リリ、この自分の顔が大嫌いな女の子が水の巫子イルファだ。

イルファ、この、もう一人の、びっ! しょうねんがっ! 火の巫子のリリだ。
なんでだろうなー、やっぱ巫子は顔だなー。」

『な、な、なんですってえええ!!
どうせあたしなんか、あたしなんか、普通の平凡ボンな顔よ! 』

イルファが、わなわなと手を震わせる。
突然手を水に突っ込み、バシャバシャかき混ぜた。
それでも水鏡が途切れないのは、さすが水の巫子だからだろう。

プイと離れて揺れる水の中、小さくなった彼女の横顔に、リリスが嬉しそうにイネスの手から離れて一礼した。

「あの、あの、私はまだ巫子では無いのです。
水の巫子様、お会いできて嬉しゅうございます。
私は、リリス、リリス・ランディールと申します。
今、とても困っていたので、水月の剣様に繋いで頂いたのです。
お許しも得ずに、大変失礼を致しました。」

静かに頭を下げるリリスに、イルファが顔を向ける。
また水鏡の前に座って、小さく首を振った。

『 いいわ、許します。
水鏡において、水月の剣は優先される。
さあおっしゃい、なにに困っているの?新顔の巫子さん。』

「ありがとうございます。
実は、魔導師の塔の方に連絡を入れたいのです。
今、……」

『 しっ! 水の中で私の手を握りなさい。心話の方が早いわ。』

そう言って、彼女が水に手を入れ、リリスがイネスの顔を見る。
イネスがうなずいて、リリスがそっと水盤の水に手を入れた。
水の中で、柔らかい手が触れて、その手が戸惑うリリスの手を握る。

“ 私に心を開きなさい、あなたの記憶を追うの ”

記憶を?

“浅い記憶よ、最近のね。大丈夫、深く探ったりしないわ。
私に伝えたい事を思いなさい、その思いが強いほど伝わるから”

リリスがうなずいて目を閉じ、地下で起きた事から、そして追ってきた兵のこと、水の精が保護している少年の事を順を追って考える。

これで伝わるのかな?
ちょっと色々と雑念が交じってしまった。
最近色々ありすぎて、頭が混乱する。

首を少し傾げ、目を開いて水鏡を見る。
水鏡のイルファが、小さくうなずいた。

『わかったわ、塔にいるシャラナには私から連絡入れてあげる。
精霊の国のお話し、ちょっと厄介だわ。この件は私も力になりましょう』

「えっ!! 引きこもりのお前が出てくるって?! 」

イネスの驚愕に、イルファが憤慨してイネスを指さす。
その指がブルブル震えて、水がゆらゆら揺れた。

『 お前って誰よ、あなたも来なさい白頭! 一度その口かきむしってやるわ! じゃ、ね!』

「あ、あ、はい、ありがとうござ…… 」

リリスがお礼を言う間もなく、水鏡が消えた。
呆然とイネスを見ると、イネスがひょいと肩を上げリリスの肩をパンと叩く。

「水のも来てくれるそうだぞ、良かったな、リリ。」

えーと、そんな爽やかに言われても、何か凄いものを見た気がする。
え? 水の巫子様って、神殿の奥に秘密に覆われた、凄く神秘的なものを思っていたのだけれど、なんか普通の女の子だったし。

いきなり始まった巫子同士の喧嘩に、夢の壊れた感じのリリスはなんだか呆然とするしかなかった。



と………

そんなやりとりがあり、イルファは早速シャラナに連絡を入れてくれた。

「イルファって、あの引きこもり巫子が?? 」

ニードが思わず落とした杖を拾いながら問う。
水の巫子は引きこもりで有名だ。
顔さえまともに見た人は、神殿に行ってもほんの一握りしかいない。
神事にも民衆の前には神職しか姿を現さず、表に出る時は顔には分厚いベールをかぶせて側近に手を引かれて出てくる。
わかるのは、若い女って事くらいだ。

「失礼ね、巫子は簡単に人前に出ないものよ。
だいたいおたくの地の巫子って何よ、なんで4人もいる訳? 」

カチンときたシャラナが言い返す。
だが、その言葉は地の人間には禁句だ。

「えー、その件に関しては、回答不可で。1人は地龍だったし。」

「で? それで、巫子直々にどんなご依頼なんだ? 」

興奮したシャラナに、ルークが冷ましたハーブ茶を差し出す。
それをグッと飲み干して、ほうっといつもの冷静なシャラナに戻った。

「お茶、ありがと、落ち着いたわ。
巫子殿が聞いた話だと、いわく付きの人間が一人、あとその子の知り合いが一人精霊の国に行ったらしいのよ。
二人を水の精霊が預かっているから、道を作ってくれって。
それがどうも、一人は、ほら、先日首になったって言う、王子の小姓だったらしいの。」

「ああ、あのうわさの。なんで精霊の国なんか……
で、いわく付きって? 」

「どうも、なにかが憑いているらしいわ。
精霊の国は人間界と別次元よ。恐らくあの王子が関連しているとしたら、王子の監視からは逃れているんじゃ無いかしら。」

ルークが大きくうなずいた。
これは当事者から、はっきりした事が聞けるかもしれない。
やもすれば、証言者にもなり得る。
火の巫子を襲った、彼らが連れ帰ったらしい兵からも証言は聞けたのかも興味がある。

「よし、わかった。城下へ下る許可を出す。
彼らからも話を聞きたい、急いで準備しよう。よかった、これで堂々と繋ぎが付ける。
何しろ向こうに地の巫子がいるってのは心強い。」

「地の、第1巫子かしら、第2巫子かしら? どっちも凄くきれいな子よね。
近くで見られるなんて、光栄だわ。」

ウキウキするシャラナの横で、ルークが急に忙しそうにバタバタし始める。
それを横目に、ニードがのんびりシャラナに囁いた。

「なー、美少年だからって、うちの巫子に手、出すなよ?」

「あら、魔導師に色欲は邪魔なだけだわ。でも、目の保養は必要よ? 」

プッとニードが吹き出して彼女に親指を立てる。
今度はシャラナがプッと吹き出して、触媒について相談し始めた。
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